ZIPANG-3 TOKIO 2020「地球温暖化の森林に対する影響解明!日本・中国の大学と国立研究機関」
はじめに 記事をお届けするに当たり、先の北海道における地震災害、関西地方ならびに中国四国・九州地方における大雨・地震災害で未だ行方不明、並びに亡くなられた皆様のご冥福をお祈りするとともに、被災された全ての方々に心よりお見舞い申し上げます。
アラカシ 葉
樹木の乾燥ストレス反応の種間差を引き起こすメカニズムを解明 〜葉脈構造と水チャネルタンパク質の関与〜
概要
京都大学生態学研究センター 石田厚 教授は、森林研究・整備機構森林総合研究所北海道支所 原山尚徳 主任研究員、北尾光俊 研究グループ長、南京大学 Evgenios Agathokleous 教授らの研究グループとともに、樹木の乾燥ストレス反応に関する、新たな生理メカニズムを明らかにしました。
樹木は乾燥ストレスにさらされると、葉の気孔を閉じて葉からの水分損失を抑制しますが、気孔を閉じることで光合成に必要な二酸化炭素の取り込みも抑制されてしまいます。地球温暖化にともなう降水パターンの変化が予想されるなか、樹木が乾燥ストレスに対してどのようなメカニズムで気孔を閉じ、葉からの水分損失を制御しているのかを明らかにすることは、非常に重要です。この研究では、葉内の水移動に関連する葉の構造と細胞膜にあるタンパク質の生理機能に着目し、乾燥ストレスによる気孔閉鎖のメカニズムについて調べました。
その結果、細胞膜の水透過性を制御する膜タンパク質であるアクアポリンが、葉内部の水移動抵抗の変化を通じ、気孔の開閉を制御していることがわかりました。また、葉脈密度が低い構造を持つ樹種ほど、アクアポリンに依存した気孔開閉を行っており、乾燥ストレスにアクアポリンが反応することで、水分損失が進行する前にすばやく気孔を閉じることが可能になっていることがわかりました。本研究で得られた知見は、地球温暖化の森林に対する影響予測モデルの高度化につながることが期待されます。
本研究成果は、2019年6月5日に、国際学術誌「Proceedings of the Royal Society B-Biological Science」に掲載されました。
図:主脈系葉脈密度とアクアポリン阻害による葉の通水性(色塗り)や気孔開度(気孔コンダクタンス)(白抜き)の低下割合の関係。主脈系葉脈密度とは、葉脈のうち葉から浮き出ている1次脈(赤)、2次脈(青)、3次脈(一部黄で図示)の総長を、葉面積で除した値。
背景
地球温暖化にともなう降水パターンの変化により、渇水による森林衰退が危惧されています。樹木は乾燥ストレスにさらされると、葉の気孔を閉じて水分損失を抑制しますが、気孔を閉じることで光合成に必要な二酸化炭素の取り込みも抑制されてしまいます。このような乾燥ストレスに対する水損失「リスク」と二酸化炭素獲得「ベネフィット」のバランスのとり方は樹種によって大きく異なることが知られていましたが、その違いを引き起こす気孔閉鎖のタイミングに関するメカニズムは、十分に理解されていませんでした。
研究手法・成果
近年、乾燥ストレスによって、葉内部の水の通りやすさ(葉の通水性)が低下することで、気孔が閉鎖する、という新しい気孔閉鎖メカニズムが提唱されています。
本研究では、気孔閉鎖の樹種間差を引き起こす要因として、葉の通水性に影響すると考えられる葉の構造と細胞膜にあるタンパク質の機能に着目しました。そこで日本で一般的な5つの木本種、常緑広葉樹のアカガシ、アラカシ、落葉広葉樹のコナラ、クリ、木本性落葉ツル植物のクズを対象に、樹種間で多様性が非常に高いことが知られる葉脈密度と、細胞膜の水透過性を制御する膜タンパク質であるアクアポリン活性の違いについて検討しました(図1)。
これらの樹種の葉にアクアポリンの阻害剤を流入させたところ、すべての樹種で葉の通水性が低下するとともに、気孔開度の指標となる気孔コンダクタンスが低下しました。また主脈系の葉脈密度が高く、葉全体に水を行き渡らせやすい構造を持つ樹種ほど、アクアポリンに依存しない水分コントロールを行う傾向が認められました(図2)。
特にアクアポリン阻害による葉の通水性や気孔コンダクタンスの低下割合が高いクズは(図2左上▽)、乾燥ストレスが生じた時に、水分損失が進行する前に気孔閉鎖する性質を持っており、アクアポリンがこの素早い気孔閉鎖を制御していると考えられました。
一方、アクアポリン阻害による葉の通水性や気孔コンダクタンスの低下割合が低かった樹種は、葉脈を発達させ葉全体に水が行き渡りやすい構造を持ち、乾燥によって樹体から脱水が進行しても気孔を開き続け、光合成を継続する性質を持っていました。
これらの結果より、葉脈という構造による通水経路と、葉の細胞膜に存在するアクアポリンというタンパク質による生理的な通水経路の間にはトレードオフの関係があり、樹種間による乾燥ストレスに対する気孔制御が多様性を示す原因であると考えられます。
図1:自作の機器による葉の通水性測定の様子
図2:主脈系葉脈密度とアクアポリン阻害による葉の通水性(色塗り)や気孔開度(白抜き)の低下割合の関係。主脈系葉脈密度とは、葉脈のうち葉から浮き出ている1次脈(赤)、2次脈(青)、3次脈(一部黄で図示)の総長を、葉面積で除した値。
波及効果、今後の予定
本研究によって、乾燥ストレス時の気孔閉鎖の樹種間差には、葉脈構造という葉の形態的な特性と、アクアポリン活性という葉の生理的な特性が相互に関与していることがわかりました。今回の発見は、樹木の耐乾性の理解に重要な知見となります。今後さらに多くの樹種で研究を進めていくことで、地球温暖化にともなう降水パターンの変化による森林影響予測モデルの高度化につながることが期待されます。
研究プロジェクトについて
本研究は、科研費18658067(代表 石田厚)、21780161、15K07492(代表 原山尚徳)などの助成を受けて行われました。
論文タイトルと著者
タイトル:Effects of major vein blockage and aquaporin inhibition on leaf hydraulics and stomatal conductance (主脈系葉脈遮断とアクアポリン阻害が葉の通水性と気孔コンダクタンスに及ぼす影響)
著者:Hisanori Harayama, Mitsutoshi Kitao, Evgenios Agathokleous, and Atsushi Ishida
掲載誌:Proceedings of the Royal Society B-Biological Science DOI :10.1098/rspb.2019.0799
<お問い合わせ先>
石田 厚(いしだ あつし)
京都大学生態学研究センター・教授
原山尚徳(はらやま ひさのり)
国立研究開発法人 森林研究・整備機構
森林総合研究所 北海道支所 植物土壌系研究グループ 主任研究員
参考
アカガシ 樹形・葉
アカガシ
赤樫(アカガシ) Oak
ブナ科
コナラ属、別名をオオガシ・オオバガシとも呼ばれ他にもいくつかの名前がある。
材が赤身を帯びているところからこの名前をもつ。
分布は、国内では宮城県付近を北限とし、四国、九州、にかけて広く分布し、国産のカシ類の中では最も高いところまで分布する。
また朝鮮半島南部、台湾、中国の温暖帯にいたる所まで 見ることができる。
樫の中では比較的太い常緑高木で直径70cm、幹は直立し高さ10mから20mに達するもの も数多く見られ、枝や葉がよく茂る。葉は10㎝から20㎝の長楕円形で先は急に鋭くなって いる。オオバガシの別名はこの大きな葉からきている。
樹皮は灰黒色で、さまざまな斑紋 を生じている。
5月から6月頃に褐色の花を開き、椎に似て2cm位の大きな実をつける。
心材と辺材の境はあまりはっきりとはせず、年輪もやや不明瞭なことが多い。 心材は淡紅褐色から赤褐色、辺材は淡黄褐色をしている。
国産材のなかでは重い樹種で、シラカシとともに日本の重い木の代表例に挙げられることが 多い。気乾比重は0・80~1・05。
用途は 国産材の中では比較的耐久性に優れ仕上りの肌目は粗いが弾力性があり、硬くて強い。 加工しにくく乾燥は困難であるが水に強く狂いは少ない事から、重硬な材料の用途に広範囲 にわたって使われていた。近年においては多種の素材の利用により需要が減っているが、 さまざまな器具、船舶・車両部材、土木・建築用材に利用され、身近な例としては椎茸 原木、下駄の歯、ゲートボールのスティック、木槌の頭などが挙げられる。
アラカシ 樹形
アラカシ
学名: Quercus glauca ブナ科コナラ属の常緑広葉樹。
粗樫、イヌガシ、ボウガシとも呼ばれている。
分布は本州の宮城県以南から琉球列島、および済州島、台湾、中国からヒマラヤ、さらに東南アジアなど暖帯に分布。里山などの雑木林に多く見られる。人の手が入った二次林に特に多い。
「カシ」は「カタシ」で「堅い木」の意味で、枝葉も大きく、鋸葉が粗く、かつ材も堅く全体に荒っぽい感じがあるのでこの名がある。「樫」は「堅」と「木」を組み合わせた日本で作られた漢字(国字)。
関西でカシといえば、普通これをさす。シラカシと区別するには葉の裏を見るとわかる。アラカシは毛が生えているのが特徴。また、シラカシに比べて芽だしが早く、春の到来を感じる。
高さ15m、幹の直径60cm、時には高さ20mにもなる。若木の樹皮は灰暗緑色で平滑、裂け目はないが、生長したものは小さな凹凸がある。
葉は長だ円形、中ほどから先に粗いきょ歯がある。長さ7~15cm、表面は光沢があり、裏面には伏毛が密生し灰白色。開花期は4・5月で雌雄異花。葉がのびると同時に咲く。
10月頃やや楕円形のドングリが実る。殻斗は環状である。長さ1.5~2.0cm。
大きな木になると、樹皮の傷口から虫が入り、これにカブトムシやクワガタムシが集まることがあり、クヌギほどではないが、そのような昆虫を見るのによい木である。
病虫害としてうどん粉病.けさび病.すす病などの発生を見ることがある。特にうどん粉病は葉の表面に粉を吹いたような病斑ができ、次第に広がっていく。秋から春にかけ、日陰の葉がかかることが多いが、日向の葉にも発生することもある。
虫害はハマキムシ、サラサヒトリ,カミキリムシ類,オオワラジカイガラムシなどによる被害がある。
植栽用としては樹高2.5m~3mのものが多く生産され.隣家との境、道路際など機能的植栽のほか、アプローチや主庭でも独自の樹形が好まれてよく植栽される。
公園や学校にもよく植栽されている。
植え替えて枝葉を切ってしまっても数年の内に葉が密生してしまう。そのため,防音、防塵用にも良く、工場の緑化にも有効である。
木材は堅硬を利用して建築、車両、舟の櫓、農具、トビの柄、杭打のクッション、クラフトの材料、薪炭材等に使用される。
コナラ 樹形
コナラ
小楢 枹 ブナ科コナラ属
学名:QuercusserrataThunb. 別名:ハハソ、ホウソ、ナラ
分布:北海道、本州、四国、九州、朝鮮半島 開花
時期:4月~5月 実10月~11月 樹形は半球形
樹高:15~20m/径60cm 落葉高木 雑木林を構成する重要な木で、丘陵から山地の広葉樹林に多い。 樹皮は灰黒色。
幹は直立、コルク層が発達して、縦に浅く不規則に裂ける。 葉は長さ5~12cmの細長い楕円形で、へりに大きな鋸葉歯がある。 若葉は有毛、裏面は灰白色。晩秋に黄葉、若木は紅葉する。 雌雄同株。
雌花序は本年枝の上部の葉腋につき風媒、 雄花は新枝の下部に葉に先立って咲き、黄色い花序になり垂れ下がる。
いわゆるドングリは、この木の実。 楢は日本の俗用字。漢名青岡樹。 建築用、器具用、薪炭、シイタケの台木等に用いられる。
クリ 葉
クリ
ブナ科。
日本各地のブナ、ミズナラ、カエデ等と混じって山地に分布する。
木理は粗。比重は0.60。直径60cm。年輪がきわめて明瞭な環孔材。
まれに直径1.5mくらいに達するものものがあるが、大径木が少ないため価値は高い。
弾力性に富み、狂いが少ない。加工しにくいが、割裂は容易。乾燥は困難。耐朽・保存性はきわめて高く、水湿に耐える。まれにフェンス の材料として使われる事もあり耐久性はかなり高い。
削って磨きをかけるとミズナラのような雰囲気があるが、ミズナラより優しく素朴な感じがする。
量が少ないので一般的にはあまり使われていないが、日本独特の数寄屋の世界ではとくに好まれる。上り框や床柱など装飾性のあるところに使われる。
またクリと言えば、誰もが知っている秋の木の実の代表選手。縄文時代の昔から、トチの実、クルミ等と共に大切な食糧である。
梅雨の頃(6~7月)、独特の甘い香りを放ちながら花がさき、新しい枝に雄花と雌花が一緒につく。黄色味がかった白色の雄花は、軸にたくさんついて、10~15㎝くらいの長さの モールのようなものがフサフサと上向きにつく。その軸の基部の方に小さな雌花が2~3ヶつく。クリは、虫媒花で雄花から雌花へは虫等が媒体になる。
花が終る頃、雄花はバラバラと落ちてしまい、雌花は実を熟す準備に入る。果実は、9~10月に成熟。ご存じの様に鋭い針で覆われたイガ(殻斗)の中に1~3ヶのクリの実がある。始め緑色だったイガは徐々に茶色に変色し、熟すとイガが割れてクリの実が出る。
鎹八咫烏 記
伊勢「斎宮」の明和町観光大使
協力(順不同・敬称略)
京都大学 〒606-8501 京都市左京区吉田本町 Tel:075-753-7531
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
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世界の樹木
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日原もとこ
東北芸術工科大学名誉教授 風土・色彩文化研究所主宰 まんだら塾塾長
日本デザイン学会名誉会員 日本インテリア学会名誉会員
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