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すずまき*本と、紅茶と、あの頃と。#5

2019.05.18 11:00



#5「谷川史子傑作選・きみのことすきなんだ」×ニルギリのレモンティー


ゴールデンウィークの頃になると、毎年ある人のことを思ってプレゼントを探します。

母の日…ではなく(それももちろん探しますが)、母の日生まれの彼女への誕生日プレゼントです。

もうかれこれ30年以上、お互いの誕生日にはプレゼントを贈りあっています。


彼女と出会ったのはまだ昭和の時代。

わたしたちは大阪のとある街の小学5年生で、わたしはそのクラスの転校生でした。

どういうキッカケで仲良くなったかははっきりと覚えてないのですが、すぐにクラス内でも放課後でもいつも一緒に遊ぶ仲良しの友達になりました。


彼女はその当時から可愛くておっとりしていて、スタイルが良くて洋服や文房具など持ち物もちょっとオシャレな、それでいてお笑いのセンスも抜群(大阪の子なので、そこは非常に重要ポイント☆)という、わたしにとって憧れの存在であり自慢の友達。

ふたりで大笑いして過ごす毎日が、とても嬉しくて楽しくて。


そんなわたしと彼女が当時夢中になっていたのは、「りぼん」という月刊少女漫画雑誌。

今も昔も小学生女子に絶大な人気を誇る、少女漫画の代名詞のような雑誌です。

当時は「りぼん」派と「なかよし」派でほぼクラスの女子を二分していたのですが、わたしも彼女も断然「りぼん」派。

発売日に一緒に本屋さんに買いに行ったり、気になる連載漫画の続きを予想しあったり、ふたりで交換日記方式で「りぼん」風(?)の漫画を描いていたこともありました。


谷川史子先生が漫画家デビューされたのは、ちょうどその頃の「りぼんオリジナル」。

「りぼんオリジナル」は「りぼん」の増刊号的な位置付けの雑誌で、年4回、季節ごとに発行されていたように思います。

そのデビュー作をリアルタイムで読んだわたしは、一気に心を奪われます。

今までの少女漫画とは何か違う、可愛らしく優しいベールに隠された、静かで深い衝撃。

キラキラわくわくドキドキ、少女漫画にありがちなドラマチックな展開ではなく、至極シンプルな日常に存在する切なさや愛おしさを描いた作品に、心を鷲掴みにされてしまいました。

以来、30年以上追いかけて読ませていただいています。

この「谷川史子傑作選・きみのことすきなんだ」には、昭和の終わりから平成のはじめにかけて「りぼん」と「りぼんオリジナル」に掲載された、谷川先生の初期の作品が6編収録されています。


話は戻って、漫画の話ばかりして盛り上がっていたわたしたちですが、その楽しい時間は長くは続きませんでした。

中学2年になる春、わたしは父の転勤に伴い、大阪から岐阜に引っ越すことになったのです。


彼女と友達の関係を終わらせたくなかったわたしは、引っ越してからも懸命に彼女に手紙を書きます。

彼女も頻繁に返事を書いてくれて、月に2〜3回のペースで文通をするようになりました。

会えるのは年に1回くらいで、夏休みになるとお互いの家に泊まりに行ったり、もう少し大人になると一緒に旅行に出かけたり。

会えるのが楽しみ過ぎて、待ち合わせ場所に着くまでの間、はやる気持ちに胸がドキドキ痛くなるほどでした。


年に1度ほど会えるのを心待ちにしていたのは、彼女とだけではなく、谷川先生の作品とも。

谷川作品は(特に初期の作品は)年に1〜2回のペースでしか発表されないのです。

コミックスになるにはさらに時間がかかります。

彼女と別々の生活を送るようになった頃から、「りぼん」を買うのをやめてコミックス派になったので、谷川作品を読める機会は減っていました。

それでもコミックスが発売されるとわかると、発売日までそわそわドキドキわくわく…。


彼女と谷川作品に登場する女の子たちには、なんとなく共通点があるように思います。

谷川作品の女の子たちは、みんな真っ直ぐで凛としていて、ピュアで可憐で清楚で、それでいてユーモラスな面もあります。

彼女もそんな女の子です。

わたしはいつも彼女や谷川作品の女の子たちのような、そんな素敵な女の子になりたいと憧れて憧れて。

自分じゃそうなれないのなら、せめてずっと見ていたい。


なんでしょうこれは。

もう、恋に近いものがありますね。


わたしの想いが通じたのかどうかはわかりませんが、平成を通り抜けて令和になった今でも、彼女とはことあるごとに連絡を取り合っています。

さすがに歳を重ねるにつれて会える回数も減ってきましたが、それでも会うと、離れていた月日が嘘のように、小学生の頃となんら変わらずくだらない話で盛り上がります。

冒頭の誕生日プレゼントを贈りあう習慣もずっと続いていて、今に至ります。

ふたりの中高生のお母さんとなった彼女ですが、相変わらずわたしの憧れで。

わたしも彼女のような、素敵な母であり妻であり女性でありたいと常々思っています。


谷川作品も今もコミックスが発売されると必ず買っています。

初期の作品とは異なり、だんだん大人な作品になってはいますが、登場する女の子の基本的な姿勢は変わらず。

相変わらず真っ直ぐで凛としていて、こんな恋がしたい(…したかった)ときゅんきゅんします。


そんな彼女や谷川作品の女の子たちを想って飲みたい紅茶は、ニルギリのレモンティー。

彼女や谷川作品に出会ったあの頃はまだ紅茶にのめり込む前だったので、紅茶といえばレモンティーしか知りませんでした。

紅茶を勉強するようになって、レモンティーにはニルギリというインドの紅茶がよく合うと知りました。


ニルギリは日本人が「これぞ紅茶!」と思うであろう、渋みの少ないスッキリとした紅茶。

そのニルギリでレモンティーを淹れてみると…なるほど、レモンの爽やかさがより際立つ味わいになります。


この素直な爽やかさ…そしてちょっと懐かしくホッとする感じ…。

そうだ、この感じ、彼女に似ているんだ。

谷川作品の女の子たちにも、通じるものがある。

初恋のような、初夏の緑を風が吹き抜けるような、心をくすぐる爽快感。


この季節になるとニルギリのレモンティーを飲みたくなります。

それは誕生日プレゼントを何にしようか、彼女のことを考える時間が増えるからかもしれません。

同時に初期の谷川作品もふと読みたくなる…。


この記事が掲載される頃、彼女の元に今年の誕生日プレゼントが届くことでしょう。

ニルギリのレモンティーを飲みながら、「きみのことすきなんだ」をはじめとする初期の谷川作品を読んで、彼女からの「届いたよ〜」のメールを待ちたいと思います。


令和最初のプレゼント、気に入ってもらえるかな?



「谷川史子傑作選・きみのことすきなんだ」谷川史子 著
集英社文庫コミック版(2007年)





photo & text by すずまき

紅茶コーディネーター、紅茶学習指導員。
普段は某大学で図書館司書(パート)の仕事をしています。
学生の頃の夢は「良妻賢母な司書の小説家」…とりあえず 
「妻」と「司書」にはなれました。
書くことが好きで、書き出すと止まらなくなります。