カシマさん
私の仕事先の後輩、田中さんが中学生の時の話だそうだ。
田中さんの学校には所謂『学校の怪談』と呼ばれるものがあった。
『トイレの花子さん』、『赤マント』、『テケテケ』、『音楽室のベートーヴェン』……有名な都市伝説、学校の怪談が数多くあったが、その中でも田中さんが1番恐れた噂があった。
それは『カシマさん』。
当時、以下のような噂が流れていたそう。
【2階の女子トイレに『カシマさん』が出る。その『カシマさん』は3つの質問をしてくる。その質問に正しく答えなければ身体の一部を持っていかれる】
何故、彼女がこの噂を恐れていたのか……それは彼女がこの噂を知った時、その『2階の女子トイレ』の掃除当番だったからである。
彼女の中学校では、トイレ掃除は日直がやることになっていたからである。
夕方、日直の男の子は男子トイレの掃除に。自分も女子トイレの掃除を行う為に中に入る。
「………うさ……おか……」
何処からか声が聞こえる。
(え?)
辺りを見渡すが誰もいない。
気のせいかな……そう思った矢先。
「お……さ……お……あ……」
やはり声は聞こえる。
誰もいないはずの女子トイレ……。その声は3つある個室の1番奥から聞こえる。
(か、『カシマさん』?!)
田中さんは恐怖に駆られた。
噂の『カシマさん』が本当に出たんだ……彼女の頭の中は恐怖と動揺で一杯で、トイレの入口で動けなかったそう。
「お……さん……おか……ん」
何を言っているのか分からない。しかし、それは悲しげな小さな女の子の声だということは何となく分かった。
田中さんは怖さで動けはしなかったが、耳を澄ませて何を言っているのか聞こうとした。
「お父さん……お母さん……」
はっきりとそう聞こえた。
誰かが居る……そう思った田中さんは声をあげる。
「大丈夫?」
しかしその問いに対する返事はなく、ずっと悲しそうな声で
「お父さん……お母さん……」
という声だけが聞こえる。
悲しげな声に心配になった田中さん。
「大丈夫だからね」
優しい声で語りかけながら声が聞こえる3番目の個室に向かう。
「心配いらないから……」
と個室を覗いた瞬間、田中さんは恐怖で固まったという。
声が聞こえていた3番目の個室には誰も居なかったという。
「お父さん……お母さん……」
すぐ足元から聞こえた。
田中さんは恐怖で体を震わせながら、ゆっくりと下を見た。
そこには血だらけの女の子の悲しそうな顔があり、じっとこちらを見上げていたんだそう。
気が付くと目の前には白い天井が見えた。
保健室にいるんだ……彼女はそう直感したという。
後で学友から聞いた話だが、余りにも掃除が長いと思った日直の男の子が先生を呼んできて、中で倒れている田中さんを発見。そのまま保健室のベッドに運び込まれたそうだ。
あの女の子は一体何だったのか……
私がそう考えていると田中さんが話をこう締めくくった。
「友達から聞いたんですが、私が倒れていところを発見された時、その3番目の個室から『何か』が見つかったんだそうです。先生達にその事を聞いても青ざめた顔をして何も教えてくれないんです……何かあったんですかね?」
見つかった物がなんなのか。どんな経緯がその学校にはあり、そして先生達はどんな事情を抱えているのかは今は分からない話だ。
しかし、私は話を聞いてこう考えている。
その女の子こそが、本物の『カシマさん』であったと。そして、都市伝説は『伝説』ではなく、確実に怪異が起こっている……と。