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最初の発句は「挨拶句」

2019.06.04 05:00

http://www.local.co.jp/renku/2.html   より

最初は、五・七・五の長句からです。基本的には、その最初の発句を「挨拶句」と言い、それを受けて付ける短句七・七を「脇句」と称します。

挨拶句=発句は、捌き手がつくるケースが多いのですが、鍋奉行のような捌き手が、連衆に「みなさん、まず発句(挨拶句)を出してください」と、言う場合もあります。

挨拶句=発句は、読んで字の如しで、挨拶の句です。人に会うと「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」などと言うのと同じです。

これを「時と所」を盛り込んでつくります。時は「季語」、所は「その場所に関連するものや事柄」などです。新年であれば新年を、春であれば春を、夏であれば夏を、秋であれば秋を、冬であれば冬をと、季語を入れ、その場所に関連するものや事柄を盛り込んで詠みます。

どんな挨拶句があるのか、例を松尾芭蕉に見てみます。

さみだれをあつめてすずしもがみ川

これは『奥の細道』に出てくる句で知られる「五月雨をあつめて早し最上川」の原形です。芭蕉は、弟子の曾良と共に俳諧の旅に出て、最上川のほとりの「一栄・高野平右衛門」宅で連句を巻き、その「発句=挨拶句」で「さみだれをあつめてすずしもがみ川」と詠んだのです。元禄二年仲夏末のことでした。

人に会って「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」などと挨拶すると、相手も「どうも~」とか「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」とか言って、お互いに挨拶を交しますが、誰かのお宅にお邪魔した時はどうでしょうか? それも、「おっす!」と「おぅ!」の関係ではなく、ある程度、緊張感が伴なう場合や、初対面に近い状態でお邪魔する時などは、あなたならどう挨拶しますか?

連句の挨拶句は、それと同じで、質的にも堂々と独立してしっかりとした個性や思想が醸し出されるものでなくてはなりません。「脇句」もこれと同じで、そうした挨拶を受けての返事のようなものです。この「挨拶句=発句」と「脇句」で、その座の挨拶が済み、連句の座における「一期一会」の風格も決まります。

発句をつくる際は、「時と所」を盛り込んでつくり、脇句をつくる際は、発句の句柄に密着した「同じ季節、同じ時刻、同じ場所」を補完するような感じにしてつくります。

芭蕉の時代には、発句を招かれた客が詠み、その句を受けて招いた側の主人が「脇句」を付けるのが一般的でした。芭蕉の挨拶句に一栄・高野平右衛門は、どう返事をしたかというと「岸にほたるを繋ぐ舟杭(ふなぐい)」と付けています。

発句  さみだれをあつめてすずしもがみ川(芭蕉)

 脇   岸にほたるを繋ぐ舟杭(一栄)

芭蕉が、「時と所」を盛り込んでつくった句に、一栄が、「同じ季節、同じ時刻、同じ場所」を補完するように句を付けたのですが、勿論、そんな基本だけで詠まれたのではないのが名人の名人たる由縁。これを私たちが、さらに読み込んで、どう解釈するかで、連句の深さや質が変わっていきます。

芭蕉はただ単に、最上川の情景を詠んだだけではなく、一栄も、その情景を補完するためだけに詠んだのではありませんが、この連句解釈は、まだ先のテーマとして置いておくことにします。

名人の句はうますぎるので、素人の句を例にあげると、次のようになります。これは、トップページの勉強会の案内にもある定例の座での句です。

時は冬、場所は山口県内、捌き手は、講師の八木紫暁さんです。

発句  ひれ酒に馬関の夜は更けゆくや(圭子)

 脇   どっと崩れて燻る囲炉裏火(七水)

最近は、発句には「切れ字」を使うのがよろしい、という風潮があり、基本的に「や」とか「けり」とか「かな」などを用いますが、それにこだわる必要もありません。脇句の下七は「体言留め(名詞)」にするのが一般的だ、とされています。

挨拶が済むと、これから歌仙の本番です。

●連句・歌仙の巻きかた●

「発句」と「脇句」が出ると、歌仙一巻の始まりです。「発句」と「脇句」を一対のものとして捉えつつ、目線を転じ、五・七・五で付けます。「発句」と「脇句」に対して、次の句は「第三」と称します。

『さみだれを』の歌仙にみると、第三は、芭蕉の弟子・曾良が「瓜ばたけいさよふ空に影まちて」と付けています。

発句  さみだれをあつめてすずしもがみ川(芭蕉)

 脇   岸にほたるを繋ぐ舟杭(一栄)

第三  瓜ばたけいさよふ空に影まちて(曾良)

『ひれ酒に』を例にあげると、次のようになります。一応、「発句」と「脇句」の「情景」から転じています。「題」は発句からとるのが一般的です。

発句  ひれ酒に馬関の夜は更けゆくや(圭子)

 脇   どっと崩れて燻る囲炉裏火(七水)

第三  威勢良き目覚ましの音とび起きて(靖士)

第三は「て」「に」「らん」「もなし」の留め字を用いるのが普通だとされています。

第三の句を受けて、次は、テンポをつけるように軽くサラリと七・七の句を付けます。第三の次の表(おもて)の「四」は「四句目=しくめ」とも称します。

第三  威勢良き目覚ましの音とび起きて(靖士)

 四   素振り百回少年剣士(俊正)

次は表の「五」です。そこでは、月の句を詠むのが一般的です。発句が春、夏、冬の場合は、秋の月を、発句が新年の時は春の月を、五・七・五で詠みます。発句が秋の月の時は「雑(ぞう=無季)の句」を詠みます。主に月を詠む場合が多いので「月の座」とも称されます。

 四   素振り百回少年剣士(俊正)

 五  開け放つ裏戸に月の顔覗き(育子)

「月の座」の次は表の「六」です。秋の月には、秋の句を七・七で付けます。

 五  開け放つ裏戸に月の顔覗き(育子)

 六   軒に吊られし小さき虫籠(歌寿)

発句からここまでを「表(おもて)六句」と称します。

発句  ひれ酒に馬関の夜は更けゆくや(圭子)

 脇   どっと崩れて燻る囲炉裏火(七水)

第三  威勢良き目覚ましの音とび起きて(靖士)

 四   素振り百回少年剣士(俊正)

 五  開け放つ裏戸に月の顔覗き(育子)

 六   軒に吊られし小さき虫籠(歌寿)

上記のように「表六句」に至るまでは「決まりごと」が一句一句にあるので、進行のスピードもなかなか上がりません。「決まりごと」を「式目」と称しますが、これに振り回されると「面倒くさいなぁ」と感じることもあります。でも、長距離ドライブに行くのと同じで、助走の暖気運転のようなものです。言い替えれば、気分が乗るまでの、欠くことの出来ない手順でもあります。これが過ぎれば、自然と気分が乗ってきて、「式目」についても「決まりごと」があるから起承転結あるいは「序・破・急」のメリハリも出るのかな、ということにほんの少し気付きます。

ちなみに名人たちの句はどうかというと、『さみだれを』の歌仙に例を戻して「表六句」を。

発句  さみだれをあつめてすずしもがみ川(芭蕉)

 脇   岸にほたるを繋ぐ舟杭(一栄)

第三  瓜ばたけいさよふ空に影まちて(曾良)

 四   里をむかひに桑のほそみち(川水)

 五  うしのこにこころなぐさむゆふまぐれ(一栄)

 六   水雲重しふところの吟(芭蕉)

俳諧名人の巻く連句は、「決まりごと」の「式目」に振り回されることもなく、むしろ、それを超えたところで連々と続いていくようです。

座を囲むと、「表六句」が終わるまでは一服もおあずけが原則です。「表六句」に至って、しばしくつろぎのティータイムを迎えます。そして、コーヒーや紅茶、はたまた緑茶や番茶をのみ、菓子などをパクつきながら次の句へとすすんでいきます。いくら「パクつきながら」といっても、礼節は必要です。句座作法には「飲食出すも受くるも適量のこと」とあります。