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須和間の夕日

原発と住環境

2019.05.11 08:48

安全な環境は,人間が住む場所にとって最重要の条件である。健康的であること,快適であることも大切だが,これらは安全の次である。 

安全な環境とは,地震や台風,洪水などの自然災害や火災などから安全であること,健康的な環境とは,公害がなく上下水道・ゴミ処理システムが整っていて,日照,通風環境がよいこと,快適な環境とは,住宅の居住水準,豊かな緑,調和のとれた景観などがあげられる。しかし,これら住環境要素のいくつかは問題が深刻化している。

 まずは,健康的で,快適な環境について考えてみたい。住宅敷地が広く庭が取れれば,日当たりがよく風もよく通る健康的,快適な環境と言える。周辺の建て詰まりもない環境である。 

茨城県は,この住宅敷地面積は全国一位である。戸建て持ち家451㎡,戸建て434㎡,全体425㎡(2013年)だからとてつもなく広い。しかも,二位の山形県を大きく引き離しているから(戸建持ち家428㎡,戸建414㎡,全体で408㎡),茨城県は,胸を張って全国一位の健康,快適な住環境だと言ってもいい。 

なぜ茨城県の住宅敷地面積が飛び抜けて広いのか。その第一の理由は,平地7割,山地3割と,平地割合が大きいという条件があることである。日本全体では山地7割,平地3割,これと対比すればよくわかる。茨城県は,この条件のおかげで広い宅地が確保できた。可住面積率の大きさでは,実は大阪府が一位で,茨城県は二位だが,2府県の大きな違いは大都市の有無である。ここで,第二の理由になるが,茨城県には,住宅敷地面積の最小化に働く大都市がない。小さな住宅敷地が密集する住宅地の典型,木造賃貸住宅密集市街地もない。 

ところが,茨城県が胸を張れるこの住宅敷地面積水準が,年を追うごとに減少している。過去15年間の動きは(1998年に対し2013年),全国では6.6%の減少に対して,茨城県は8.0%の減少である。茨城県の住宅敷地面積減少促進の主要因は,首都圏に近い県南地域の開発と,東京・秋葉原とつくばを結ぶ新線,つくばエクスプレス沿線の住宅地開発であろう。後者の開発は現在進行中だが,その開発面積は想像を絶するような巨大さで,しかも供給されている住宅敷地はお世辞にも広いとは言えない(図)。 

つくばエクスプレス沿線の開発地


開発地で設定されているルールから,その状況をみてみたい。最低敷地面積規定を規定している開発地が少なからずあるが,その数値は135㎡または180㎡のいずれかである。最低敷地面積とは,開発当初の敷地面積は当然,相続や売買時に敷地分割しても,このレベル以上でなければならないという最低ラインの数値である。 

最低ラインの中の最低数値135㎡とはどんな数字か。住宅の延べ床面積を107.31㎡(平成25年住宅・土地統計調査,茨城県平均)と想定し,住宅は総二階建てとすると建物面積は54㎡。敷地面積135㎡には,住宅のほか車2台分の駐車場がつくられるだろうから,住宅(54㎡)と駐車場(25㎡として)に玄関までのアプローチ,住宅周囲の空地を入れると庭は取れない。最低敷地面積135㎡とは,庭がなく緑もない住環境なのである。 

茨城県に住まいを求めてやってくる人々は,緑豊かな田園環境に魅力を感じてやってきている。都市へのアクセスがよいという長所も魅力にあげられている。統計でみる茨城県平均の425㎡は,田園に囲まれた住宅環境が色濃く反映された数値だから,これに照準を合わせた住宅地開発は無理というものだが,それにしても最低敷地面積135㎡,または180㎡という数値は,住環境の質の高い住宅地形成への意欲があまりになさすぎる。 

もう一つの住環境要素の一つ,居住の安全性はいま大変な危機に直面している。災害が多発しており,しかも長期にわたって避難しないといけないような過酷な災害が次々と発生しているからである。近い将来の大震災も予測されている。 

茨城県の大災害といえば,近年では,震災,液状化,津波,水害がある。そして3.11のとき幸運にも免れたが,原発震災の恐怖がある。 

東海第二原発は,被災した老朽原発である。この原発の30km圏には96万人が住んでいる。しかし,事業者,日本原子力発電は,無謀にもこの原発を再稼働させようとしている。もし,東海第二が原発震災の「震源」になれば,避難を余儀なくされ,人の人生のスパンでは元の家には戻れない過酷な災害になる虞がある。私も住まいを追われる一人になるだろう。原発の周辺地域だけではない。原発震災は,広範囲に大きな影響をもたらし,首都圏の人々も確実に巻き込まれる。

 3.11から8年目の2019年3月6日,共同通信が配信した記事「もう一つの3.11」は,北茨城市の一人暮らしの高齢者の例を取り上げている *。住宅は半壊判定のために,再建支援金を受け取れず直後の補修をしたものの数年後,新たな不具合が出てきて,資金もなく不便な不安で生活を強いられているという。被災の後からでてくる住宅の不具合は予想ができない。家電でも,古くなると発煙,発火のリスクが高まるから買い換えを勧められるし,省エネ基準の改定で古いほど経済性も効率性も低下するからやはり買い換えることになる。原発だけがなぜ,被災していても寿命が来ていても延命という選択肢が広く開かれているのだろうか。

 話は変わるが,茨城県は,2018年,6年連続で魅力度全国最下位ということで,どうしたら最下位から脱出できるか,茨城の巷ではよく話題になる。茨城大学では学生の卒論テーマにもなる。理学部の岡田誠さんによれば,地質学からみたら,茨城県には山と温泉という観光資源が乏しいから当然のことだと言う。お酒の席だったが,それを聞いた周りの人間は誰も反論できず,シーンとなってしまった(とはいえ,県民の心の故郷のような山であり,富士山と並んで東京人の心の風景に刻まれる筑波山があるし,温泉もある)。 

山がないということは,見方を変えれば,平地が広がっているということである。地質学からは,観光に行くには魅力に乏しい残念な県ということになるのだろうが,健康的で快適な住まいと居住を追究する住環境計画学からいえば,これはこれで良い条件である。 

しかし,これで安住していてはいけない。今,これら条件の大前提である居住の安全性が重大な危機に直面している。安全な住環境を守り抜くことが求められている。


* 「もう一つの3.11 『在宅被災者』届かぬ支援 壊れた家で孤立,高齢化」山梨日日新聞


(原電茨城事務所前抗議行動「星空講義」3,2019年5月10日)