小泉花恋振り返り2:オリジナル曲
2015年の夏に小泉花恋を受け持つことが決まり、ソロデビューが9月。カバー曲をやりつつも、「何をもって上野のご当地アイドルを名乗っているのか」という後ろめたさがありました。
なので、「私は上野のご当地アイドルです」と自己紹介代わりの曲を作ることに。「曲の通りに歩くと上野をぐるっと一周できる」という構想ありきで、10数年ぶりに五線譜ノートを引っ張り出し、バババババッと手書きで作曲。詞もGoogleマップとにらめっこしながら書き上げました。
「3歳から習ったソルフェージュ(特に聴音・新曲視唱)とド下手なピアノがこんなところで活きてくるなんてな〜」なんて思いながら作曲したわけですが、アイドルプロデュースをしていると、「あの時のあのスキルがこんなところで!」ということが多々あったので、これは序の口に過ぎませんでした(笑)。
私はトラックが作れないので、編曲はシンガーソングライターの方にご依頼しました。私もアイドルプロデュースをするまでよくわかってなかったのですが、
・作曲→主旋律を作る(印税が入る)
・編曲→前奏・伴奏・後奏、つまり主旋律以外のトラック全てを作る(印税が入らない)
編曲は曲調を決めるところから前奏後奏まで作るという負担が大きいわりに、印税が入らないのです!!!この仕組みのことをよくわかっていなかったので、最初のトラックを作ってくれたシンガーソングライターさんに対しては、「安い値段で依頼されて印税なしって旨味がないよな…」と少しだけ申し訳なく思っています(もちろん編曲だけの依頼だから、印税なしは合意のうえだけど)。
当時の小泉花恋の歌唱は毎回鳥肌が立つほど(例えじゃなく本当に)音が外れていたので、王道のアイドルポップスは難しいと考えました。ポップスはトラックの音が少ないので、歌唱力が如実に出てしまいます。グループであれば全員が音を外していても、平均化されて正しい音に聞こえるのですが、ソロは逃げ場がない。なんとかソロでも成り立たせる必要がありました。
そこで本人が「Perfumeが好き」と言っていたことをヒントに、テクノポップやエレクトロ路線に舵を切ることを決断。テクノポップやエレクトロであれば、音が厚いので生声が目立ちづらく、レコーディングで音の補正をしたときに、ケロケロさせてもかわいい印象を与えます。それと私に、ハウスとテクノからDJを始めたというバックグラウンドがあり、他ジャンルと比べると善し悪しが判断しやすいというのも理由のひとつでした。
そんなこんなでできた初のオリジナル曲「上野でデート」。かわいいテクノポップのトラックとは裏腹に、詞のなかに固有名詞を大量にぶっ込んで、耳をキャッチしようと考えました。というのも、地底のライブで見た、自分の推しグループ以外ステージに背を向けて座り、スマホをずっといじっている人を、どうしても振り向かせたかったのです。
上野の名所など固有名詞が曲のなかにあると、違和感が生まれます。違和感はステージへの目線となり、そのとき初めて「この子いいじゃん!」と好きになってもらえるのです。どんなに素晴らしいパフォーマンスや曲だったとしても、見てもらえないと好きになってもらえない。そのため、小泉花恋のオリジナル曲と振付は、超正統派なビジュアルとメンタルの本人とは裏腹に、一貫して「少し変」です。
キラーソングとなった「パンダとダンパ」はまずタイトルが変(私が書いたんだけど)。ダンパはパンダを逆から読んだだけだし、ダンスパーティーの略語で死語。歌詞をよく見ると荘子の「胡蝶の夢」みたいな文学的なことも言ってるし、佐々木喫茶さんの喫茶節バリバリのトラックはどこか中国チック。これに安里エル先生のコミカルな振付が乗ります。極めつきは、「パンダ!」と叫ぶだけのパンダMIX。すごく変な曲なんです。
「変」ってネガティブに聞こえるかもしれないけど、似たものが少ない、つまりオリジナリティがあるということ。オリジナリティは「小泉花恋でしか得られない何か」を作り出すし、違和感から入ったものは、そのことを考える時間を生むので忘れにくいと思います。
「少し変」と同時に大事にしたのが、オリジナル曲によって小泉花恋のキャラを強固にすること。正直なところ、小泉花恋はあまりキャラが強い子ではありません(女の子の胸をわしづかみがちという変なところはあるけど)。芸能をやっていくなら「○○の子」と呼ばれることが売れるためには必要です。そこで、本人が元々持っている要素を増幅するようなテーマでオリジナル曲を作っていきました。
「上野でデート」「おいしい魔法」では上野のご当地アイドルであることを伝え、「パンダとダンパ」「上野大熊猫」ではパンダ好きであることを、「今日、彼女が卒業する。」「#らぶりつください」「ANOTHER WORLD」ではアイドル好きであることを伝えています。
このアイドル3部作についてはまた後日。