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TURTLE MARKETING ACADEMY

55. 当事者に直接お願いをする

2019.06.07 12:15

エスティローダー入社して最初の仕事は、前述したようにスキンケア・プログラム・キット(ドライ肌用とオイリー肌用)の不動在庫処分の仕事でした。このキットにはサンプルよりも少し大きめのサイズ、プロモーショナルサイズ5~6品がローダーブルーのボックスにパッケージされていました。いわゆる有料サンプリングとして販売されましたが、ほとんどが売れずに返品されていました。売れない理由は、キット発売の目的を現場のビューティアドバイザーが理解していなかったからだと判断しました。

プレステージ・ブランドを基本戦略とするエスティローダーは、一度出荷した製品を再出荷することはできません。プレステージ・ブランドはつねに新鮮でなくてはならないからで、賞味期限を過ぎたものは食品と同じように、再出荷して販売することはしません。唯一可能性のある再販売はコンセプトや製品仕様を変更して、新たに新製品として再登場するしかありません。考えて、考えて、考え付いたのが、キャッチフレーズを変更することでした。

最初の計画では、キット購入の顧客には、化粧台において見栄えのするトレーをプレゼントする企画でしたが、勝手にトレーは安っぽいと判断して推販(推奨販売)の対象にしていませんでした。しかし、今回は逆にトレーを前面に出して「キットお買い上げのかたに素敵なローダーブルーのトレーをプレゼント」に変更しました。まるで新企画として再登場をさせるように演出しました。あとは現場のビューティアドバイザーが企画主旨を理解し「やる気」を起こすことだけです。

悩み事があれば、当事者に聞くのが一番です。マーケティング部次長と2人で手分けして全国の180近くあるカウンターのチーフに電話して協力を直接要請しました。「この度、エスティローダーのマーケティング部長として入社した山口ですが、実は困ったことが生じました。先回発売したキットの売れ残りがあるのですが、なんとかチーフの力で売り切っていただけないでしょうか。赴任間もなく自己紹介も終わっていませんが、そのような私からお願いするのは心苦しいのですが、在庫消化はエスティローダーの死活問題となっています。どうぞお願いします。完売協力のお礼としてキット一つあたり500円が本社から提供されます。」皆さんからの返事は「わかりました、トライしてみます」とのことでした。驚いたことに、2週間で売り切ってしまったのです。誠意をもって真摯にお願いすれば気持ちは通ずるものと確信しました。これからも営業とのコミュニケーションが大事だと痛切に感じた瞬間です。

3週間後、再度すべてのカウンターに電話をいれ「お蔭さまで売り切ることができました、これもチーフのお蔭です。心から感謝しています。また、コンベンションでお会いしましょう」というと、電話の向こうに、数秒の沈黙がありましたが「わかりました。よかったです」と返事が返ってきました。後ほどわかったことですが、オフィスからこのような現場の努力に対して感謝の電話がいままで全くなかったので、お礼の電話に本当に驚いたといっていました。それが数秒の沈黙となって表れたそうです。