40.災い転じて福となす
入社の前年、エスティローダーはスキンケアラインを刷新するために「SACSP(スイス・エイジング・コントローリング・プログラム)」を導入しました。そのプログラムは残念ながらマーケティング戦略が現場まで徹底されなかったので、売上予算が未達成で、悪い事に、導入を成功させるために、求めやすい価格の「スターターキット」を肌質に応じて2タイプを発売したのですが、ほとんど売れずに倉庫に山積みになっていました。上代が3,800円で合計4,000コ近くが不動在庫となっていました。売り切らないとエージ・リミット(賞味期限)が迫り破棄せざるを得なくなります。そこでニューヨーク本社から、1コについて500円のサポートをするから全てを売り尽くして欲しいと言われたのです。アメリカ本社に返品しても日本語表示のために他国で処理できません。この要望をクリアできなければ私の評価は下がってしまいます。そこで、この難問題を災いではなくチャンスとして捉え、現場のビューティアドバイザーと接する機会にしようと考えました。
500円の援助費用を全額ビューティアドバイザーに対するキャッシュ・インセンティブに使う企画を立案しました。「在庫一掃計画書」と銘打って営業部長に提出しました。営業部長主催の営業会議に呼ばれてプレゼンテーションしましたが、予想の通り積極的に協力する返事をもらえませんでした。しかし、これはニューヨーク本社からの特命事項であり実施しなければなりません。私個人の問題ではなく事業部全体の問題です。これをお墨付きにして、現場のビューティアドバイザーに企画を説明する許可を勝ち取りました。特に大型店に関しては個々に詳細にわたって企画の主旨を説明しました。すると、驚いたことに、いままで1年以上も不動だった在庫が2週間で全部処理できたのです。現場のビューティアドバイザーも危機感を感じていたのかもしれません。即座に全店のカウンターに在庫処理の完済のお礼の電話いれました。現場の反応は「まさか東京本社のスタッフからお礼の電話がくるなんて信じられない。今までこのようなことはありませんでした。これから一生懸命頑張ります」と力強い返事が返ってきました。価値観を共有することができたと実感した瞬間です。
それからというものは、「災い転じて福となす」これができるのが、責任ある管理職であると言い続けています。