"a thousand winds"「千の風になって」考 ③
https://kibashiri.hatenablog.com/entry/20070120/1169277319
より
●素晴らしい原詩"A Thousand Winds"のなぞ〜原作者不明が残念
さてこの作者不詳の「A Thousand Winds」という英語原詩ですが、この素晴らしい詩の作者が不明とはとても残念なことだと思いました。
この詩には興味深い特徴があります。
Do not stand at my grave and weep.
I am not there, I do not sleep.
私の墓石の前に立って
涙を流さないでください。
私はそこにいません。
眠ってなんかいません。(柳田邦男訳より)
この導入部分ですが、欧米の宗教観から見ても反発を受けかねない斬新な切り口なのですよね。
キリスト教徒でも墓石の前に花を手向け亡き人に祈りを捧げる慣習は広く普及しているわけです。
"I am not there, I do not sleep."(私はそこにいません。眠ってなんかいません。)とは、どのような背景からこの欧米人と予想される作者が思いつきそして詩として生まれたフレーズなのか、とても興味深いことなのです。
あと、全編を通じてこの詩に明確に登場する季節を示す単語はなぜか「秋」だけです。
I am the gentle autumn’s rain.
秋には
やさしい雨になります。(柳田邦男訳より)
ここもふたつの意味で興味深いです。
なぜ秋だけが"autumn’s"と明示されたのか、そしてアメリカ人なら"Fall"を使用するだろうにあえて"autumn’s"を使用したのかなぜなのか、作者はアメリカ人ではなくイギリス系英語圏の人なのかも、とも考えられるわけです。
・・・
●素晴らしい原詩"A Thousand Winds"の感動的な誕生秘話〜原作者と有力視されてるメアリー・フライ(Mary Frye)というアメリカ人女性の感動的なエピソード
少しネットで調べたら上記の謎は解消できました。
オーママミア Quinn様が丁寧に"A Thousand Winds"の原作者について調査しわかりやすいまとめサイトを作られていました。
「千の風になって」の詩の原作者について
執筆:オーママミア Quinn
http://www.mahoroba.ne.jp/~gonbe007/prof/1000winds.html
「「千の風になって」の詩の原作者について」の冒頭文を失礼して抜粋。
こちらの掲示板でたびたび話題となった『千の風になって(Do not stand at my grave and weep)』の原作者についてまとめてみました。結論から言うと、原作者はメアリー・フライ(Mary Frye)というアメリカ人女性です。
そしてこれが、彼女の生まれて始めての作詩でした。
各国で行われる戦争記念日、慰霊祭では、必ずといってよいほどこの詩が登場し、遺族の心を和らげています。しかし、あまりに有名な詩にもかかわらず、原作者については、つい最近まで知られることなく過ぎてきました。この詩人が市井の人を貫いたため、資料が少なかったのがその理由だと思われます。
比較的まとまっている英文資料から、一部抜粋して訳してみました。ご参考となれば幸甚です。
なるほど、詳しくはあちらをお読みいただくとして、原作者はメアリー・フライ(Mary Frye)というアメリカ人女性だったのだそうです。
感動的なのはこの詩の誕生秘話です。
メアリーの地元ラジオ局でのインタビューより
メアリー・フライは家庭的で、常識があり快活な94歳のようだ。
これはメアリーが自身の言葉で語った親友マーガレット・シュワルツコフ(Margaret Schwarzkopf)の事である。
時は1932年に遡る──
「そうね、マーガレット(ドイツ系ユダヤ人)はドイツから来たの。ちょうどヒットラーが政権を取ってね、お母様も国外に出たかったんだけど、老齢の上、具合も悪くて来れなかったのよ。彼女はそれこそ何時もお母様の事を心配していたわ。何しろ全然手紙が来ないのよ、だから日ごとに心配を募らせていたわ。
私たち大使館を通してできる限りのことをしたわ。わかるでしょ? その手の事って。ようやく事が判明したんだけど、お母様は亡くなってたの。それで、マーガレットは実際に神経衰弱を患ってただ泣くばかり。毎日、毎日泣き暮らしていたわ。
ある日一緒に買い物に出たの、茶色の紙袋に買ったものを入れて、家のキッチンテーブルで仕分けをしていたのよ。そしたらね、何だか分からないけど、私の買ったものを見てマーガレットが泣き出したの。「それ、私の母が好きだったの。」ってね。
「マーガレット、お願いだから泣かないで。」っていったの。そうしたらマーガレットがね、「何が一番悲しいかって、私は母の墓標の前に立ってさよならを告げる事も出来ないのよ( I never had the chance to stand at my mother's grave and say goodbye.)。」涙に目をぬらしたまま、2階の自室にひきこもったわ。
(注;ドイツの情勢が反ユダヤ人に向かっており、帰れる状況ではなかった。)
その時メアリーの手には、買物を点検するためのペンが握られていた。メアリーは、引きちぎった茶色の買物袋に、一息に込み上げる詩を書き付けた。
しばらくして、落ち着きを取り戻したマーガレットが階下に下りてきたとき、メアリーはマーガレットに紙切れを差し出した。「これ、私が書いた詩なの。私の思う〝人の生と死のあり方〟なの。あなたのためになるかどうか分からないけど。」
マーガレットは詩を一読し、メアリーを抱きしめて言った。「私この詩を一生大切にするわ。」そして、もう泣く事は無かった。
・・・
感動しました。
ナチスに追われてアメリカに来た友人マーガレット(ドイツ系ユダヤ人)が、「何が一番悲しいかって、私は母の墓標の前に立ってさよならを告げる事も出来ないのよ( I never had the chance to stand at my mother's grave and say goodbye.)。」という悲痛な叫びに対する、"A Thousand Winds"は優しいアンサー詩だったのですね。
Do not stand at my grave and weep.
I am not there, I do not sleep.
私の墓石の前に立って
涙を流さないでください。
私はそこにいません。
眠ってなんかいません。(柳田邦男訳より)
この冒頭の入り方は「母の墓標の前に立ってさよならを告げる事も出来ない」マーガレットの悲しみを癒すために生まれたのですね。
1932年にメアリーが書いたオリジナルバージョンとオーママミア様の訳詩も失礼してご紹介です。
1932年にメアリーが書いたオリジナルバージョン
Do not stand at my greave and weep
Words by Mary Frye
Do not stand at my grave and weep
I am not there, I do not sleep
I am in a thousand winds that blow
I am the softly falling snow
I am the gentle showers of rain
I am the fields of ripening grain
I am in the morning hush
I am in the graceful rush
Of beautiful birds in circling flight
I am the starshine of the night
I am in the flowers that bloom
I am in a quiet room
I am in the birds that sing
I am in the each lovely thing
Do not stand at my grave and cry
I am not there I do not die
千の風になって
オーママミア訳詞(文才無くてすみません m(_ _)m )
私の墓標の前で泣かないで
私はそこにいないのだから 私は眠ってなんかいない
私は千の風になって渡ってゆく
私はやわらかく 舞い降りる雪
私は優しく降り注ぐ雨
私は野に実る穂
私は朝の静寂の中に
私は水辺にたなびく灯心草
空を旋回する美しい鳥たちとともに
私は夜空の星の光
私は咲き誇る花たちとともに
私は静かな部屋の中に
私は歌う鳥たちとともに
私は全ての素晴らしいものとともにあるの
だから、私の墓標の前でなかないで
私はそこにいないの 私は死んではいないのだから
そうか原詩では季節を示す言葉は一箇所もないのですね。
・・・
すべて納得であります。