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台詞と関係性でお客さんを楽しませる。演出家・若松泰弘インタビュー

2019.05.22 08:46

今回研修科の演出を初めて担当される若松泰弘さん。普段は飄々とした掴みどころのない存在感を放つ役者として活躍されていますが、演出ではどんな表情をみせていただけるのでしょう。

若松さんが稽古場で何を考えているのか、今日は紐解いていきましょう、それでは若松泰弘インタビュー開始です!




1.今回の演目のねらい

喜田:今回研修科の発表会で『怒濤』を選んだ理由はなんですか。



若松:一つはしっかりした台本をやらせてあげたほうがいいと思ったこと。台詞を大事にどう伝えるか。お客さんはもちろん、相手役にもどうやって伝えるかっていう基本的な事を真正面から取り組める戯曲だという事です。




影井:若松さんが台詞を大事にするってことが大切だと思ったきっかけはなんだったんですか




若松:そう教えられてきたし、そうだと思うので。そして、ちょっとした加減で芝居くさくなって今のお客さんに対してリアリティを失う事があるので、その匙加減にはいつも敏感でいなきゃと思います。

兎にも角にも舞台は台詞です。

台詞と関係性でお客さんを楽しませるってことは、ギリシャ悲劇のころから変わらない。『怒濤』も然りです。



喜田:怒濤はなかなかたいへんそうな戯曲だと思っていましたがそういう理由だったんですね。


2.演出で得た経験

喜田:若松さんは他のところでも学生や研究生のなど若い人たちの演出をされていますが、文学座の研究生はどのような特徴がありますか。



若松:生真面目すぎる所があると思います。本番までには、それをほぐして自らの発想で稽古場を楽しむ、という事になればいいですね。


「怒涛」に関して具体的に言うとセリフが速い。素敵な台詞がいっぱいあるので僕の感覚からしたら、かなり勿体なと思うところがあって…。まあ本番では大丈夫でしょう。




喜田:なるほど、演目ごとのリアリティの違いということでは、若松さんは今まで役者と演出両方でいろんな演目のリアリティに触れてこられたと思います。

そこで、演出家的な視点が役者をやる上で活きてくる場面などありますか。



若松:作家の思い描いた構成を以前よりも考えるようになった。

やっぱり演者のときはどうしても自分の台詞ありきで考えがちで。でも演出やるときは隅から隅まで一応考えるから、それはプラスですかね。でもこれはマイナスにもなる。


わかり過ぎてるから生き生きと演じられない僕がいるのかもしれない。


あとは、当たり前の事ですが、なるべく早く台詞を覚える努力するようになりました。演出の時、台詞を覚えてない人には手出しできないので。




喜田:ああ、わかりすぎることの弊害もあるんですね。



3.『怒濤』の魅力

喜田:それでは『怒濤』を隅から隅まで読んでみて北里をはじめ、周りの登場人物の魅力はどんな部分だと思いますか



若松:人間のエネルギーです。たぐいまれなエネルギーを出し惜しみすることなく過ごした人たちであること。


人とぶつかる事を恐れない。いや恐れているかもしれないが、それをはるかに上回る考えや、信念や、努力に裏付けされた思いがあって結果ぶつかる事を恐れなく見える、という感じか。


僕達にダイレクトに問いかけてくる。お前達はなんなんだって。




喜田:たしかにこんな人は今の時代なかなかいない気がします。では、北里の周りの人物についてはどうでしょうか



若松:周りの登場人物の面白さは、時代によっても境遇によってもみんな変化していく。その変化をどう演じてわけられるかというのは俳優にとってやり甲斐のあるところです。



喜田: 圧倒的なエネルギーと時代の中で変化していく人たちが魅力ということですね。では改めて、今作『怒濤』の見どころはどこでしょうか。



若松:両極にあるような人間がどう近寄り、どう離れるか、どうぶつかって粉々になり変化するかってことだと思います。夫婦においても師弟においても備に書かれてある。人と人の距離感の収縮にドラマがある。


喜田:若松さんがこの戯曲に寄せる信頼が伝わってきました。それでは最後に研究生たちに求めることはなにかありますか。



若松:自分の感性に自信を持つ事でしょうか。上手くゆかないことなど日常なので、その時に自分の感性を疑いだすとなかなか出口が見えない。


方法の選び方や技術的な問題で上手くゆかないだけで、こうと思った自分の感覚は信用してあげてほしいと思います。


あとは演るのは彼等なので、体調管理も含めて自覚を持ってやってくれればいい。


喜田:ありがとうございました。和やかで、しかし若松さんの不気味さゆえに緊張感の保たれた稽古場。これから『怒濤』がどのように立ち上がっていくのか楽しみです!


聞き手は、喜田裕也小石川桃子影井蘭甲斐巴菜子森寧々でした。

※本記事はインタビューを元に再構成したものです。

↑編集、喜田裕也