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美的なるものを求めて Pursuit For Eternal Beauty

心地良いリズムを奏でるデザインセンスで魅了する「国宝 燕子花図屏風 尾形光琳 作 18世紀 根津美術館蔵」

2019.05.12 15:59

(「新・美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2019.5.4>主な解説より引用

 「国宝 燕子花図屏風 尾形光琳 作 18世紀 根津美術館蔵」)

 心地良いリズムを奏でるように、流れるように、燕子花が咲き誇っている。そこには、土もない、水もない、人もいない。でも美しい・・。金地を背景に使われた色は、群青と緑青のたった二色。この「 燕子花図屏風 」を描いたのは、尾形光琳 (1658-1716 江戸時代中期の天才画家)である。

 光琳は、京都の高級呉服商・雁金屋の次男として生まれ、40歳になるまでは、優雅で贅沢な暮らしに加え、美に溺れ放蕩三昧の生活の日々であった。40歳を契機に心を入れ替え、絵師として生きることを決心。そんな中、本作品は光琳40歳半ばに描いたものとされる。

 根津美術館の学芸員 野口剛さん曰く、「デザイン画を描く才能は、①自然を観る豊かな感性、②それを絵に描くための文化的な背景、③そして強力なパトロンの存在、という3つの要素が合わさって、このような優雅な作品に仕上がっている」と。

 また、「円形図案集(小西家文書) 」重要文化財(大阪市立美術館蔵)には、萩に鹿、梅図、橋に流水、双鶴図などの「光琳模様」が描かれている。

 共立女子大学教授の長崎巌さんによれば、「これら光琳模様は、江戸時代の流行模様のナンバーワンであったし、明治から平成に至るまで、50年おき、100年おきに流行するなど、周期的に時代を超えて愛され続けてきた、模様・図案でありつづけている」と語った。斬新な意匠(デザイン)感覚は「光琳模様」として、現代に至るまで日本の絵画、工芸、意匠などに与えた影響は大きいとも。

 本作品は、爛漫と咲き誇る燕子花の群生を写生し、独特のタッチと色彩で描いたデザイン図である。一方でこの作品は、「伊勢物語」の第9段「東下り」に出てくる、三河国(現在の愛知県)の「八橋」(やつはし)の場面に基づき、その構図も発案されたのではといわれている。折句として読まれた和歌「から衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞ思ふ」から、各言の頭に「か・き・つ・ば・た」を盛り込んでいる。

 番組で登場したシシド・カフカさんは、「六曲一双による屏風ならではのリズム感により、より立体的に、三次元の燕子花を出現させたのでは」と語った。

(番組を視聴しての私の感想綴り)

 本作品の第一印象、直感は、やはりその作品からじわりと滲みでてくる「リズムを奏でるような優雅さと気品」ではないだろうか。

 江戸時代の人々にとっても、平安時代の公家風俗や、王朝文学を題材とするものに接することで、日常とは異なる「ハレ」の気分、「心のリフレッシュ」の源泉ともなったのではないか。根津美術館では、本作品以外に所蔵している「洛中洛外図屏風」や「名所風俗図屏風」などもまとめて紹介する展示会が、つい最近まで開催(令和元年5月12日まで)されていた。

 王朝文化への憧れ、草花愛好、祭礼、遊楽など、江戸時代にもたらされた太平の世を生きた、武士や庶民たちのつかの間の喜びにもなったことであろう。

 総金地の六曲一双屏風に、濃淡の群青と緑青のわずか二色によって、鮮烈に見事に描きだされた燕子花の群生たちが、観るものを圧倒する。

 番組でも紹介されていたように、よく観ると燕子花をみつめる視点が、左隻と右隻では異なり、橋こそ描かれていないものの、橋の上を左から右へ散策移動しているかのような、心地良いリズム感を浴びてしまう。気持ちの良いリズム感である。

 そのリズミカルに配置された燕子花の群生は、一部に型紙が反復して利用されるなど、一見、デザイン性としての意図が垣間見える。また、特に群青の色合いで描いた花弁のふっくらとした表現も素晴らしい。

 光琳は、かつて俵屋宗達に私淑した「琳派」の主流に位置する人物であり、江戸時代のみならず、日本の絵画史全体を代表する作品のひとつともなっているのは頷ける。高校の美術史の教科書(副読本)などにも、カラーグラビアで飾ってあったのを記憶している。

 この「燕子花図屏風」は、大正時代初頭までは京都の西本願寺が所蔵していた。その後、鉄道王の根津嘉一郎氏の所有となり、今は東京の根津美術館による所蔵作品となっている。

 毎年4月から5月にかけて、燕子花のシーズンに、館内の庭園に咲き誇るカキツバタとともに一般公開されている。今年は10月3日から、京都国立博物館で開催予定の「国宝」展にも出展されると聞く。言うなれば、実に100年ぶりの「京都への里帰り」の実現ともなる。

 光琳のめざした斬新な意匠(デザイン)創造への飽くなき追求心・探究心は、これからの新時代・令和にあっても、引き続き現代に生きる日本人たちが、引き継ぎ発展させ、さらに学んでいくべき姿勢でもあると感じた。

写真: 「美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2019.5.4>(10連休GWのさなかに放映)より転載。同視聴者センターより許諾済。