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須和間の夕日

東海第二原発再稼働は首都圏6知事には他人事か,東京新聞の記事に考える

2019.05.18 01:19

東京新聞5月11日朝刊のトップに驚きの記事が載った。関東1都5県の6知事に,東海第二原発の再稼働の賛否と,立地自治体知事に再稼働阻止の権限があるか否かを問うたアンケート調査の報告で,6知事とも,再稼働の賛否を明確にせず,立地自治体知事に再稼働阻止の権限はない,というものであった。この記事が訴えるものは何か考えてみた。まずは記事を引用する。


「東海第二原発アンケート 6知事再稼働賛否示さず 当事者意識低さ浮き彫り」

日本原子力発電(原電)が再稼働を目指す東海第二原発(茨城県東海村)について,本紙は茨城を除く関東一都五県の六知事に再稼働の是非をアンケートしたところ,賛否を明確に示す知事はいなかった。首都圏は深刻な事故で被害を受ける危険性があるが,再稼働の判断を国に委ねる回答が複数あり,当事者意識の低さが浮き彫りとなった。

再稼働の賛否について,三知事が「どちらとも言えない」,残りの三知事は回答なしだった。

神奈川県の黒岩祐治知事と栃木県の福田富一知事は「地元の理解が不可欠」と理由を説明。県議会が原発再稼働推進の意見書を可決した埼玉県の上田清司知事は「隣接県が軽々にものを言うことはできない」とした上で,「地元の理解と支持を得ることが不可欠」と回答した。

一方、東京都の小池百合子,千葉県の森田健作,群馬県の大沢正明の三知事は、原発の再稼働は国が責任を持って判断するべきだと答えた。

小池知事は希望の党代表として臨んだ2017年の衆院選で,30年までの原発ゼロ達成を掲げた。本紙インタビューにも「できない,と言うよりどうやって可能にするかを考えたい」と語っていたが,回答にそうした記述はなかった。

アンケートでは原発が立地する自治体の知事に再稼働を止める権限があると考えるかどうかも聞いたが,知事の権限を肯定する回答はゼロだった。(以上,東京新聞) 


社会面の記事「命の判断 国に丸投げ 知事権限は『最後の壁』」では,6知事の回答一覧と識者のコメントが載せられている。 


 「東海第二で事故が起これば,福島事故より大きい影響が出る可能性があるのに,人ごとのような回答ばかりで失望した。『原子力は国策』という言い訳が通用しないのは,福島の被害で明らかだ。そのことへの理解も反省もない」(伴英幸氏 NPO法人原子力資料情報室共同代表)

「知事に再稼働を止める権限を明文化した法律はないが,国のエネルギー基本計画では『(再稼働は)立地自治体等関係者の理解と協力を得るよう,取り組む』と明記している。立地道県と原子力事業者は安全協定も結んでおり,知事の同意は再稼働に当たっての『最後の壁』となっている」 

「知事には原子炉規制法での権限はないが,事業者と結んでいる安全協定に基づく法的・政治的責務や,地方自治法と災害対策基本法などによる法的権限はある。(知事に再稼働を止める権限があるかの質問に,三反園訓(みたぞの・さとし)鹿児島県知事らの「権限はなし」という発言について)狭い法的権限にすぎず,説明としては不十分だ。負託された責務や権限を知事がどう使うのか,県民本位の判断になるよう,県民が監督していかなければならない」(金井利之氏=自治体行政学,東京大学大学院教授)(以上,東京新聞,カッコ内説明書き一部加筆)


 現在,原電は,東海第二原発の再稼働準備をすすめている。この老朽被災原発が再稼働して大きな事故を起こせば,首都圏にも大きな被害がもたらされる可能性がある。東海第二原発の再稼働問題は首都圏の問題でもあるが,問題認識は浸透していない。再稼働反対意見表明や採択状況から,茨城県とその他の首都圏6都県を比較すると,その差は明瞭である。

 茨城県では,44市町村のうち11市町村長が再稼働反対意見を表明している(25.0%)(2018年11月13日)*。「新石岡市を考える市民の会」が行った調査では,再稼働反対は8市町村長(石岡市,高萩市,つくば市,潮来市,那珂市,茨城町,美浦村,八千代町),賛成はゼロである(2019年1月16日)**。地方議会では,29市町村議会が再稼働反対に類する意見書を採択している(65.9%)(2018年11月13日)*。

 他方,隣接の栃木県では,再稼働反対に類する意見書採択は9市町議会(36.0%),埼玉県16市町議会(25.4%),千葉県6市議会(11.1%),東京都3市議会(4.8%)である*。採択割合は,大都市ほど,茨城県から遠くなるほど低下していく。原発再稼働推進の意見書を採択した埼玉県議会の例もある。 

東京新聞が今回実施した調査は,再稼働問題が重大な局面に差し掛かっているのに,首都圏での関心は希薄なままという状況にあって,6都県トップの問題認識はどうなのかを明らかにしようとしたものだったと推測する。

 私がこの記事から受けた第一の衝撃は,記事の指摘のとおり「当事者意識の低さ」である。6知事とも他人事だから当然なのだが,「都県民を原発事故から守る」という言葉は,誰からも出てこなかった。 

もう一つの衝撃は,一民間事業者の原発再稼働を止める権限が立地道県知事にあるかいなかを聞いているのに,国のエネルギー政策にすり替えて,回答を忌避していることである。それが6人中3人もいる(小池百合子都知事,森田健作千葉県知事,大沢正明群馬県知事)。小池知事は「エネルギー政策のあり方」,大沢群馬県知事は「わが国エネルギー政策の根幹にかかわる問題」と述べ,国が判断する,検討するとまで言っている。問題の本質をまったく理解できない首都圏の知事たちに,原発事故から都県民を本当に守ることができるのだろうか。

福島第一原発事故の避難者のことを振り返ってみたい。原発震災の「震源」に近い被災地では,強制避難と長期の避難,戻れないことも覚悟した避難先での定住を余儀なくされた。「震源」から遠い被災地では一時的な避難という選択が多かったが,いずれの場合であっても,避難とは安定した生活と仕事,教育,地域,環境などすべてを奪うものである。 

筆者は,茨城県でどのくらいの原発事故による避難者がでたのかを調べたことがある。県市町村課の公表値と全国避難者情報システムの登録率にもとづく推計だったが,2012年末ごろの茨城県からの避難者は3,000人ぐらいという数値を割り出した *** 。この数字がどの程度実態を反映しているか,今となっては検証のしようもないが,茨城県ほどではないにしても首都圏でも避難者は相当出たはずである。 

その後,東京から大阪に避難した人,茨城から北海道,九州に避難した人にインタビューをした。元の住まいに戻った人もいるが,避難先での定住を決意した人もいた。原発の過酷事故は,膨大な数の避難者と,故郷を喪失する人を多数生み出す。 

5月11日の東京新聞の記事は,首都圏6知事は問題認識が薄いどころか,甚だしい間違いをしていることを教えた。改めて確認したい。東海第二原発の再稼働問題とは,茨城県の問題ではないし,国のエネルギー政策の問題でもない。首都圏数千万人の生命と安全確保の問題である。


*  とめよう!東海第二原発 首都圏連絡会「東海第二原発再稼働をめぐり採択された意見書及び決議」
**  東京新聞「東海第二 再稼働『賛成』ゼロ『反対』8 石岡の市民団体,44市町村長の回答公表」,2019年1月16日
***  乾 康代ほか「東日本大震災と原発事故による茨城県の避難者の帰郷意思と支援課題」,都市住宅学会,2013


(原電茨城事務所前抗議行動「星空講義」4,2019年5月17日)