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WUNDERKAMMER

ショートショート 521~530

2019.06.10 14:24

521.祖父の葬儀後、家の中で気配や祖父の香水や湿布の匂いがする時があり、「まだ祖父がいるのか」と家族で喜んでいた。しかし引っ越した後その家は女、男、子供の、更には化物が出ると心霊スポットになった。

今でも祖父はそこにいるのか。いや、私達が感じていたアレは本当に祖父だったのだろうか。

・・・

522.「死に行く用事ができました」

学生時代、共に不死を誓った友人がそう言った。久方ぶりに会った友人の目はその時と変わらず、詳細は知らぬが達者でと私は手を握った。

翌日、彼女は美しく自然死した。棺の彼女は冷たく、しかし私は彼女の最期を共に過ごす相手として選ばれた事が無性に誇らしかったのだ

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523.「何故ここに赤色を入れたんだ?」

展示会にて、審査員も顧問も誰一人言わず気付かなかった一筋の赤色。この赤の為に絵を描いた。「この赤がこの絵の全てな気がする」彼は僕の目を通し右脳にそう告げた。

今僕は絵に魂を売り名画家と言われている。だが僕の絵を本当に理解したのはきっと生涯彼だけだ。

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524.「彼は確かに死にました。

私の頬を撫で、『いい子だ。体に気を付けなさい、十時までには眠りなさい、時には逃げなさい、それと…』と消えゆく声で、撫でる手が止まるまで。

彼は確かに人でした。少なくとも私の父でした。これからもずっと。」

写真には、量産型ロボットに抱きつく彼女が写っていた。

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525.そのドールハウスからはよくラップ音、もとい生活音がする。足音やドアの開閉音、カチャカチャと食器を使う音。開けると音は消え、しばらく無音になってしまう

ふと思い立ち玄関に小さな熊のぬいぐるみを置くと家の中へ引き込まれ、子供部屋であろう部屋に鎮座していた

それだけで私は充分である

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526.「一番小さい頃の記憶を教えて」

そう問うと大半の人が怖かった記憶、トラウマを答えるという。

怖い話にある「なんとなく不気味で怖い」、それは例えば犬がどこかを見て怯える様に、本能や魂の奥底にあるトラウマが反応しており、またきっとそれが所謂恐怖のイデアなのだと思う。

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527.オランダにて、唐紅に妖しく輝く石を発見した。科学者が分析しようと石を削るとひびが入り、そこから血の様な赤い液体が溢れでた。結局その液体は微量の毒を含むだけの水だったが、何故2cm程の小石から5Lもの水が出てきたのかは分かっていない

噂ではそれは賢者の石だったのではと語られている。

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528.彼女の生傷が絶えた。傷跡とともにお転婆も消え去って、きっと私が見ていたのは彼女の一生のうちの台風であり、そしてそれは過ぎ去ってしまったのだ。椅子に座り膝を並べ、虫と戯れる事を拒む彼女。椅子に立ち片足を上げ、芋虫を指先に微笑む彼女はもういない。君に美しい花を。嗚呼これは葬いである。

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529.細い路地に真っ赤な提灯が灯っていた。覗くと真っ暗な奥にむかい、ぽんぽんと赤が続いている。奥へと進むと段々と草木が伸びてきて、それを抜けると暖かな光が差し、目を開けると巨大な猫が其処彼処を歩いていた。

「お嬢さんマタタビどうだね」そう声をかけられ、初めて猫になった事に気が付いた。

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530.その地区は4月30日に閉じ込められてしまっていた。魔女の魔術の失敗か、将又平成の抗いか。四角く区切られたそこは23時59分の空をそのままに、深海の如き暗さを保っている。時代の波の溜まり場よろしくプカプカと全てが漂うそこには、時代錯誤のゲーム機と、それを握り眠りこける少女が浮かんでいる。