不登校児に優しい物語『かがみの孤城』のあらすじと感想
あらすじ
雪科第五中学校の生徒、安西こころは学校に通えない女の子だった。彼女は中学校入学を期に、突然のいじめに出会い、不登校という道を選ぶ。自分は何も悪くないのに、と思うこころの気持ちは置き去りにされ、全ての元凶真田、仲良くなれそうだったのに変心した東条萌、心ない対応をする担任教諭の伊田、フリースクールを勧める母親、不登校に批判的な父親、彼らの対応によってこころは居場所を失っていく。
ある夜、こころは自分の部屋の姿見鏡の輝きに導かれて、鏡の中のお城で七人の同年代の少年少女と出会うことになる。様々な個性を持つ彼らは、ある共通項を持って集められているのだが、突然異世界に集められた彼らにはそんなことは知る由もない。
彼らの前に現れた”オオカミさま”と呼ばれる少女は7人にこう告げる「3月30日までに願いの部屋と鍵を見つければ、何でも好きな願いをひとつだけ叶えてやろう」
鍵探しは強制ではないため、彼らは自分のペースで鍵を探しながらも、城を現実からの避難場所として入り浸るようになる。心を開くことが苦手な彼らは、長い月日をかけて、少しずつ、本当に少しずつ歩み寄っていく、、、
ネタバレ
と言いつつ、全ては話しませんが、中盤までははっきり言ってつまらなかった。本屋大賞には当たり外れがあるので、2018年は外れかなと思った。井上晶子が制服で城に現れた時から、やっと話が動き出したので、見れる物語に。
読み進めるうちに、伏線の多さに驚くばかり。辻村深月氏の文章にどんどんのめり込みました。
一月の始業式の話で、時間軸のズレが彼らの集められた条件に含まれていると思ったのに、政宗青澄のパラレルワールド仮説で引っ掻き回されて悔しかった、分かってたのに!
時間軸が異なるので、現実ではすぐに会えない上に、記憶が失われてしまう7人が最後の話をしている場面と、お別れの後の、オオカミさまとある少年との会話には目頭が熱くなった。あぁこういう思い出話や別れのシーンはホントあかんわぁって。イケメン水守理音の回想シーンは反則だった。あと、エピローグで重要人物にスポットを当てるのも巧みだぁ、30代のおっさんとしては胸が温まる感慨深いものがあった。とりま、みなさんには読んで心温めてほしい。
不登校の人にこそ読んでほしい
日本教育は既定のレール以外の選択肢が非常に少ない。最近はフリースクールも出てきているが、ホームスクーリングの門戸は狭く、米国に比べると大きく遅れている。
この物語に出てくる7人の少年少女は、理由は違えど「普通に」学校に通うことができなくなった子供達である。性格が悪いわけではなく、学業を疎かにしたわけでもないのに、彼らはただ周りに馴染めないだけで、居場所をなくしていく子供たち。
私も学校に行かずに大人になった方々と話したことがあるが、彼らは繊細過ぎるくらい繊細で、物語と同様にやはり、中学生の時に学業から遠ざかっていた。人に厳しいことも言う私としては、自分の短所を正確に見つめない姿やプライドだけが高い姿を指摘したが、彼らが求めていたのは自律を促されることではなく、喜多嶋先生のような常に味方でいてくれる存在だったのかな、と今になって思ったり。
現代社会が抱える闇に通ずる部分があるので、学校教諭や養護教員にも手に取ってほしい珠玉の一冊である。