Creative Neighborhoods 街と住まい 「さくらガーデン」
第6回
農のあるコミュニティとその暮らし
「さくらガーデン」
(設計・計画:近藤弘文・原 久子 企画・マネジメント:人間性豊かな集住体研究会)
さくらガーデン全景
都市化に伴う人口流入に対応するために国策として進められてきた郊外開発と持ち家政策は、住む(寝る)ために純化されたベッドタウンを生み出し、労働と子育てに追われる暮らしをライフスタイルとしても強いてきた。しかし、現在、多くの郊外住宅地は疲弊し、持ち家は「負」動産化しはじめている。一方で、こうした郊外に近接した都市近郊農地では農家高齢化や耕作放棄農地の拡大などの課題が深刻になりつつある。
横浜市南西端に位置する泉区に2002年に竣工した菜園付きコーポラティブ住宅「さくらガーデン」は、都市周縁部における新しい居住空間モデルとして大変示唆的であり、魅力的である。江戸時代から続く地主農家が受け継ぎ丹精込めて耕作してきた農地が、高齢化のため農業が続けられなくなったことを機に立ち上がったのがこのプロジェクトであった。全部で12世帯、約30人の小さなコミュニティではあるが、子育て世帯から高齢夫婦まで幅広い世代の居住者が隣り合って暮らしている。
さくらガーデンでは「菜園の会」という運営組織をつくっている。ここではトータル約300㎡の菜園を運営していくための基本的な取り決めがなされている。苗や肥料の共同購入、鳥・虫・雑草の共同対
策、耕運機などの共同管理である。特に作付け期には、共同畑の作付け方針や具体的な作業分担等についてが中心的話題となる。この菜園の半分は隣地境界線をまたぎ、そのまま農家宅地に広がっている。地主農家との強い信頼関係の証左である。
休日を中心にそれぞれが思い思いの菜園活動に勤しむが、いわゆる職業農家ではないので、栽培そのものが目的とはならない。育てた野菜を食べることはもちろん、育てる過程での日々の出来事を楽しむなど、判断基準はそれぞれだ。家族からのリクエストや個人的な嗜好もある。できれば隣の菜園とは違う種類の野菜を育ててみようかという意思も働く。結果的にバラエティ豊かな菜園がひとつの住風景として登場する。菜園は一人一人の生活が投影される場として、この街でどんなふうに暮らしていきたいかが映し出されている。この点で菜園は住宅の一部であると言って良い。また、住民たちが主催する食事会や石釜ピザパーティなどのイベントが開催されるなど、隣り合った菜園が住民同士のコミュニケーションの場となっている。
都市近郊での農のある暮らしは、土地の有効活用という観点にとどまらず、血縁家族を超えた共同体を生み出し、ゆるやかに繋ぐ新しい可能性を持っている。
*「都市計画302[特集]都市継承期のコミュニティモデル 公益社団法人日本都市計画学会 2013」に一部加筆
2007年6月ごろの菜園のようす
藤岡泰寛
横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院・准教授(博士[工学])。1973年生まれ。専門は建築計画・住居計画。99年、京都大学大学院工学研究科環境地球工学専攻修了。横浜国立大学工学部建設学科・助手(〜05)、同・講師(〜10)を経て現職。茅ヶ崎市浜見平地区まちづくり協議会委員(〜15)、横浜市バリアフリー検討協議会保土ケ谷区部会長(17〜)。