自転車 case 02 作・木庭美生
指を入れようと思った。
昔お兄ちゃんの自転車の後輪に指を入れようとしたことがあった。
自転車を止める時に後輪が地面につかないタイプのやつ。
後輪だけ回ってて、キラキラしててさわりたくなったから。
指を伸ばそうとしたところで気づいたお兄ちゃんに慌てて止められた。
びっくりするほど怒られた。
記憶はあるけどいつだったかはあんまり覚えてない。それくらい前の話。
子供の頃は何にでも手を伸ばせて、興味があればすぐに行動に移せた。
でも今は。
もうあの頃のようにはいかない。
あんな風には動けない。
今はもう自転車の後輪に指を伸ばそうと思わないのは当たり前。
危ないって知ってるから。
わざわざ手を出したりしない。
空気読むとかそんなことばっか覚えて大きくなったせいか、踏み出すことを危ないと思う私がいるみたい。
無難に生きてたほうが失敗はない。
でもたまにはおもしろいことしたい。興味があることにもっと手を伸ばしてみたい。
そう思いはするけど思うだけ。そんな簡単なものじゃない。
周りにはいる。興味があるものにたくさん手を伸ばして楽しんでる人。深く深く手を伸ばしてる。憧れはするけど、あんな風にはなれないなとも思う。別に一度伸ばしてみればたいしたことないんじゃないかと思うけど。やっぱり怖いからやらない。
もう一度自転車に指を入れてみるとなにか変わるかも。
でもたぶん。その自転車の後輪は動いてないだろう。止まった自転車の止まった後輪に指を入れても痛くない。危なくないから。
私は危なくないところから危なくないところに手を伸ばすくらいしかできない。
ばかみたいだけどたぶんしばらくはこのままだろう。
こんな風に考えてるから進歩しないのか。
お兄ちゃんの自転車を借りてとりあえず行けるところまで行ってみることにしようかな。
2019年5月14日
木庭美生