こんなにスゴイ! 地図作りの現場
引き続き地図関連の書籍を読了しました。地図といったものがどのように作られているのか、現場を知るにはちょうど良い書籍でした。
大きく分けて、6つの章立てに分かれています。地図製作のプライベートセクターであるゼンリン・インクリメントP・昭文社・Yahoo!の国内4組織。パブリックセクターの国土地理院。そして、世界的な動きであるOpenStreetMap。
■ゼンリン
言わずとしれたゼンリン社です。つい最近GoogleMAPから抜けた事でも話題になりました。彼らは基本的には人手でマニュアルに地図情報を更新しており、全国に約1000人に調査員と呼ばれる人たちが居るそうです。各人が10地区/日ほどを毎日紙の地図を手に歩き回り、手書きで三色ボールペンで修正・加筆をしており、そのデータは北九州のオペレーションセンターへ毎日届けられ、データベースに保存されていきます。調査員の所属する調査拠点は全国に70箇所あり、彼らは社員として毎日ここに出社し、そこから電車や車で日々出かけて行くようです。ご苦労さまです。。
■インクリメントP
あまり耳慣れない企業でしたが、主にカーナビ向けにデータ提供などを行っているようです。前述のゼンリン社とは対象的に、車で全国を走行しながら調査を行っており(90台体制)、データも車両から撮影をして測量しています。カーナビならではの視点かと思いますが、ややGoogleのStreetViewのやり方と似ている気がします。省力化などへの意識も強く感じます。既に画像データが18TB(as of Mar. 2015)集まっているようです。合わせて、MapFanというサービスも展開しており、こちらに寄せられる1000件/月の情報も更新に寄与しているのだとか。ちなみに、SiNDYという別サービスからはYahoo!カーナビへ情報提供をしている関係値のようです。
■昭文社
またマニュアルな組織の話に戻りますが、「まっぷる」マガジンなどの観光ガイドや地図で有名な昭文社です。登山道や高原地図なんかも注力しているようですが、基本は登山家などが実際に歩いて情報集約しているみたいです。ご苦労さまです。。
■Yahoo!
プライベートセクターの最後はYahoo!地図/カーナビです。2004年にアルプス社(地図製作・販売)を買収して内製化に踏み切った歴史がありますが、アルプス社が名古屋の会社だったため、社内の100名以上のうち80名ほどは名古屋拠点なのだとか。ジョブチェンなどのYahoo!社内異動制度でも人気の多い部署のようで、地図のポテンシャルを感じます。ちなみに、Yahoo!地図はゼンリンから、Yahoo!カーナビは住友電工システムソリューション社からデータ提供を受けているそうです。
■技術面
特に他3社では言及なかったですが、Yahoo!地図の章内では、特に技術的なメンションが多かったように感じます。
1.地磁気による屋内ナビゲーション
ビーコンなどが最近は耳にすることが多いですが、ハード端末を設置する許可や手間などがあり、なかなか普及しづらい現実があります。一方で、IndoorAtlas社(@Finland)が地磁気を使った技術を開発していたため、Yahoo!社から提携を持ちかけました。例えば、屋内ショッピングモールなどを、GPSや磁力をスマホの磁気センサーでくまなく収集して歩き回ることで可能な技術で、端末を一定の位置・高さ・向きに保ちながら屋内の電波・磁力を拾いまくる、ということです。ただ、ユーザーによってはジャイロセンサーが無いAndroid端末を持っていたりするため、各デバイス毎でのチューニングは苦労したそうです。
2.役割分担
地図データ・ルート検索などの基本機能は社外で整備する一方で、描画エンジンやUIなどはYahoo!社内の分掌のようです。また、外部からのVICS・ブローブ情報・オービス情報などを新機能として取り込む事も、Yahoo!開発陣サイドの重要な役割です。
3.加速度センサー
スマホ搭載の加速度センサーと活用して、例えばトンネルなどのGPS電波の届かないような場所でも、自車がどこらへんまで移動したのかなど分かる技術を開発中のようです。ただ、前述の地磁気と一緒で、スマホ依存するためAndroidの場合が端末によって難しい点は変わらないようです。
■国土地理院
パブリックセクターの方々がやっているお仕事です。「電子国土基本図」というものを作成・更新・管理しており、それらのデータベースを広く一般に公開するためWebブラウザで表示するサービスとして、「地理院地図」の提供を行っています。地図データベースの更新としては、面的更新・迅速更新の2種類あるようで、後者は高速道路などすぐに地図反映しなきゃいけない情報の更新です。前者は、区画を決めて随時更新を行うようですが、最長で15年放置される場所もあるような書きぶりでした。。
■OpenStreetMap
Wikipediaの地図版とも呼ばれており、2004年にイギリスでスタートした、「オープンでフリーな地理空間情報を草の根の力で作るプロジェクト」のようです。世界中にマッパーと呼ばれる人たちが居て、常に情報をアップしています。UserGeneratedな部分は、ある意味でGoogleMAPと近しい部分もありますが、OSMの場合、基本的にはユーザーが知りたい地図情報を好きなようにアップするため、場所によっては全く更新されていない箇所もあれば、GoogleMAPよりも非常に精度が高い地域もあれば、まちまちのようです。ある意味でブロックチェーン技術のような、中央集権者が居ない自律分散型のサービスイメージかと思います。ビットコインではハードフォークの際の対立などが良くありますが、OSMでも、例えば大手コンビニチェーンの情報を一括でアップロードしたいとなった場合、元々有志から既に登録された一部のコンビニも上書きされてしまうからNGだ、みたいな反発もあるそうです。
調べてみると、既にいくつかブロックチェーン関連のオープン地図サービスはありそうです。位置情報はUSがGPSで握ってきたりする軍需的な隠れた意味合いもあったりするので、奥が深そうで非常に面白そうです。