Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

特別の教科「道徳」指導案

道徳教育論-理論と実践-(12)

2019.06.06 10:53

2、中学校学習指導要領(平成29年告示)特別な教科 道徳

日本の公立小中学校で行われている教育は、道徳教育も含めて「学習指導要領」に従って実施される。

したがって、日本の中学校で行われている道徳教育を理解し、道徳授業を実践できる力を育むためには、学習指導要領及び、その道徳編を含めすべて理解する必要がある。

そこで、効率的に理解するために重要となる内容の把握と道徳授業の実践力を体得する上で、押さえなければならない部分や文章を取り上げながら、核心となる部分の理解が効果的に進むよう配慮しながら、学習指導要領を見ていきたい。

 学習指導要領(平成29年)の冊子は、冒頭に「教育基本法」「学校教育法」「学校教育法施行規則」が添付され、続く形で「中学校学習指導要領」が書かれている。

これは、法の精神に則り、「学習指導要領」が作成されていることを意味している。

この点については、「学習指導要領第1章総則の1」に、次のように書かれている。

「各学校においては、教育基本法及び学校教育法その他の法令並びにこの章以下に示すところに従い、生徒の人間として調和のとれた育成を目指し、生徒の発達の段階や特性及び学校や地域の実態を十分考慮して、適切な教育課程を編成するものとし、これらに掲げる目標を達成するよう教育を行うものとする。」と書かれている。従って、道徳教育が踏まえるべき、法令に書かれている教育に関わる「目標」を確認することが重要となる。

「教育基本法」

第1条(教育の目的)

    教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。

第2条(教育の目標)

    教育は、その目的を実現するために、学問の自由を尊重しつつ、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。

 1 幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと。

 2 個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。

 3 正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。

 4 生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと。

 5 伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。

第5条(義務教育)

   国民は、その保護する子に、別に法律で定めるところにより、普通教育を受けさせる義務を負う。

 2 義務教育として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会におい

   て自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。

 3 国及び地方公共団体は、義務教育の機会を保障し、その水準を確保するため、適切な役割分担及び相互の協力の下、その実施に責任を負う。

 4 国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料を徴収しない。

「学校教育法」

第21条(義務教育の目標)

     義務教育として行われる普通教育は、教育基本法第5条第2項に規定する目的 を達成するよう行われるものとする。

  1 学校内外における社会的活動を促進し、自主、自律および協同の精神、規範意識、公正な判断力並びに公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。

  2 学校内外における自然体験活動を促進し、生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこと。

  3 我が国と郷土の現状と歴史について、正しい理解に導き、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する態度を養うとともに、進んで外国の文化の理解を通じて、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。

  4 家族と家庭の役割、生活に必要な衣、食、住、情報、産業その他の事項について基礎的な理解と技能を養うこと。

  5 読書に親しませ、生活に必要な国語を正しく理解し、使用する基礎的な能力を養うこと。

  6 生活に必要な数量的な関係を正しく理解し、処理する基礎的な能力を養うこと。

  7 生活にかかわる自然現象に理解し、処理する基礎的な能力を養うこと。

  8 健康、安全で幸福な生活のために必要な習慣を養うとともに、運動を通じて体力を養い、心身の調和的発達を図ること。

  9 生活を明るく豊かにする音楽、美術、文芸その他の芸術について基礎的な理解と技能を養うこと。

  10職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと。

以上が、法令に書かれている教育に関わる目標である。

また、「中学校学習指導要領 前文」において「学習指導要領」を定める理由につい

て、次のように述べている。

 学習指導要領とは、こうした理念の実現に向けて必要となる教育課程の基準を大綱

的に定めたものであり、学習指導要領が果たす役割の一つとして、公の性質を有する

学校における教育水準を全国的に確保することである。また、各学校がその特色を生

かして創意工夫を重ね、長年にわたり積み重ねられとぇきた教育実践や学術研究の蓄積

を生かしながら、生徒や地域の現状や課題を捉え、家庭や地域社会と協力して、学習指

導要領を踏まえた教育活動の更なる充実を図っていくことも重要である。

生徒が学ぶことの意義を実感できる環境を整え、一人一人の資質・能力を伸ばせるよ

うにしていくことは、教職員をはじめとする学校関係者はもとより、家庭や地域の人々

も含め、様々な立場から生徒や学校に関わる全ての大人に期待される役割である。

幼児期の教育及び小学校教育の基礎の上に、高等学校以降の教育や生涯にわたる学習

とのつながりを見通しながら、生徒の学習の在り方を展望していくために広く活用され

るものとなることを期待して、ここに中学校学習指導要領を定める。としている。

「第1章 総則 第1 中学校教育の基本と教育課程の役割の2」においては、次のこと

が指摘されている。

2 学校の教育活動を進めるに当たっては、各学校において「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を通して、創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する中で、目指す教育の充実と、生徒に生きる力を育むことを目指すものとする。としている。

道徳教育に関わる項目の「中学校教育の基本と教育課程の役割2の(2)」をあげる。

 道徳教育や体験活動、多様な表現や鑑賞の活動等を通して、豊かな心や創造性の涵養を目指した教育の充実に努めること。

  学校における道徳教育は、特別の教科である道徳(以下「道徳科」という。)を要として学校の教育活動全体を通じて行うものであり、道徳科はもとより、各教科、総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に応じて、生徒の発達の段階を考慮して、適切な指導を行うこと。

  道徳教育は、教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき、人間としての生き方を考え、主体的な判断の下に行動し、自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことを目標とすること。

  道徳教育を進めるに当たっては、人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を家庭、学校、その他の社会における具体的な生活の中に生かし、豊かな心をもち、伝統と文化を尊重し、それらを育んできた我が国と郷土を愛し、個性豊かな文化の創造を図るとともに、平和で民主的な国家及び社会の形成者として、公共の精神を尊び、社会及び国家の発展に努め、他国を尊重し、国際社会の平和と発展や環境の保全に貢献し未来を拓く主体性のある日本人の育成に資するよう特に留意すること。と、道徳教育について述べている。

さらに、道徳教育については「総則」の項において、1つの項を独立して設け、次のような配慮事項が書かれている。

「中学校学習指導要領 総則 第6 道徳教育に関する配慮事項」

 道徳教育を進めるに当たっては、道徳教育の特質を踏まえ、前項までに示す事項に加

 え、次の事項に配慮するものとする。

 1 各学校においては、第1の2の(2)に示す道徳教育の目標を踏まえ、道徳教育の全体

計画を作成し、校長の方針の下に、道徳教育の推進を主に担当する教師(以下「道徳教育推進教師」という。)を中心に、全教師が協力して道徳教育を展開すること。なお、道徳教育の全体計画の作成に当たっては、生徒や学校、地域の実態を考慮して、学校の道徳教育の重点目標を設定するとともに、道徳科の指導方針、第3章特別の教科道徳の第2に示す内容との関連を踏まえた各教科、総合的な学習の時間及び特別活動における指導の内容及び時期並びに家庭や地域社会との連携の方法を示すこと。

2 各学校においては、生徒の発達の段階や特性等を踏まえ、指導内容の重点化を図る

こと。その際、小学校における道徳教育の指導内容を更に発展させ、自らを克服して気高く生きようとする心を育てること、法やきまりの意義に関する理解を深めること、自らの将来の生き方を考え主体的に社会の形成に参画する意欲と態度を養うこと、伝統と文化を尊重し、それらを育んできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重すること、国際社会に生きる日本人としての自覚を身に付けることに留意すること。

3 学校や学級内の人間関係や環境を整えるとともに、職場体験活動やボランティア活

動、自然体験活動、地域への行事への参加などの豊かな体験を充実すること。また、道徳教育の指導内容が、生徒の日常生活に生かされるようにすること。その際、いじめの防止や安全の確保等にも資することとなるよう留意すること。

4 学校の道徳教育の全体計画や道徳教育に関する諸活動などの情報を積極的に公表し

たり、道徳教育の充実のために家庭や地域の人々の積極的な参加や協力を得たりするなど、家庭や地域社会との共通理解を深め、相互の連携を図ること。と述べている。

「中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 特別の教科 道徳編のまえがき」において高橋道和文部科学省初等中等教育局長は、今回の学習指導要領の改訂が平成28年12月の「中央教育審議会答申」を踏まえ、今回の改訂の趣旨を3点あげた。

①  教育基本法、学校教育法などを踏まえ、これまで我が国の学校教育の実績や蓄積を生かし、子供たちが未来社会を切り拓くための資質・能力を一層確実に育成することを目指すこと。その際、子供たちに求められる資質・能力とは何かを社会と共有し、連携する「社会に開かれた教育課程」を重視すること。

② 知識及び技能の習得と思考力、判断力、表現力等の育成のバランスを重視する平成

20年改定の学習指導要領の枠組みや教育内容を維持した上で、知識の理解の質を更に高め、確かな学力を育成すること。

③ 先行する特別教科化など道徳教育の充実や体験活動の重視、体育・健康に関する指

導の充実により、豊かな心や健やかな体を育成すること。

上記の3つの趣旨を基本的な、ならいとして改訂したと述べている。

このように、学修指導要領の改訂は、中央教育審議会や政府の設置した審議会の答申内容に沿って通常行われる。

中央教育審議会109回総会(2016年12月21日開催)において「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等についての答申がまとめられた。(中教審第197号)答申には次のように書いている。

「答申の概要 第1章 これまでの学習指導要領等改訂の経緯と子供たちの現状」で書かれている内容中、「子供たちの現状と課題」の中で、「道徳教育」に関係する文章をあげる。

「豊かな心や人間性を育んでいく観点からは、子供たちが様々な体験活動を通じて、生命

の有限性や自然の大切さ、自分の価値を認識しつつ他者と協働することの重要性などを、

実感し理解できるようにする機会や、文化芸術を体験して感性を高めたりする機会が限

られているとの指摘もある。

 平成27年3月に行われた道徳教育に関する学習指導要領一部改正に当たっては、多様な人々と互いを尊重し合いながら協働し、社会を形作っていく上で共通に求められるルールやマナーを学び、規範意識などを育むとともに、人としてよりよく生きる上で大切なものとは何か、自分はどのように生きるべきかなどについて考えを深め、自らの生き方を育んでいくことの重要性が指摘されている。」

「第2章 各教科・科目等の内容の見直し」においては、次のように書かれている。

「道徳教育

  小・中学校では、平成27年3月に学習指導要領等の一部改正を行い、「特別の教科道徳」

 を新たに位置付けており、それに基づき「考え、議論する」道徳の授業への転換を図るとともに、各教科等で「学びに向かう力、人間性等」を育てることで道徳性を養う。

 高等学校では、特別活動及び公民科における「公共」「倫理」を中核的な指導場面として関連付けを図り、学校全体で人間としての在り方生き方に関する教育を進める。また、小中学校の内容とのつながりを意識しつつ生徒の実態に応じて重点化した全体計画を作成するとともに、新たに道徳教育推進教師を置くこととする。

 いじめへの対応、情報モラル等の現代的な課題への対応に加え、積極的な社会参画、障害者理解(「心のバリアフリー」)に関する取組の充実を図る。」

 と、書かれている。

 小学校の標準授業時数については、現行の道徳は1学年34時間、2学年から6学年は35時間の計209時間、改定案の道徳の標準授業時数も変更なく示された。

 中学校においても同様に現行の各学年35時間、計105時間で示された。

「特別の教科 道徳編 第1章 総説」について

「第1章 総説」は3項目について、述べられている。

「1 改定の経緯」では、

「道徳教育の使命」について、教育基本法第1条を踏まえ「人格の完成及び国民の育成の

基盤となるものが道徳性であり、その道徳性を育てることが学校教育における道徳教育

の使命である。」としている。

また、平成25年12月の「道徳教育の充実に関する懇談会」報告を紹介し、その中での道徳教育に関して、次のように書いている。

「 報告では、道徳教育について「自立した一人の人間として人生を他者とともにより良

く生きる人格を形成することを目指すもの」と述べられている。道徳教育においては、人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を前提に、人が互いに尊重し協働して社会を形づくっていく上で共通に求められるルールやマナーを学び、規範意識などを育むとともに、人としてよりよく生きる上大切なものは何か、自分はどのように生きるべきかなどについて、時には悩み、葛藤しつつ、考えを深め、自らの生き方を育んでいくことが求められる。さらに、今後グローバル化が進展する中で、様々な文化や価値観を背景とする人々と相互に尊重し合いながら生きることや、科学技術の発展や社会・経済の変化の中で、人間の幸福と社会の発展の調和的な実現等の課題に対応していくため」、

「社会を構成する主体である一人一人が、高い倫理観をもち、人としての生き方や社会の

在り方について、時に対立がある場合を含めて、多様な価値観の存在を認識しつつ、自

ら感じ、考え、他者と対話し協働しながら、よりよい方向を目指す資質・能力を備える

ことがこれまで以上に重要であり、こうした資質・能力の育成に向け、道徳教育は、大

きな役割を果たす必要がある。」としている。

また、これまでの我が国の道徳教育の実態については、次のように述べている。

「我が国の学校教育において道徳教育は、道徳の時間を要として学校の教育活動

 全体を通じて行うものとされてきた。これまで、学校や生徒の実態などに基づき

 道徳教育の重点目標を設定し充実した指導を重ね、確固たる成果を上げている学

 校がある一方で、例えば、歴史的経緯に影響され、いまだに道徳教育そのものを

 忌避しがちな風潮があること、他教科等に比べて軽んじられていること、読み物

 の登場人物の心情理解のみに偏った形式的な指導が行われる例があることなど、

 多くの課題が指摘されている。」

これらの実態を真摯に受け止めつつ、その改善・充実に取り組んでいく必要から、

平成26年2月には、文部科学大臣から、道徳教育の充実を図る観点から、教育課程におけ る道徳教育の位置付けや道徳教育の目標、内容、指導方法、評価について検討するよう 、中央教育審議会に対して諮問がなされ、同年3月から道徳教育専門部会を設置し10回に 及ぶ審議を行い、教育課程部会、総会での審議を経て、同年10月に「道徳に係る教育課 程の改善等について」答申し、

   ① 道徳の時間を「特別な教科 道徳」(仮称)として位置付けること

   ② 目標を明確で理解しやすいものに改善すること

   ③ 道徳教育の目標と「特別の教科 道徳」(仮称)の目標の関係を明確にす

     ること

   ④ 道徳の内容をより発達の段階を踏まえた体系的なものに改善すること

   ⑤ 多様で効果的な道徳教育の指導方法へと改善すること

   ⑥ 「特別の教科 道徳」(仮称)に検定教科書を導入すること

   ⑦ 一人一人のよさを伸ばし、成長を促すための評価を充実すること

  などを基本的な考え方として、道徳教育について学習指導要領の改善の方向性が

  示され、この答申を踏まえ、平成27年3月27日に学校教育法施行規則を改正し「道徳」

  を「特別な教科である道徳」とするとともに、小学校学習指導要領、中学校学習

  指導要領及び特別支援学校小学部・中学部学習指導要領の一部改正が行われた。

今回の改正は、いじめの問題への対応の充実や発達の段階をより一層踏まえた体系的

なものとする観点からの内容の改善、問題解決的な学習を取り入れるなどの指導方法

の工夫を図ることなどを示したものである。

「特定の価値観を押し付けたり、主体性をもたず言われるままに行動するよう指導

したりすることは、道徳教育が目指す方向の対極にあるものと言わなければならない

」「多様な価値観の、時に対立がある場合を含めて、誠実にそれらの価値に向き合

い、道徳としての問題を考え続ける姿勢こそ道徳教育で養うべき基本的資質である」

との答申を踏まえ、発達の段階に応じ、答えが一つではない道徳的な課題を一人一人

の生徒が自分自身の問題と捉え、向き合う「考える道徳」「議論する道徳」へと変換

を図るものである。」としている。

 「2 改訂の基本方針」では、

昭和33年の道徳時間の設置理由について、次のように述べている。

「教育基本法をはじめとする我が国の教育の根本概念に鑑みれば、道徳教育は、教育の中

核をなすものであり、学校における道徳教育は、学校のあらゆる教育活動を通じて行わ

れるべきものである。

  同時に、道徳教育においては、これまで受け継がれ、共有されてきたルールやマナー

社会において大切にされてきた様々な道徳的価値などについて、生徒が発達の段階に即

し、一定の教育計画に基づいて学び、それらを理解し身に付けたり、様々な角度から考

察し自分なりに考えを深めたりする学習の過程が重要である。

このため、昭和33年に、小・中学校において、道徳の時間が設けられ、各教科等にお

ける道徳教育と密接な関連を図りながら、計画的、発展的な指導によってこれを補充、

深化、統合し、生徒に道徳的価値の自覚や生き方についての考えを深めさせ道徳的実践

力を育成するものとされてきた。」

今後についても、これらの基本的な考え方は変わらないとしている。

「さらに道徳教育が期待される役割を十分に果たすことができるように改善を図ることが

重要であること、とりわけ、道徳の時間が道徳教育の要として有効に機能することが不

可欠である」

と、述べている。

また、今回の道徳教育の改善に関する議論の発端となった、いじめの問題への対応について、

「生徒がこうした現実の困難な問題に主体的に対処することのできる実効性あ

る力を育成していく上で、道徳教育も大きな役割を果たすことが強く求められた。道徳

教育を通じて、個人が直面する様々な状況の中で、そこにある事象を深く見つめ、自分

はどうすべきか、自分に何ができるかを判断し、そのことを実行する手立てを考え、実

行できるようにしていくなどの改善が必要と考えられる。このような状況を踏まえ、道

徳教育の充実を図るため、学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育とその要としての

道徳の時間の役割を明確にした上で、生徒の道徳性を養うために、適切な教材を用いて

確実に指導を行い、指導の結果を明らかにしてその質的な向上を図ることができるよう

、学校教育法施行規則及び学習指導要領の一部を改正し、道徳の時間を教育課程上「特

別の教科 道徳」(以下「道徳科」という。)として新たに位置付け、その目標、内容

、教材や評価、指導体制の在り方等を見直した。これまでの道徳の時間を要として学校

の教育活動全体を通じて行うという道徳教育の基本的な考え方を今後も引き継ぐととも

に、道徳科を要として道徳教育の趣旨を踏まえた効果的な指導を学校の教育活動全体を

通じてより確実に展開することができるよう、道徳教育の目標等をより分かりやすい表

現で示すなど、教育課程の改善を図った。」

としている。

「3 改定の要点

(1) 第1 目標」について、

「道徳教育の目標と道徳科の目標を、各々の役割と関連性を明確にするため、道徳科の目

標を「よりよく生きるための基盤となる道徳性を養う」として、学校の教育活動全体を

通じて行う道徳教育の目標と同一であることが分かりやすい表現にするとともに、従前道徳の時間の目標に定めていた「各教科等との密接な関連」や「計画的、発展的な指導による補充、深化、統合」は、「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」に整理した上

で、表現を改めた。」

としている。また、道徳的価値については、次のように述べている。

「自分との関わりも含めて理解し、それに基づいて内省し、多面的・多角的に考え、判断

する能力、道徳的心情、道徳的行為を行うための意欲や態度を育てるという趣旨を明確

化するため、従前の「道徳的価値及びそれに基づいた人間としての生き方についての自

覚を深め」ることを、学習活動を具体化して「道徳的諸価値についての理解を基に、自

己を見つめ、物事を広い視野から多面的・多角的に考え、人間としての生き方について

の考えを深める学習」と改めた。さらに、これを通じて、よりよく生きていくための資

質・能力を培うという趣旨を明確化するため、従前の「道徳的実践力を育成する」こと

を、具体的に「道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てる」と改めた。」

と述べている。道徳科の目標である「よりよく生きるための基盤となる道徳性を養う」

という文章中の「道徳性」が具体的に「道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度」と示されたことにより、道徳科授業の「ねらい」も具体化された表現となる。

 

3 改定の要点

(2) 第2 内容」について、

内容項目における改訂での、大きな改訂点は4つの視点の順番と、表現が一部変わったことである。文科省は4つの視点における改訂後の順番性の意味は、個人から家族・友人・社会へと人間の関係性の広がりの流れに整理したとしている。そこには、価値の広がり、価値の高低という、価値の構造化・価値の高低という問題も存在するが、文科省は人間関係の広がりという点のみに言及し、価値の高低や構造化という問題には無関係としている。

指導要領には、次のように書かれている。

「内容項目のまとまりを示していた視点については、四つの視点によって内容項目を構成

して示すという考え方は従前どおりとしつつ、これまで「1 主として自分自身に関す

ること」「2 主として他の人とのかかわりに関すること」「3 主として自然や崇高

なものとのかかわりに関すること」「4 主として集団や社会とのかかわりに関するこ

と」の順序で示していた視点を、生徒にとっての対象の広がりに即して整理し、「A 

主として自分自身に関すること」「B 主として人との関わりに関すること」「C 主

として集団や社会との関わりに関すること」「D 主として生命や自然、崇高なものと

の関わりに関すること」として順序を改めた。」

と述べている。

3 改定の要点

(3) 第3 指導計画の作成と内容の取扱い」について、

まず、改訂の要点をあげる。

ア 全体計画及び指導内容の取扱いに関わる事項は「第1章 総則」に移行し、道徳科の年間指導計画に関わる事項を記載した。なお、指導計画の創意工夫を生かせるようにするために、一つの内容項目を複数の時間で扱う指導を取り入れるなどの工夫を加えた。

(これは内容項目の重点化と呼ばれ学校での教育目標の内容等で多くの学校で実施されている。)

イ これまで目標に示していた各教科等との密接な関連及び補充、深化、統合に関する事項を、指導の配慮事項に移行し、分かりやすい記述に改めた。

(補充、深化、統合という用語は各教科領域と道徳時間の関係を示す用語である。)

ウ 生徒が自ら道徳性を養うことへの配慮事項を、自らを振り返ること、道徳性を養うことの意義について、自らが考え、理解することなどを加えて具体的に示した。

エ 生徒が多様な感じ方や考え方に接する中で、考えを深め、判断し、表現する力などを育むための言語活動の充実を具体的に示した。

オ 道徳科の特質を生かした指導を行う際の指導方法の工夫例を、問題解決的な学習、道徳的行為に関する体験的な学習等として示した。

(問題解決的な学習の場合、課題と解決という対概念となる。道徳的行為に関する体験的な学習とは、学校行事等による自然教室等の行事をさし、道徳授業内での体験的学習ではない。)

カ 指導上の配慮事項として、情報モラルに加えて社会の持続可能な発展などの現代的な課題の取扱いを例示し、取り上げる際の配慮事項を明記した。

キ 多様な教材の開発や活用について具体的に例示するとともに、教材の具備すべき要件を示した。

ク 道徳科の評価に関して、数値などによる評価は行わない点に変わりはないが、学習状況や道徳性に係る成長の様子を継続的に把握し、指導に生かすよう努める必要があることを示した。

(学習状況や道徳性に係る成長の様子を客観的データとして、継続して捉える調査方法が確立させてないため、道徳ノート等による評価が行われている。今後の課題であろう。)

道徳科として道徳の時間が教科化され、付随して学習評価の充実が強く求められている。「学習指導要領」には「学習評価」に関して、次のように書かれている。

 学習評価の実施に当たっては、次の事項に配慮するものとする。

(1) 生徒のよい点や進歩の状況などを積極的に評価し、学習したことの意義や価値を実感できるようにすること。また、各教科等の目標の実現に向けた学習状況を把握する観点から、単元や題材など内容や時間のまとまりを見通しながら評価の場面や方法を工夫して、学習の過程や成果を評価し、指導の改善や学習意欲の向上を図り、資質・能力の育成に生かすようにすること。

(2) 創意工夫の中で学習評価の妥当性や信頼性が高められるよう、組織的かつ計画的な取組を推進するとともに、学年や学校段階を超えて生徒の学習の成果が円滑に接続されるように工夫すること。」

と、書かれている。学習評価の妥当性・信頼性・客観性等、評価に関する創意工夫については、今後の大きな課題であろう。

(引用・参考文献)

中学校 学習指導要領(平成29年告示)平成29年3月 告示 文部科学省 

発行所:東山書房

中学校学習指導要領(平成29年告示)解説

特別の教科 道徳編 平成29年7月 文部科学省 発行所:教育出版株式会社

中学校 学習指導要領 平成20年3月 告示 文部科学省 

発行:文部科学省

中学校学習指導要領解説 道徳編 平成20年9月 文部科学省 発行所:日本文教出版