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1400億年後の君に

2019.06.01 01:02

1400億年後、宇宙の熱は均一になり、終焉を迎える。


人間がどんなに努力しても、それは変わらない。

私の心には虚しさと、だからこそ、人が生きた一瞬の出来事に、いとおしさを覚える。


宇宙もまた、私の心と同じように、離れようとする斥力と、互いに引き合う引力の、2つの力が働いている。

全体的に見れば、宇宙に生じるエネルギーは全体に渡り、拡散しようとしている。

どこまでも、どこまでも、果てしない空間を広げていき、やがてすべてが均一になったとき、宇宙は活動することを止める。


それに反し、エネルギーの集中や宇宙の縮小といったことが、局所的に発生している。


宇宙の初期にあったエネルギーの渦の中から物質が誕生し、熱が拡散していく過程で、さまざな銀河が生まれた。

その中の一つの銀河から、地球という星が生まれ、炭素化合物の有機生命体はやがて人類を誕生させた。


宇宙の歴史から見ればほんの一瞬の間に人間は存在し、一瞬にも満たない刹那の瞬間に、一人の人間の一生がある。


そんな瞬間にしか存在しない一人の人間も、生きるという瞬間の間に、様々なことをする。

その様々なことの中で、多くの時間を人は、何かを経験するということと、記憶したことを反芻するということで費やす。


人は自分個人の収入をあげるためでも、自分一人が心地よく生きるために、勉強したり学習するわけではなく、一人の人間の経験を、普遍性へと広げ、理解を広げるために、生きている。


だけどそれではどきどき寂しくなって、人は個人的な思いや体験を心に集め、大事にする。


そうして人がもたらした普遍性と、個人的な思いは宇宙の記憶に刻まれる。

私の記憶も、彼の記憶も、もちろんあなたの記憶も、あらゆる人間の記憶を宇宙は覚えている。


口に含んだチョコレートの甘み。

新緑の深い緑の優しさ。

些細なこと。

アヒルのオモチャ。

ぬいぐるみ。

ノートに書いた落書き。

誰かを好きだったこと。

夜空に輝く星々。

梟の鳴く声。

海の水の冷たさ。

白米の上の湯気の揺らぎ。

あなたが生きて経験したすべてが、かけがえのない記憶として刻まれている。


やがて、時間は残酷なように過ぎていく。

私もあなたも、やがて亡くなるだろう。

人類もやがて滅びてしまう。

地球の寿命も尽きて、太陽もやがて燃え尽きる。

太陽系がなくなり、銀河系もなくなり、すべての物質は崩壊し、あらゆる粒子は消えてなくなる。

1400億年後、普遍に広がったエネルギーに満たされながら、宇宙はすべての記憶を反芻し、宇宙は再び、あなたのこと、あなたの経験したことを、いとおしく思い出す。


掲示板の文字。

エメラルドの輝き。

アイスクリーム。

絹の肌触り。

雨の匂い。

あらゆる興奮。

嬉しかったこと。

幸福の感情。

感謝。

生きて経験したすべて。


1400億年後の君に、再び会えることを嬉しく思う。

そして今、あなたという存在があることに感謝する。

ありがとう。