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トウモロコシ畑の子供たち②

2019.05.21 14:58

我が家にあちこちに散らばっているBOOKSたち。コンビニで衝動買いしたジャンク本から、ちょっと奮発した重量級の写真集まで。捨てるに捨てられず、僕と一緒に引っ越しを共にしてきた愛すべきBOOKSたち。断捨離という名のもとに別れの儀式を行っております。


スティーヴン・キングの初短編集『Night Shift』2分冊の2冊目『トウモロコシ畑の子供たち』の後半をお届けします。今回ン十年ぶりに読んでみたわけですが、改めてキングの短編作品におけるバラエティ豊富なモチーフと、モノローグ的な一人称語りや、リアリティを高める固有名詞多用の仕掛けなどの特徴的な手法が、既にこの時には確立されていたことに驚かされますね。


「トモロコシ畑の子供たち」(Children of the Corn)

〔<Penthouse>誌 1977年3月号掲載〕

日本版の分冊タイトルにもなっているように、『Night Shift』の中ではわりとメジャーな作品だと思います。キングの短編で初めて、1984年に映画化されていますからね。まあ、でもこの映画がロクでもないシロモノだったことも言っておかねばなりません。版権が流れ流れて・・・という経緯も背景にあるのだと思いますが、原作はバートとヴィッキーという夫婦の目線で描かれていて、子供たちの存在はどちらかというと、記号化されています。しかし、映画では子供たちを束ねるアイザックというリーダーの存在に重きを置かれている感じで、チープな光学処理もあわさって、なんとも言えない仕上がりに・・・。

▼これも全編アップされている英語版動画ありますので、一応貼っておきます。見どころは、ヴィッキー役で若き日のリンダ・ハミルトンが出ているとこくらいです(笑) もうサムネで観れちゃってるし。

原作のほうに話題を移しましょう。果てしなく続くトウモロコシ畑とか、日本では北海道くらいでしか見れないのかもしれませんが、シチュエーションとして最高ですよね。昼間ですら、人の気配が無ければ薄気味悪く感じる瞬間がありそうです。前述の映画では、子供たちがどんなふうに大人を殺めていくのかが描かれていますが、原作にはそうした描写はなく、バートが教会の中で目にする様々なアイテムが、少しずつ真実を浮き彫りにしていきます。そのプロセスが怖いです。

そして、バートたちの末路以上に、子供たちの運命を暗示させるラストシーンに物悲しさを感じずにはいられません。これがこの作品の最も味わい深い部分のような気がします。

で、映画のほうは残念なものを世に遺しちゃったわけですが、何故だかカルト的な人気を博してしまい、続編が続々作られているというのも、この作品の凄いところ。それも1つや2つじゃありません。Wikiアメリカ版によれば、

『Children of the Corn』(1984) 邦題『チルドレン・オブ・ザ・コーン』
『Children of the Corn II: The Final Sacrifice』(1992)邦題『スティーブン・キング/死の収穫』
『Children of the Corn III: Urban Harvest』(1995)
 邦題『スティーブン・キング/アーバン・ハーベスト』
『Children of the Corn IV: The Gathering』(1996)
 邦題『スティーブン・キング/アーバン・ハーベスト2』
『Children of the Corn V: Fields of Terror』(1998)
 邦題『チルドレン・オブ・ザ・コーン5:恐怖の畑』
『Children of the Corn 666: Isaac's Return』(1999)邦題『ザ・チャイルド』
『Children of the Corn: Revelation』(2001)※日本未公開
『Children of the Corn: Genesis』(2011) 邦題『ザ・チャイルド:悪魔の起源』
『Children of the Corn: Runaway』(2018)※日本未公開?

・・・こんなに(-_-;) さすがに知りませんでした。キングのタイトルだけが、あちこち彷徨いながら原作無視の物語を次々に生み出してるんですね・・・。キングもさすがに諦めているのか。

▼にヒストリーをまとめた動画があります。

ちなみに2009年にTV映画として製作されたものがありまして、これが一番原作に近い気がします。

なんにせよ、キングの考えたプロットが秀逸だったということの証なんでしょう。


「死のスワンダイブ」(The Last Rung on the Ladder)

〔1978年 未発表作品〕

原題は直訳すると"梯子の最後の段"なんですが、なかなかシャレオツな邦題を考えたもんです。子供の頃、秘密の遊びで、納屋の梁から干し草の山に飛び降りる妹の姿を、主人公は"スワンダイヴィング"に例えているのですが、そこからの着想ですね。個人的にはキングの原題よりも、キングらしいタイトルのような気がします(笑)

このお話、当時まだ未発表だったわけですが、ホラーじゃないんです。超常的な話でもありません。よくぞ、この短編集のラインナップに加えたなあ・・・と思うくらい、ごく普通の人の人生にいくらでもありそうな悲しい出来事を綴っているだけのお話なんですけど。何とも言えない読後感があります。ノスタルジーなのかなんなのか。ふと干し草の匂いがしてくるような、そんなお話です。

ちなみに舞台となったネブラスカ州のヘミングフォード・ホームという街は、『スタンド』や『セル』『1922』でも登場する実在の場所です。『トウモロコシ畑の子供たち』の舞台となったガトリンはその隣町という設定ですが、ガトリン自体は架空の町のようですね。

▼メイン州のハッソン大学内にあるニューイングランドコミュニケーションスクール(NESCom)が製作したトレーラー。内容は良くわかりませんが、

▼妹・カトリーナの少女時代を演じている子が、原作の雰囲気にピッタリだなあと思ってます。

Lillian Ashbyさんという方のようで、インスタとかTwitterとかFacebookもやってるみたい。メイン州出身だし、首の右側のホクロの位置も一致するので、間違いないでしょう。

随分とオトナになってはりますが、印象的なブルーの瞳は昔のままですね。小説の中で"スカンジナビアン・ブルー"とキングが表現した色は、こういう色なんでしょうか。ていうか、僕はストーカーか!(笑) 独身みたいだし、危うく友達リクエストしそうになったじゃないか!


「花を愛した男」(The Man Who Loved Flowers)

〔<Gallery>誌 1977年8月号掲載〕

まあ、これもオカルト色全く無しのとても短い一篇。粗筋を語る間もないほど、シンプルで淡々としたストーリーで、読みながら「たぶんそうなんだろうな」と思っていると「ああ、やっぱり」となるという(笑) ちょっとイカれたシリアルキラーのお話も「あんないい人が・・・」的な視点で書くと、こんなふうに爽やかになるのだという見本?

こちらも2015年、映像化されたっぽい? トレーラーはこちら▼

こんなバージョン(https://youtu.be/9s0O30DFBWs)も発見。埋め込み禁止されてるのでコピペでどうぞ。こっちのほうがイケメンだな。


「<ジェルサレムズ・ロット>の怪」(One for the Road)

〔1977年ペーパーバック発行〕

前の記事で紹介したように『呪われた町』の後日譚になる作品。ジェルサレムズ・ロットの隣町、ファルマスに住む爺さんの一人語りで綴られる、豪雪の夜の吸血鬼の物語。こういう過去を振り返ってバーで一人語り、というパターンは結構多いような気もします。

お話的にも続きが書けそうな、そんなエンディングになっております。ジェルサレムズ・ロット(セイラムズ・ロット)のお話はまだ続くのかもしれませんね。

さすがに映像化はされていないようで、検索してもB'zの松本孝弘さんのソロナンバーの動画しかヒットしませんな。ちなみに『One for the Road』というのは"旅立ちの前の一杯"という意味があるようです。

・・・・・なんてことを書いていたら、こんな最新ニュースが!(笑)

期待しちゃっていいでしょうか? というか、その前に『呪われた町』を読まなければ!


「312号室の女」(The Woman in the Room)

〔1978年 未発表作品〕

『Night Shift』の最後を飾る作品にしては、なんだかとってもプレーンな一作。もちろんプレーンといってもキングの中でのそれですので、内容はかなりヘビー。簡単に言ってしまえば、主人公と、まさに死にゆかんとする胃がんの母との決別の物語であります。NOオカルトで、まったく日常的な(極めて偏ってはいるけれど)シーンを切り取っているのは、『死のスワンダイブ』にも通じるものがあり、未発表だったのもなんとなく解る気がする。

表現手法も実験的なものを感じます。商品名や番組名や、やたらと固有名詞が出てくるのも意図的なものだろうし、接続詞で終わって、次の文章との間が一行空いてたりする妙な仕掛けは、なんだか読む側を不安にさせる効果を狙っているのかも。

なんにせよ、あまりにリアルな素材だけに、読後は複雑です。読む人を選ぶ作品ともいえるかも。うちはまだオカンがピンピンして良かった・・・。

主人公が母に飲ませようとしている<ダーヴォン>は架空の安楽死の薬なのかと思いきや、プロポキシフェン塩酸塩を含む薬剤?で自殺に使われていたりするようなものらしい。そして母親が施されていた<コートーミィー>という治療。ロボトミー的なものなのかと思いつつ調べてみたけど、作品の中で主人公が言っているように、綴りも分からないので発見できず。パーキンソン病の治療方法のひとつとして紹介(▼)されていた"DBS"というのが近い気がする。

こちらも「効果を発揮するメカニズムについては完全には解明されていません」とか、さらっと書いてあって怖いけど。それで思い出しましたが、全身麻酔で手術するときに使う吸入用の麻酔薬って、まだなんで効くのか解明されてないらしいですよ・・・(;'∀')

▼本作もいろいろ映像化作品がWEB上でアップされていますが、注目したいのはこちら。

監督のフランク・ダラボンさん。安楽死の薬みたいなお名前ですが、なかなか有名な作品を手掛けている方なんです。キング関係でいけば『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』『ミスト』など。TVドラマでは『ウォーキング・デッド』のシーズン1第1話とか。脚本で探すと『エルム街の悪夢3 惨劇の館』『ブロブ』『ザ・フライ2 二世誕生』『プライベート・ライアン』『コラテラル』『GODZILLA』とか。なかなかの経歴でしょ? 彼の初監督作品がこの『The Woman in the Room』なんだそうです。キングにお気に召されている感じですね。


というわけで、ようやく『Night Shift』に収録されている20作品の紹介を終えることができました。断捨離読書という形でやっているので、もちろん全て改めて読み直しをしています。この調子でやっていくと何十年かかるのか分かりませんが、キング作品に限らず、軽いのから重いのまで、安いのから高いのまで、古びて埃の積もった本棚や、湿って崩れそうな段ボール箱から無造作に取り出して、ヤニと紫外線で色の変わったページをめくりながら、ここに記録していこうと思います。

では、また近いうちに、このシリーズでお会いしましょう!


興味を持たれた方は新装版が出ているので、そちらをどうぞ!

と、思ったら『トウモロコシ畑の子供たち』のほうはAmazonでも新刊取り扱いがなくなってるんですね(;'∀')!