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青川素丸 表参道の父

中国の水時計

2019.06.01 17:17

 中国では古く、水時計が使用されてきました。《隋書・天文志》によると、「昔黄帝創観漏水、制器取象、以分昼夜。」と書かれています。そもそも、黄帝が実在の人物かもわかりませんが、水によって昼夜の時を知る技術を古くから手にしていたのは確かです。中国ではこの技術を「漏水計時(ろうすいけいじ)」と呼びます。最も古い文献は《周礼(しゅうらい)》の「挈壷氏(けつこし)」が有名です。人名ではありません。これは挈壷氏と言う水時計を管理する役務です。「掌挈壷以令軍井…凡軍事、悬壷以序聚柝…皆以水火守之、分以日夜」と、説明されており、挈壷氏は軍事において水時計(軍井)を管理し、その水切れや凍結などに注意を払っていたようです。その水時計=漏刻(刻漏)も幾つかの種類が発明されました。

 左図は「沈箭式(ちんせんしき)銅漏壺(どうろうこ)」と呼ばれている水時計です。壷の下側面(図では壺の左下)に管があって、壷の中に貯めてある水が少しずつ流れ出します。水位の下降を観察することで正確に一定の時間経過を知ることができる計時器なのです。水位の下降は、時間を刻んだ細長い棒「箭(せん)」を水面に浮かべて測定していきます。この沈箭漏(ちんせんろう)の欠点は水が減り水面が下がると、水圧も低下していきます。つまり、次第に減りの速度が遅くなってきます。実はこの問題を解決するには、図のように円筒ではなく、本来は壷を錐形にする必要があったのです。

 さて、古来中国では最小の時間単位が「刻」でした。ですから、水時計から算出した時刻を漏刻と呼びました。例えば昔は昼夜を一百刻や、九十六刻などの時法で管理してきました(ただし、この壷の容積と「刻」単位とは関係がないので要注意。昔は管孔を小さくして、刻に合わせカスタマイズしていたと考えられています)。

 沈箭漏の次に開発された水時計は浮漏と言うものです。上の右図は、唐の呂才(りょさい)が発明したとされる五壷浮漏(ごこふろう)です。これは水溜めの箱(池or壺)を複数個設置し、水溜めの高さを一定にすることで、先の沈箭式銅漏壺で問題となった水圧による速度のムラを抑える=時間を等間隔に計ることができるようになった訳です。図の一番最後(左)の壷は水海と呼ばれる箭壷(せんこ)です。この浮漏図では、水が溜まると人形が浮かび上がって、時刻を教えてくれる仕組みになっています。

 この浮漏の次に出てきたのが「秤漏(しょうろう)」と言う水時計(下図)です。五世紀頃に北魏の道士・李蘭(りらん)が発明したもので、唐代《初学記》の中に記述が残されています。それによれば、「以器貯水,以銅為渴烏,狀如釣曲,以引器中水於銀龍口中吐入權器,漏水一升,秤重一斤,時經一刻。」と書かれています。

 つまり、右の貯水器に銅盆が浮いていて、その中にも水が入っています。銅盆と左の銅壷(どうこ)とは「渇烏(かつう)」というサイフォンの原理で繋がっています。貯水器には、水拍(すいはく)という円状の木板を浮かべて水圧を一定に保たせ、また銅盆の水面の高さ(=位置エネルギー)が一定になるよう作られているので、水流は一定になるという考えです。こうして銅壷と釣り合う秤重(ひょうじゅう)の支点からの位置で時間がわかる仕組みができていました。

 そして、11世紀頃、浮漏に改良が加えられた「漫流式(まんりゅうしき)浮漏」が北宋の燕粛(えんしゅく)によって発明されます。これは蓮花漏(れんげろう)と呼ばれるもので、「渇烏」の原理を採用して水面の高さが一定になるように仕組まれているだけでなく、上図の下匱(かき)という一段下がった漏壷から溢れ出た水を(図左の)「減水盎(げんすいおう)」という壷へ、逃がす工夫が施されています。こうして、浮漏の技術はほぼ完成をみることになります。

 これら水時計では気温や水の質の問題があり、精密に時刻を計るために次第に水温が安定した密室に設置されるようになるのです。やがて、水時計は天文学と融合し「水運儀象台」へと進化します。これは天体を観測できる大型天文時計で、水車を利用して、時刻を正確に計るだけでなく、渾儀(こんぎ)(=天体を観測する場所)、渾象(こんしょう)(=天球儀)も備えた巨大施設です。これが11世紀には建設されました。このことからも、中国の天文や時間に対する関心が非常に高かったことを窺い知ることができるのです。

 水を動力とした時計は他にも数多く発明されていますが、水運儀象台他の時計の仕組み等は、中国の暦書に数多く記されており、詳細をお知りになりたい方は、原書をお読みになることをお勧めします。



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