小泉花恋振り返り4:クリエイティブのこと
小泉花恋の戦略のひとつに、「クリエイティブのクオリティを上げる」というものがあります。クリエイティブに力を入れた最も大きな理由が、「クリエイティブのクオリティが高いアイドルは、規模が大きく見える」ということです。
まずそれを実感したのがホームページ。初期はいろんなイベンターさんに「ホームページを見て、ここの運営/アイドルはしっかりしてそうだと思ってオファーしました」と言われました。1回のライブに来てくれるファンが1〜2人しかいないこともザラだった時代に、大きなライブに出るチャンスが度々巡ってきたのは、ホームページの力が大きかったと思います。
多分、インディーズアイドルの1/3以上はホームページを持っていません。それはブログとTwitterなどのSNSを使えば、ライブスケジュールや注意事項など、スピード感が大事な情報発信なら事足りてしまうから。さらにホームページはSNSと比較すると運用コスト(金銭も労働力も)が高い。ホームページを持っているのに更新しないグループが多いのは、情報の鮮度と発信の手軽さがSNSに劣ってしまうからに他なりません。
でも考えてみてください。興味を持って調べる時に、まず見るのはホームページとWikipediaだと思うんです。ブログとSNSはノイズが多く、ほしい情報にすぐ辿り着くのが大変。でもホームページならコンテンツごとにページがわかれているので、スケジュールならスケジュールを、プロフィールならプロフィールをすぐに読むことができます。
これはファンになる可能性を秘めた「興味がある」程度のライト層と、仕事を発注する人からすればとてもありがたいこと。ほしい情報をすぐに見つけられないSNSやブログは、よっぽどの熱意や目的がないと途中で離脱したくなってしまいます。つまり、ファンと仕事を獲得するチャンスをダブルで逃してしまいかねないということなんです。
ただ、先述の通りホームページの運用は結構大変。そこで多くのアイドルグループはクラウド型のCMS(要はテンプレートである程度形になって、ブログ感覚で更新できるホームページサービス)を使っていると思います。「WIX(ウィックス)」や「Jimdo(ジンドゥー)」などがそれにあたりますが、今ジワジワ増えている印象なのが「Ameba Ownd (アメーバ オウンド) 」です。
小泉花恋のサイトもAmeba Owndですし、私のこのサイトも独自ドメインですが、中身はAmeba Ownd。Ameba Owndを選んだ理由として…
・BILLIE IDLE®が使っている
・初期費用と月額使用料が0円
・知識やスキルがなくても、簡単にサイト構築から運用までできる
・サーバーの準備やソフトウェアの設定の必要がないので、「とりあえず作ってみっか!」というテンションで作れる
・Google Analyticsを入れられる
・独自ドメインが使える
・自由度が低い
Ameba Owndのサービス開始が2015年の3月で、2015年4月デビューのBILLIE IDLE®を始めとしたWACK界隈がいち早くAmeba Owndを導入してて、「CMSなのにオシャレなサイトだな」と思ったのをきっかけに、2015年の8月にAmeba Owndで小泉花恋のホームページを立ち上げました。
Ameba Owndは自由度が低く、いまだにエディター上で文字色を変えることができません(2019年5月現在)。できることが少なくて不自由に思うこともありますが、実はそれこそがAmeba Owndでサイトを作るとオシャレになる秘密だと思うのです。私は「侍魂」などのテキストサイト全盛期を経たネットユーザー。つい強調したい時にはフォントサイズをデカくしたり、文字色を変えて目立たせたくなってしまうのですが、それをやっちゃうとオシャレからは程遠くなってしまいます。機能が制限されたからこそ、しっかりとした印象のサイトになったんです。
デザインのトンマナ
小泉花恋のキャラクターがおっとりほんわかしていることと、ご当地アイドルという特性上、デザインは、「上野感」「スタイリッシュ過ぎない」「少しのスキを作る」「でも見る人が見たらデザインがしっかりしていることがわかる」ことをトンマナに、親近感がわきつつも素人臭すぎない温度感を保つようにしました。
たとえば、小泉花恋のロゴの真ん中の蓮の花(上野の不忍池といえば蓮)は手描きイラストなので、手描きにしか出せない温かみがあります。ロゴの漢字にはパンダが隠れていて、デコラティブだけどクドくなく、楽しさやかわいらしさを表現。小泉花恋のコンセプトはこのロゴに集約されていると言っても過言ではありません。
Tシャツやバッグのデザインは「普段遣いできる」ことを大事にしました。lyrical schoolやMaison book girlなどファッション性が高いアイドルは女性ファンが付きやすく、グッズもおしゃれ。女性ファンが増えるとアイドルの成長曲線が一気に右肩上がるという私の肌感覚もあり、小泉花恋のグッズもファッション感覚で身に付けられるようにしました。
これが一番最初に出したTシャツ。フロントはKAEN KOIZUMIの文字ですが、ぱっと見なんと書いてあるのかわからず、アイドルのグッズTには見えません。これを着ることで、ファンが少しおしゃれで小ぎれいに見えるので、新規が流入しやすい空気ができます。THEヲタTなデザインにして、仲間意識を芽生えさせて結束を強めるのと逆の戦略です。
その代わり、ネックには必ずロゴを入れました。ネックプリントを追加することで、1枚あたりの原価が200円上がるのですが、首元にロゴを入れることで、ライブの時に小泉花恋を知らない人が後ろから見て「今、小泉花恋のTシャツを着ている人が前にいっぱいいるから、小泉花恋っていうアイドルなんだな」と認識できて、知るきっかけに。これはTシャツの原価を上げてでも得たい価値があります。
そんな商売っ気のない貧乏運営でしたが、特典券・チェキ券・サイン券はプラスチック名刺で作ってお金を掛けました。プラスチック名刺の利点として、折って保管されないので再利用ができることまでは予想していたのですが、紙と違って思うように色が出なかったので再現性が低く、複製しづらいのは思わぬ収穫でした。
ポイントカードは厚手の名刺用紙に両面印刷したオリジナル。名前を書く欄を付けることで、来てくれた方の名前を覚えやすくなりました。
こういうちまっとした小物のデザインのクオリティが高いと、「そんなところにまでお金を掛けられる→お金に余裕がある」と思われがちだけど、お金を突っ込むところと切り詰めるところの落差が大きいだけです。お金の話はまた後日。
写真のクオリティ
アイドルは何かと写真素材が必要です。アーティスト写真、ホームページ用素材、生写真、CDジャケット、写真集…それらをカメラマンをアサインしてスタジオを押さえて、レタッチャーに修正してもらうと相当なコストが掛かります。だからといって、白い壁の前でスタッフがスマホで撮った写真を使っていれば、地下アイドルっぽさから抜け出すことはできません。
小泉花恋の写真の多くは私が自宅で、もともと持っていた幅180cmバック紙とスタンド、80cm角の照明2灯、45cm角1灯で簡易スタジオを作って、一眼レフで撮影しています。自主企画のスタジオ撮影だけで4年弱で20回以上、4冊出した写真集の撮影での屋外ロケとは別に取材での撮影が入りますから、アイドルの規模のわりに撮影が相当に多いほうでした。
活動期間に撮った写真のほんの一部。自分の体がキレイに見える立ち方やポージングは、撮られてみないとわかりません。沢山撮影されることで、撮られ慣れてポーズや表情にバリエーションが出てきますし、NGカットが少なくなっていきました。
衣装のこと
小泉花恋は4年弱のソロ活動で30着以上の衣装があります。これは大手アイドルグループレベルの多さです。だからといって、衣装にお金を掛けたわけではありません。小泉花恋の衣装は大きく、
・市販
・お下がり
・自作
の3つに分類されます。
市販の多くはネット通販で5000円以下の商品です。特にBODY LINEというコスプレとロリータ服に強いお手頃な店を活用しました。そのままだと他のアイドルとかぶってしまうので、パンダを縫い付けたり、小物を作ってオリジナル風に。
ソロアイドルは衣装を1人分だけ用意すればいいので、私が過去にハロウィンで着てため込んでいた衣装や、花恋の友人、妹などのお下がりの衣装もリメイクして着ていたりします。本人が高校生の頃から服飾を専攻していて、大学もその道に進んだので、リメイクはほぼ本人が担当。装飾だけでなく、ブカブカな服をタイトにしたり丈を詰めることで、スタイルが良く見えますし、アイドルの衣装らしくなります。
小泉花恋による自作衣装は5着。デザイン画を描いて、パターンを引いて、布を切って縫って形にする…といえば簡単に聞こえますが、一度でも服を作ったことがある人ならわかるはず。めちゃめちゃ大変なんです。
特に評価されたのがパンダの衣装。「上野大熊猫」に合わせて作った衣装ですが、直球でパンダアイドルであることがわかります。NHKの『沼にハマってきいてみた』の「パンダ沼」にもこれを着て出演したので、アイドルのある種の「珍妙なほどに誇張する」ことの大切さを実感しました。