部活を運営する、を考える(バンドディレクション授業)
東京音大吹奏楽アカデミーの授業「バンドディレクション」。
これまで3名の外部講師をお招きして、非常に現実的で実践的な内容を聞かせてくださいました。
それについては過去に記事を書いていますので、ぜひご覧ください。
そして4回目の授業はそのまとめ。
実際に自分がスクールバンドを運営するにあたって、どのような考えで実践するのかを発表してもらいました。
質問項目はいくつかあり、部員がこのくらいの人数入部してくれた場合、どのようにパート編成を考えるか、年間スケジュールをどのように組むか。
そういった感じです。
様々な学校があり、どのような学校で運営するのかによってもこれらは大きく変わっていきますから、考えられる可能性はとても広い。だから学生のみなさんそれぞれが個性的で、興味深く聞かせてもらいました。
講師はそれについて質問したり、自分の体験談を話すなどして発表に参加していました。
僕も部活のメイン指導者をしていたときは、新入部員の楽器決めに毎年苦労していました。「この楽器じゃなきゃ辞めます」という強気な子がいたりしてね(笑)
僕はそもそもバランス良く楽器編成を考えていたのですが、この日の授業の中で「そもそも全部の楽器にバランス良く配分する必要があるのでしょうか」という中橋先生の問いかけにはっとしました。確かに、既存の楽譜(アメリカの出版譜や、それを元に編成された現在最も一般的な編成)を演奏する、という目的で無意識にそうじゃないと成立しないと思い込んでいましたが、前回の藤村女子の都賀先生のおっしゃっていた、どんな小編成でも工夫すれば吹奏楽は楽しめる、というお話でもあったように、もっと可能性を考えて、その時にできる一番楽しいことをすればいいじゃないか、と。
そしてこの授業での質問(課題)に「(本番などがない)1週間のスケジュールを考える」というのもありました。朝練習は絶対にするという学生もいれば、現在の部活動ガイドラインに沿った短い時間での活動を考えている学生もいましたが、気になったことが2つあります。
それは、移動や準備時間を考慮していないタイムテーブルが多かったこと。
経験上、パート練習というのは散り散りになって行っていますから、その後に合奏があった場合、移動やセッティングをする必要がありますが、これに時間が結構かかる。だからといって楽器を持って学校の廊下を走るのは絶対にダメだし、そんな走り続けて息が切れている状態で「音楽」などできるはずもありません。
ダラダラセッティングしているわけではないけれど、いやむしろ各々が一生懸命バタバタしているからこそ、音楽室という狭い空間にイス、譜面台、(なぜかやたら分厚くて重い)譜面のファイル、そして楽器などをどんどん入れて動いているので、もう軽くパニック状態です。
よって、これらに必要な時間を考慮するわけですが、そうなると合奏前の時間を犠牲にするか、合奏時間を犠牲にするしか方法がありません。したがって、タイムスケジュールをタイトな時間配分をすればするほど非効率的になってしまうのです。
片付けもそうです。楽器を大切に扱い、翌日も健康な状態で演奏をするためには、練習後のメンテナンスもとても大切です。スワブをかけたりクロスで拭いたり。安全なところへ保管したり。使った部屋の掃除も必要かもしれません(教育現場ではそれが重要な場合も多いですね)。ただ音を出しているだけが目的ではなく、部活動には「心」を育てることにも配慮をした活動が求められるのではないか、と考えます。時間を考える際には、シミュレーションが必要になりそうですね。
そしてもうひとつはウォームアップの時間。
僕はウォームアップを非常に重要視しています。楽器の演奏は感覚的な部分が非常に大きいのですが、人間の体は体力面、精神面共に影響が出やすいので、安定したベストコンディションで常に演奏し続けるには、きちんと理論立てたウォームアップが必要だと考えています。
これを怠って、コンクール前に一日何時間も合奏をさせるなど、絶対にしてはならない行為です。コンクール前に不調を訴えて音が出せなくなるトランペットの部員(いわゆる「つぶれ」)をこれまでに何度見てきたことか。
スポーツの世界では科学的に考えられた合理的なトレーニングが研究され、行われてる一方で、管楽器演奏の現場、特に学校の部活動ではまだまだそういったものが少ないです。僕がトランペットだから余計にそう思ってしまうのかもしれませんが、これほどまでに繊細で、そして人間の体を上手に使わなければならないものは、他にあまりないのではと思うほど大切だと考えています。
伺った吹奏楽部のトランペットパートの子たちが、ケースから楽器を取り出した瞬間に曲を吹いたりする光景を何度も見てきました。これでは上達は望めません。
したがって、タイムテーブルを考える際、どれだけ活動時間が短くとも、全員の心と体が「音楽をする」モードチェンジをしている状態で、基礎的なメニューやら合奏をすべきである、と僕は考えます。地盤が固まっているほうが、吸収力も高く、ひとつの合奏やレッスンで得られることが大きいのです。
先日このブログに掲載した「プロセスの中で溺れないように」という記事が参考になると思いますが、タイムテーブルって組むとそれだけで満足しがちですよね。でもそれってプロセスの中にいるだけで、なぜそれを行うのか、という明確な目的、目標を見失いがちです。ここは注意しないといけない点だと思います。
現場にいることで見えてくる様々なこと。これから少しずつ学生さんたちは自覚したり、経験することでしょう。まだ授業は始まったばかり。これからが楽しみです。
本当は授業の中で言うべきだったのですが、時間が足りなさそうだったので覚書としてここに書きました。
荻原明(おぎわらあきら)