理学療法士の自分が、家族が脳卒中になってしまった場合、脳卒中の保険外・自費リハビリを勧めるか?④
おはようございます。University College London (UCL)の理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。
数回に渡って、保険外・自費での脳卒中のリハビリに関して書いています。
脳卒中発症後180日を経過した患者さんへの自費でのリハビリは、困っている患者さんに役立ったり、リハ専門職の雇用を広げたという価値はあるものの・・・、
・対象となる患者さんは非常に狭い
・値段は妥当
・効果の検証がされていない段階で画期的なサービスという扱いは、少し違和感がある
ということを書いてきました。
前回の記事です。
引用した記事の中で
運営会社の会長さんはこのように仰っています。
会長さん「必ずしも富裕層だけのものじゃないなと思っています。というのもやはり40代、50代で脳卒中になって、例えば今のプランを1回もしくは2回やることによって復職できれば、結果生涯賃金がもしかしたら上がるかも知れないし。そういう意味で言うと、やはり40代、50代くらいまでの方は必然性があるので通ってきている」
本当に復職の確率が臨床的に意味があるほど上がるのであれば、とても素晴らしいサービスです。
ただ、脳卒中の治療・リハビリに関わったことのある方であれば、多くの方が納得頂けると思いますが、
発症から180日を過ぎて復職できていない方を、それ以降のリハビリで復職できるまで回復させるというのは、非常に難しいです。
なぜか?
復職を目指すということは、65歳未満であることが多いと思います。
脳卒中になる患者さんの中ではかなり若い方々です。
若い方の方が、元々の身体機能が高いですし、脳の同じ場所にダメージを負った場合の回復は高齢者と比較して良いです。
若く元々健康だった患者さんが発症後180日経っても復職が出来ない場合考えられるのは、脳卒中の重症度が非常に高く、
①手の麻痺が重症でお仕事への復帰が難しい
②足の麻痺が重症で職場への移動が難しい
③コミュニケーション(喋ること、聞いて理解すること)、考える力が低下していて、復職が難しいということが考えられます。
発症後180日が経過した後にもリハビリを継続して、これらのどれか、もしくはこれらのいくつかを、病前と遜色ないレベルまで戻すことは、現代のリハビリでは難しいです。
この中では、リハビリによって復職ができる可能性が高いのは、②の足の問題です。しかし、足に重度の麻痺が残ってしまっている方は、手の麻痺は同様かより重症であることが多いです(脳のダメージを受けた部位によって、当てはまらないこともあります)。
『あなたにとって、どのリハビリサービスが適切か?』は無料では誰も教えてくれません。
色々な情報を集めて最終的には、患者さん本人とご家族さんで決断しなければいけません。
自費リハビリの会社も教えてくれません。
自費リハビリの会社に、重症の方が『復職を目標にリハビリを受けたい』という風に要望した場合、その会社は
・復職は難しいので、目標を下げましょう
・復職が目標の場合、達成が難しいので当社では、対応できません
という風には言ってくれないと思います。せっかく来たお客さんを断ってしまうのは、会社である以上、難しいと思います。
恐らく、『では、改善に合わせて、体の機能が上がってきたら、復職も考えてみましょう』というような形の提案をするのではないかと思います。
『結果にコミットします。もしも復職までいけなかったら、全額返金致します』というような話にはならないはずです。
なぜ私が良く知らない自費リハの会社に対して、その様に言えるかというと、引用記事の中で、お客さんがこの様に仰っているからです。
お客さん「自費だろうと何だろうと、1日でも早く治るんだったらそこに行きたいっていう気持ちになってたからね」
何をもって『治った』かは難しいですが、恐らく医療関係でない方の『治った』は、病前と遜色ない程度に回復することであると思います。
超軽症例を除いて『病前と遜色がないほどまで治る』ということはないです。
そして、超軽症例であれば、180日が経過する前に、病前と遜色ない状態に治るはずです。
にも関わらず、このお客さんは
・サービスを受ければ『治る』と説明されている
もしくは、
・お客さんがその様に受け取ってしまう様な説明をされています
その結果、この発言をされているのだと思います。
自費リハビリを提供する会社も慈善団体ではないので、利害が絡む以上は、公平・公正な情報を教えてくれるという保証はありません。
サービスを受ける方が、最終的には判断しなければいけません。
今日の内容は、少し暗いものですが、『重症の方は、リハの必要なし。復職も無理、家で寝ていて下さい』
というものでは全くありません。
ご自身にとって最適なリハビリ計画をデザインして頂くために、事実を知って頂くことが大切です。その上で、2か月30万円は費用対効果として納得しうるものなのか?
他のサービスを受ける方が良いのかを考えて頂くことが大切です。
長くなりましたので、次回に続きます。
今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございます。
理学療法士 倉形裕史
次回へのリンクです。
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