person 76 作・草場あい子
2019.06.05 14:55
カフェ。男。夕方。
僕。17歳。高校生。
最近新しい友達が出来た。
同い歳の女の子。
でも、1度も会ったことはない。
SNSで知りあったから。
その子とはよく話す。
メッセージを送りあって。
でも、特に深い話はしない。
ただ当たり障りのない会話が続く。
それで知ったその子のこと。
女子校に通っているということ。
好きなことは映画を観るということ。
好きな食べ物はパスタだということ。
そして、一人称は「私」ということ。
俺。25歳。会社員。
俺には同い歳の同僚がいる。
名前は山口。男。
その山口から相談を受けた。
たった今。
内容は、出来心でSNSでなりすましをしてしまったら、
一人称が「僕」の高校生を騙してしまった。
ということ。
それで、俺は、普通に、
本当のことを言って謝るしかない。
と言った。
山口は今、申し訳なさそうに、
一人称が「僕」の高校生にメッセージを送っている。
俺の隣で。
でも、山口は知らないだろう。
そのメッセージが俺の携帯に届くということを。
俺の携帯が鳴る。
メッセージが来る。
一人称が「私」のあの子から。
いや、17歳でも、女の子でも、
一人称が「私」でもない、山口から。
一人称が、「私」から「僕」に変わったメッセージが。
そして、その子はそのメッセージを送ったあと、SNSから消えた。
「僕」もそろそろ消えなければならない。
もう目的は果たしたから。
山口のなりすましを辞めさせる。
ということ。
人を騙すのは思った以上に簡単だったな。
2019年6月5日 草場あい子