ピアノを弾く手の形 卵形について
現在でも広く教えられている形あります。ピアノを弾く手の形は、たまごが手のひらに収まる形(卵がつぶれないような形)にするというものです。
今日はこの卵形について考えてみたいと思います。
ネットやYouTubeなんかで見てもどうやらこの卵形世界に普及しているようです。
ロシアの女性の先生がYouTubeでこのような説明をしているのを見たことがあります。バイオリンの左の手の形も最初同じような説明を受けます。
私自身も最初、卵形の手を教えられました。
私が学生時代に読んだ本では、ロシア系のピアニストは強靭なタッチを得るため指をカチっとまるめ、フランス系のピアニストはデリケートなタッチの効果を得るため指を伸ばしてで弾くと書いてあったと思います。
ネットにはいろいろな説が飛び交ったおりますが多分一つはっきりいえることは卵形と今では悪の温床と言われる「ハイフィンガー奏法」と深い関わりがあるということです。
この記事を読まれて不思議に思われた方は実際にやってみてください。ピアノの上でも机の上でも構いません。
手を卵形にして指を丸めて打鍵をしてみてください。どうでしょう、打鍵の前に指を振り上げないと下に降ろせないのではないでしょうか?
最初に丸めた形なので必然的に上げないと降ろせないということになります。まるめた形から指を押し込むと巻き込む危険性が高くなります。指を巻き込む癖を作るとフォーカルジストニア(書痙、イップスとも言います。)の原因にもなります。
実際、指を丸めて弾く人の方が伸ばして弾く人よりジストニアの発症率が高いとの報告もあるようです。
自分は現在どうしているかというと私は指を出来るだけ伸ばして弾きます。
私の手は小さめでずんぐりしていて指は短い。しかし横に広い。手が柔らかいので180°横に開くことができます。
ピアノのことを知らない中学の同級生から「お前そんなに手が小さくてピアノ本当に弾けるの?」って言われたこともあります。その同級生は私がピアノを弾くのを見たことがあるにもかかわらずです。
しかし私の手は10度(ド~ミ)が届き実際の演奏でもよく使います。右手で補助すると11度(ド~ファ)が届きそうです。
人間の身体って伸ばそう伸ばそうとするとちょっとずつ伸びてくるんですよね。テニスを長年やっている方は右腕が左腕より数センチちょっと長いとかいうじゃないですか。
これは医学で言われる「ウォルフの法則」が原因です。
骨にある負荷をかけると骨細胞が壊れその時に電気が発生し修復されていくということらしいです。
*ウォルフの法則
骨はそれに加わる力に抵抗するのに最も適した構造を発達させる
ピアノを長年弾いていると指の第3関節が大きくボコっと突き出してきます。
第3関節が強くなるのは卵形だからではなく長年の修練のたまものなんです。なので最初から、いくらやっても指が弱い、フォルテが出ない、と悩む必要はありません。
「ウォルフの法則」で骨の形は大きさは変わっていきますがそうなるまでには何十年も掛かります。ピアノ弾きの手が出来上がるまで最低10年は必要です。それからも訓練によって手は変わっていきます。
結局どんな手の形が良いのだろう。多分、指を伸ばした状態で指先を鍵盤についけて自然に置く、でいいと思います。
多分と書いたのは、手は人によってさまざまなのです。
女性(ピアノ歴うん十年)に手を見せてもらうと小さいと言われた私の手よりさらに小さく、指も細い。指が長いんだけと手の甲の幅がうんと狭い人もいます。手がうんとでかくて規格外の人も。過去に一度、ラフマニノニと張り合えるじゃないと思えるくらい手の大きい人に会ったことがあります。(ラフマニノフは手を広げるとド~ソまで楽に届いた)
手というのは大きいからいいってモノではないんですね。手の大きすぎる人はピアノの鍵盤に指を収めるのに結構苦労するそうです。
ドビッシーはかの有名な「12の練習曲」の冒頭に「人は手の構造がそれぞれ違うから指使いは書かなかった。自分たちで考えてください」と書いています。
こんなに違うんだ、というくらい人それぞれなのでピアノを弾く手の形に正解はない。私は指を伸ばして弾きますが指をある程度まるめて弾いた方がいい人もいるはずです。鍵盤を打鍵する位置も指の長さによって変わってくるでしょう。
座り方同様、手の形も人によって年齢、弾く曲によって柔軟に考えてよいと思います。
次の回では、日本でよく使われる「打鍵」という言葉の不思議について考えてみたいと思います。