理学療法士の自分が、家族が脳卒中になってしまった場合、脳卒中の保険外・自費リハビリを勧めるか?⑦
おはようございます。University College London (UCL)の理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。
数回に渡って、保険外・自費での脳卒中のリハビリに関して書いています。
前回は、『量』と『強度』に着目した脳卒中後のリハビリに関して書きました。
今回は、このシリーズは最終回で、復職と自費リハビリ関して書きます。
私が認識していること・前提として
・2019年時点で、発症後半年以上たってから、リハ専門職によるリハビリを長く継続することで復職の確率が上がるという説得力のあるデータはない。
・復職に関しては、半年間みっちりとリハビリをしても復職出来ていない場合、かなり厳しい。
・復職率を上げるというデータがない中で復職に繋がるかのように見える記事には違和感がある。
この前提が間違っていた場合は、以下の話は間違いになってしまいますし、今後その様なデータが出て、「私が間違っていました。すみません。」と謝る日が来ると良いとも考えています。
『ドリルを売るな、穴を売れ』と言う、マーケティング(?)の言葉があります。
これは、お店にドリルを買いに来る人は、『ドリル』が欲しいのではなく、『何かに穴をあける』という価値を求めている。お客さん自身も自分の欲しいものが正確に分かっていない場合があるため、『うちの店で、板を買って頂くと、その板に穴をあけてお渡しできます』というような提案ができるかもしれない。お客さんが真に求めている価値を考えなさいという意味であると理解しています。
なぜ、いきなりこんな話をしたのかと言うと・・・、
『職場復帰』を目標に掲げる脳卒中後の患者さんが必要なのは、必ずしも『患者さん本人の復職』ではないかも知れません。
患者さんのニーズを少し深堀した時に、
『家族が経済的に困った状態になる事を避けたい。』
というのが真のニーズなのであれば、リハビリに対する更なる高額の投資よりも、
・新しい業務や社内で配置転換のようなことをしてもらい、そのための職業訓練することなのかもしれません。
・配偶者のいる方であれば、配偶者がお勤めに出るのをサポートするための家事の練習かもしれません。
・家族が家を安心して空けられるように、デイサービスや訪問看護などで患者さんを見る目が必要なのかもしれません。
・公的な経済援助に関する知識が必要なのかもしれません。
この様に、リハビリ以外の選択肢で『家族が経済的に困った状態になることを防ぐ』ということが、より簡単にできることもあると思います。
(お仕事自体が大好きで、お仕事をすること自体がその方にとって意味の大きいものの場合は、確率があまり高くなくとも自主リハビリを使ってみるというのはありかも知れません。)
体の機能を保つ、改善するためにリハビリを継続する必要性に関しては、疑いの余地はないですが、何にコストや時間を掛けるかを考えて頂くことは重要であると思います。
今後、自費リハビリがどんどん増えて、限られたパイを奪い合う段階に入ったら、少しでも多くの患者さんを顧客にするために、 『回復を諦められない人は、是非うちでサービスを受けて下さい』 というような煽り方をするようになっていく気がします。
この様な煽り方をされてしまうと、もっとリハビリをやった方が良いのではないかと、ソワソワしてしまう患者さんやご家族が出てこないか心配です。
当たり前ですが、人はリハビリをするために生きているわけではありません。 何か達成したいゴールがあるので、その道具の一つとしてリハビリがあります。
達成したいゴールにリハビリが必要でない場合は、コストや時間を掛ける必要はありません。そして、リハビリが必要かの最終的な判断は、患者さんのご家族さんがするものです。
リハ専門職の一人ですので、『リハの可能性』には大いに関心があります。自費リハで職域が広がるのも素晴らしいです。 でも、リハはあくまでも沢山の要素の一つでしかないとも考えています。
必要な方にしっかりとリハビリサービスが届き、必要でない方には別のサービスがしっかりと届くことが重要だと思います。
復職に関することに限りませんが、『患者さんの限りある時間、お金を何に費やすか??』を考えて、リハビリに限らない方法で、患者さんの希望に最も近付けるようなサポートができると良いなと思います。
自費リハに関わる方が、「なんでもかんでも自費でもリハビリを続けるべきだ」というような極端な主張をなさっていないことは重々承知しています。
ただ、理学療法士として、私は現状では、発症180日が経過した後の脳卒中患者さんへの自費でのリハビリの適応は非常に限られているという認識です。
自費リハについて考えるシリーズは今回で終了です。
今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございます。
理学療法士 倉形裕史
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