レシプロカル・ストラクチャー
構造デザイン授業の最終課題ではレシプロカル・ストラクチャーを採用した木造のパビリオンを、チームメイトの3人とともに建設した。一昔前まではフル・スケールのパビリオンというと、10人や20人で行うのが一般的であったが、デジタル設計技術、デジタルファブリケーション技術が発展したことで、男女2人ずつの4人チームでも作れるようになった。とは言え、一授業の最終提出物としてパビリオンを作るのは稀だろう。
これが可能になった最大の要因は、クラスの講師である貝島佐和子先生の作ったMillepedeという構造設計用のRhino+Grasshopperプラグインの存在にある。実務の構造設計でも使われているものを、実際に実務をしていた先生の指導を受けて使うのだから、舞台は整っている。
今回採用したレシプロカル・ストラクチャーというのは、一つ一つの部材が上下に相互に噛み合うことで固まる構造システムだ。日本や中国など木造の建設技術が発達した技術では、古くから大スパンや屋根を作るのにも使われていた。
レシプロカル・ストラクチャーが面白いのはその完璧さにある。上下に相互に噛み合うそのあり方から、一方の端から編み物のように組んでいく以外に方法はなく、一つの部材も欠けては成立しない。
パビリオン全体のデザインはその完璧さを表現できるよう、HPシェルとした。そして、部材の断面を力の流れ・応力によって最適化することによって、究極に洗練させることを目指した。
建設に必要な各フェーズをチーム間で分担し、自分は構造設計を担当することとなった。先述のMillepedeで計算するにあたり、レシプロカル・ストラクチャー独特の上の部材が下の部材に力を伝える状態を再現すべく、既存文献や佐和子先生にアドバイスを受けながら、なるべく現実に近い計算モデルを作りあげた。
その上で部材のサイズを決め、チームメイトに流す。そこから彼らが組み合わせのディテール・切り欠き形状を解析し、150種類程度の異なる部材のリストを作成する。それに基づいて合板をCNCミルマシンで切り抜き、ナンバリングし、ヤスリがけをして綺麗にすることで部材が出揃う。
そこからは、自分たちのデザインした3Dモデルを見ながら、一個一個部材を組み合わせていく。トラブルが重なったことで、部材が全て準備できたのは発表当日の午前2時。そこからチームメイトとともに気合で夜通しで建設作業を行った。途中からは効率的な作業フローが出来上がり、午前10時には無事に竣工した。
パビリオンを建設中は、もちろん不完全な状態なので、あらゆるところに支えが必要だ。それを建設用語で支保工と言うが、構造体が出来上がった後、支保工を外す瞬間は本当に緊張した。自分が構造設計をしたので、「崩壊したらどうしよう、計算上は大丈夫なはずだ」という思考のループがぐるぐる回っていたが、何の心配もしていないチームメイトが迷いなく支保工を外し、結果として構造体は無事に自立した。
最終的にはとても綺麗なパビリオンが完成したので、講評会の反応もよく、訪れた人の反応も上々だった。パビリオンを作るというのはかなり一般的な建築教育の一つなのだが、技術の発展のおかげで4人という少人数で行ったことで、全てのプロセスをチームメイト全員で共有できたのは素晴らしい経験だったと思う。