Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

「IF YOU LISTEN」Charlotte Zolotow Marc Simont

2019.05.10 09:05

愛する人の不在を、どうやって耐え忍べば良いのでしょうか。

心の中に空いた空間を、その愛する人で埋める事ができない時には、何処へ気持ちを持っていけば良いのでしょうか。

欠けてしまったものは、その欠けたもの以外のものでは、もう埋めることが出来ないのは、わかっているのですけれど。

「IF YOU LISTEN」Charlotte Zolotow Marc Simont(1980年)

主人公は一人の少女。その少女の父親は遠くへ行ってしまって、それからもう随分と時間が立ちました。

ある時、少女は母親に尋ねます。

「遠くに行ってしまった人が、お母さんのことを愛していると、どうやって知れば良いの?」

「あなたは、お父さんのことを言ってるの?」

「そうよ。いまは会うことも出来なくて、声を聞くことも出来なくて、私を抱きしめてくれることも出来ないのに、どうやってお父さんが私を愛していると、知れば良いの?」

母親は言います。

「寂しい時には立ち止まって、耳を澄ますの」

「教会の尖塔が見えなくても」

「鐘の音は聴こえてきます」

「もし耳を注意深く傾ければ、歌声は、充分に聴こえるでしょう」

「それかね、」

「あなたが夜寝るとき」

「暗闇の中で周りは何も見えなくなるけれど」

「部屋の外の音が、聴こえるはず」

「遠くの川の、霧の音」

母親は娘に、様々な「耳を澄ますこと」を教えます。

自然の中の音、自分以外のものの音、ずっと遠くの音。

耳を澄ますのは、きっと、時間を、自分以外の世界の音を聴くことなのではないでしょうか。

自分の中の欠けたものは、自分の中に目を向け続けてしまうと、強調されてしまう。

だから母親は娘に、世界の側へ目を向けることを、また、その中にもきっと、父親の愛が溢れていることを、伝えようとしているのだと思います。

シャーロット・ゾロトウの短く、美しいお話が光っている絵本なのですけれど、マーク・シーモントの絵も素晴らしいですね。

「木はいいなあ」や「はなをくんくん」でこの作家に親しみを持っている方も多いかと思いますが、シーモントはこのような絵も描いていたんですね。

シーモントは作品によってだいぶ作風を変えるのですけれど、この絵本ではまた違った一面を見せてくれていて、このお話の持つ美しい寂しさを、母親と娘の愛情を、シーモントはこれ以上ないほど切なく、描き出しています。

こちらの絵本は自分の知る限りでは翻訳もなく(もしされていたら教えて下さい…!)、アメリカでもすでに絶版になってしまっている絵本です。

母と娘の美しい愛情を感じることの出来るかと思います。

ぜひオンラインストアの方でもご覧ください。


当店のマーク・シーモントの本はこちらです。

シャーロット・ゾロトウの本はこちらです。