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須和間の夕日

東海第二原発の再稼働了解に条件は必要か

2019.05.13 06:48

2019年4月の水戸市長選挙の最重要争点は,東海第二原発再稼働問題である。市民の生命と安全に直接的にかかわる問題だからである。 

4月12日,水戸市長候補者の公開討論会があり,候補者2人の話を聴きに行った。候補者は,無所属新人・共産党推薦の谷萩陽一氏と,無所属現職の高橋靖氏の2人である。討論会は1時間,フロアからの質問への回答も含めて,候補者一人につき割り当てられた時間はわずか30分だったから,議論を深める前に閉会となってしまった。実質的な「討論会」にはならなかったが,東海第二原発再稼働問題に対する候補者二人の考えの違いは鮮明になった。 

配布された資料で,谷萩氏は次のように書いている。「東海第二原発は再稼働をしようとしている。この原発の危険から市民を守るのが市長の責任である。日本原子力発電との安全協定に定める実質的事前了解権をいかして,再稼働に反対を表明し,再稼働を阻止して東海第二原発の廃炉を実現する」。 

高橋氏は,「実効性ある広域避難計画策定及び市民理解のない原発再稼働は認めない」。つまり,再稼働了解には,①実効性ある広域避難計画策定,②市民理解,の2つの条件があると述べる。

2候補の違いは,再稼働了解における条件の有無である。条件つけずに再稼働を認めないというのはわかりやすいが,条件がクリアされないと再稼働は認められないという高橋氏の主張はわかりにくい。どこかこじつけたような感じがある。この条件は一体どういうものなのだろうか。以下で考えてみた。

 一つ目の条件,「実効性ある広域避難計画策定」だが,これはどう見ても不可能である。時候,気象,避難手段,避難経路など,条件の組み合わせはいくつもあり,あらかじめ条件を設定できるものでもなく,設定した通りに実行などできるはずもない。さらに,避難先での市民の健康・医療・生活・教育,災害弱者の対応などあらゆることに対応できる計画など不可能である。どだい無理な計画だから,つける必要もない条件である。それでもつける理由があるのだろう。これについては後で考えたい。 

二つ目の条件,「市民理解のない原発再稼働は認めない」は当たり前のように見えるが,裏返してみれば,市民が理解すれば再稼働を認めるということだ。これもどこかおかしい。市民の「理解」は方向性をもっていて,再稼働なのである。市民の理解を再稼働へ誘導しようということのように読めてしまう。 

実際のところ,市民の理解はどんな状況だろうか。市民の「理解」状況は分からないが,市民がどういう判断をしているかは調査がいくつもあるのでわかる。直近の調査では,茨城大学人文科学部,渋谷敦司さんの調査がある(2018年12月〜2019年1月)。この調査結果では,再稼働反対(「再稼働を凍結し白紙議論」+「運転停止し廃炉」)54%は,再稼働推進(「なるべく早く運転再開」+「耐震防潮対策後再稼働」)36.9%を20ポイント近く上回っている(投票日のNHKによる出口調査で約73%が再稼働反対,高橋氏も「肌感覚で反対がすごく多かった」と振り返っている=この星空講義後の報道,東京新聞)。 

市民の再稼働反対という判断は,原発事故の被災者・避難者の現状,新規制基準や原発再稼働判断の矛盾,除染と賠償のまやかしなどに対する理解,原発再稼働の危険を理解したその結果だと言っていいだろう。原発の再稼働という重要局面では,市民の「理解」より市民の判断,意思の方にこそ重要性がある(それでも,市民の「理解」が必要なら,「東海第二原発再稼働問題検定」を実施するしかない)。 

要するに,一つ目の条件は実現不能で,二つ目の条件は事前から結果はほぼわかっていることで,そもそも必要のない条件である。これら2条件をつけても,つけないときと同じ結論=「再稼働は認められない」になる。それにもかかわらず,なぜ高橋氏は2条件をつけたのだろうか。 

こういうことではないか。再稼働反対の市民には,どうみても不可能な「実効性ある避難計画の策定」を条件にすることで,「再稼働は認めない」というメッセージを伝えられる。再稼働を求める市民と,国と県に対しては,「市民理解」をもとにして客観的に判断するという姿勢を示せるし,実効性ある避難計画の策定に努力しているという姿勢も伝えられる。要するに,2条件を付与することで,あらゆる市民,国と県のすべての方面に敵を作らない,ま〜るい公約になるのである。

 時代は,すでに廃炉の時代に入っている。1956年,東海村への原子力研究所の設置決定を契機にして「原子力センター」建設が始められ,翌1957年,日本で最初の原子力の灯をともしたと浮かれた茨城県,その県庁所在地,水戸市で行われる62年後の市長選挙である。市民が選んだ市長が,日本原子力発電に東海第二原発再稼働を認めないと表明して廃炉を迫れば,日本の原発の終焉の始まりを象徴する歴史的な出来事になる。 


(原電茨城事務所前抗議行動「星空講義」1,2019年4月19日)