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草原のコトノハ

最初のひとしずく(2)~どこまでもまっすぐに~

2016.03.14 02:07

小5最後の春を迎えた長女。

夕飯中に突然

「れなちゃんと映画を見に行きたいのだけど。」

と言い出した。

言葉にしたのは突然、

でも、何となく予兆はあった。

今の子どもは情報を拾ってくるのが速くて

うまい。

興味があって電源を入れればすぐに

その場所へつながる時代で、

そこまでは足踏み無しなので

ちょっぴり怖い気がしている。

動画サイトで映画のCMを繰り返し見ながら

「見たいなあ、この映画」とつぶやいていて、

臆病さと慎重さを兼ね添えた彼女だからこそ

この姿は逆にその意思の固さのようなものを

感じさせて

いつか「映画を見に行きたい」と言い出す日を

母に予感させていた。


さて、問題はここから。

田舎町に住んでいるので、

映画を見るには隣の市の繁華街にある

ショッピングモールまで行かなくてはならない。

決して治安が良い、

とは言えない隣町の繁華街を

少し艶っぽくなってきた

初々しい女子2人が歩いていたら…

想像するだけで、心配の種は次から次へと生まれ

膨らみ、しまいにははじけて

「どうぞ行かないでください」

ならまだしも

「そんな危ないところ、だめよ!」

と怒りに変換されてしまいそう。


ヒトって本当に頭の回転が速くて

気持ちをすり替えるのがうまい。

そして、多分すり替えてしまったことさえ

気づかずにいて、すり替えたほうを

本当の気持ちと信じてしまう。

本当はただ心配なだけなのに、

相手には怒りとして歪められて

伝わるわけだから、

話しはこじれる。

関係もこじれる。

いつも心に湧いた最初のひとしずくに

まっすぐでいたいな、と思う。

最初のひとしずくは、

それがどんな気持ちであっても

(たとえ自分が認めたくない気持ちで

あったとしても)

クリアーなものだから、

自分ではどうすることもできない。

仕方ないなって前向きに白旗あげちゃうと

きっと楽になる。

好きだ・嫌いだ、とか。  

ワクワクする・しょんぼりする、とか。

やってみたい・やりたくない、とか。

そういう心に湧いた最初のひとしずくに、

人はどんどんフィルターをかけていく。

傷つきそうだから・傷つけそうだから、

子どもがいるから、お金がないから、

責任があるから、時間がないから…。

いろんな理由をつけて

すっと気持ちをすり替えてしまうってことが

きっと今までたくさんあったなぁ。

そうして、いたってシンプルなことを

複雑で深刻なものにしてきてしまった

自分の足あとに

もうサヨナラしようと思ったのだ。


で、長女に言った。

「母さんは、心配です。」と。

すると、長女は「だよね。」とひとこと言って

それからしばらく何か考えているようだった。

そうして、1週間ほどたって

れなちゃんのお母様から連絡がきた。

「2人の思いを尊重したいけど、

2人だけではやはり心配なので

私がついて行くことになりました。」

ふうっと安堵のひと息をついて

コーヒーをすする。

子どもは「心配している」という

親の最初のひとしずくだけを

まっすぐに受け取って

それを胸にいろいろ考えたのだ。

歪めないでよかったな。

怯えないでよかったな。

心に湧いてきた最初のひとしずくに、

まっすぐに。

子どもに対しても、自分自身に対しても。