続・糸井さん、どうしたら犬と猫と人とがもっと仲良くなれますか? 後編
ほぼ日刊イトイ新聞の糸井重里さんと、ドコノコチームのみなさんへのインタビュー・後編です。
<インタビュー前編はこちら>
“顔舐められ度”が家族の定義!?
── 糸井さんは公私ともに、犬も猫も大いに楽しんでいる感じですね。
糸井 そうですね。僕はいまの犬が亡くなったらもう飼えないんです。(年齢的に)資格がないですから。ドコノコでほかのうちの犬猫を見たり、ときには預かれたら預かったりするんじゃないかなぁ。
── 糸井さんの書著『ブイヨンの日々。』のあとがきでご自身の愛犬ブイヨンちゃんについて「この人は、犬なんだ」と書かれていました。“この人”という存在になったのはいつからなんでしょうか。
糸井 “この子”から始まってますからね。
── 小さなころは違ったんですね。
糸井 だんだん大人になって“この人”になったんだと思います。家族なのかどうかということでよく思うんですけど、「ペットは家族ですよね」って言い方があって。
── はい、よく言います。
糸井 みんな簡単に言うんだけど、いったい家族とは何なんだっていったら、仲が悪くても家族なんです。
── 仲の良し悪しで関係は変わらないですね。
糸井 で、肉親のことを家族っていうんだけど、じゃあ犬は肉親じゃないから家族じゃないのかって。何で区別してるんだろうって思うんです。
── 境界線はあいまいですね。
糸井 犬に顔舐められても平気ですよね?
── え? あ、はい…。
糸井 あれは家族ってことじゃないですか。
── ????
糸井 つまりよその人に、たとえば今日、写真を撮ってるカメラマンのことをよく知ってるからといって「舐めてもいい?」と聞かれても無理ですよね?(笑)
── た、た、たしかに(笑)。
糸井 そういうことだと思うんです。自分ちの犬は舐めてもいいでしょ?
── いいです、はい。
糸井 それは震災のときなど一緒に逃げる対象でもありますよね。舐めちゃダメな人とは別々に逃げるんですよ。だから家族の定義って顔を舐められてもいい人だと思うんです。
── そういうことなんですか!
糸井 お母さんに舐められるのが嫌だったとしても、我慢できるんだったら家族ですよ。
一同 (笑)
── ん~、でもお父さんに顔を舐められるのとか…。できるかなぁ。
糸井 その質問の仕方もありますけど(笑)、もしお父さんがダメだったら、犬はお父さん以上ですよ。
一同 (笑)
糸井 顔舐められ度ですよ、家族かっていうのは(笑)。
── 舐められ度だと、私は犬が一番かもしれないです。
糸井 その感じがむかしはなかったんじゃないでしょうか。だからそれもものすごい時代の大きな変化で、いまは犬や猫を大事にするのがあたりまえなんですね。人間の子どもと同じなんです。
ブイヨンの不思議。
── 家族であり、“この人”という存在のブイちゃんとは、普段どう接していますか? いいなぁと感じるのはどんなときでしょうか。
糸井 文字通り“この人は、犬なんだ”ってわかっていますから、人間扱いはしてないです。犬という異形の人として。犬族っていう。犬らしさを表現したときに、いいなって思います。犬は群の動物だから、家族のひとりがいないと「その人がいないよ、いないよ」って言いますよね?
── そうですね。犬ってソワソワしますねぇ。
糸井 ああいうのは犬だからなんですよね。人間の子どもとは違うところで。あと犬の遠慮の仕方ってのも。
── あぁ~。うちも思い当たります。
糸井 子どもよりも犬って遠慮しますよね。渋々ごはんを食べないところとか。むかし、うちの犬、ごはん大嫌いだったんです。
── えー! ごはん嫌いな子っているんですか!?
糸井 逃げたりしてたんです。
── なにを観ているんですか?
糸井 ちらっと映る犬とかを見つけて「ワワワワン!!」って。たぶん窓なんじゃないですかね。
── テレビじゃなくて、外が見えていると思っている?
糸井 窓として見てて、エイリアンが来ないかとか。
── 見張ってる…?
糸井 だと思います。
── じゃあ糸井さんたちを守っていると。
糸井 そのつもりだと思います。番犬なんですよ。
── 吠える対象は犬だけですか?
糸井 犬にも猫にも馬にも、リスにも猿にも。
──(笑)! 動物全般?
糸井 アニメの犬や、ぬいぐるみにも吠えてました。ぜーんぶ警戒していました。だんだんそれが解かれていって。引退したからですよね。たまに気が向くと見て、一秒でも見えてると「ワン!!」って言ってます。
── まだまだ番犬、がんばってますね。
糸井 むかしは、その犬が出てくる時間の音楽が鳴ったら、もう言ってました!
── 頭いい!
糸井 あの(犬の)微妙な頭の良さっていうのもおもしろいですよね。
── あぁ~! そういうところ覚えるんだぁっていうのとか。
糸井 微妙にいいんですけど、でもたいして良くはないですね。
── ブイちゃんにもありますか?
糸井 ブイヨンは毎晩、ベッドにぴょんって上るのが仕事なんですけど、このごろ足腰が弱くなったんですぐに上れないんですね。うちの寝室は入ると自動で明かりがつくようになっているんですけど、“入った途端”って状態からしばらくすると明かりが消えちゃうんです。
──ブイちゃんは、明かりがついている時間内に間に合わない?
糸井 そうするとまた一回ドアのところに戻って、明かりをつけてから上るんです。
── すごーい! 知ってる!
糸井 それを2度くらい繰り返してるときがあって。こっちは早く来ないかなって思ってるんですけど、暗いところでは飛ばないんですよ。慎重なんです、一回戻るんです。
── すごい。それって頭いいですよね。
糸井 うん、でもそのくらの頭の良さですね(笑)。
── 糸井さんがよくブイちゃんに言っている言葉はありますか?
糸井 そう言われるとないですね。「いいこだね」はあるけど。かみさんは知らないけど、僕は話しかけないですよ、あんまり。……朝礼はしますけどね。
── ブイちゃんと朝礼!? なんですかそれ?
糸井 ふたりでしばらく居なくちゃいけなくなるときとか「ちょっとそこ座りなさい。しばらくはお父さんとふたりになりますが…」って挨拶します。
── へぇ~! ほかにはどんなことを?
糸井 「留守番も多くなりますけど、しっかりしなさい」ってなことを。
── それは…、ブイちゃんが淋しがるから言うんですか?
糸井 いや自分の気持ちの切り替えじゃないですか。僕の。犬は迷惑ですよ、そんなこと言われて。
── ブイちゃんはじっと聞いてます?
糸井 なんかくれるんじゃないかって(笑)。
率直さは、人間も真似していいんじゃない?
── これから糸井さんとブイちゃんの関係はどうなっていくと思いますか?
糸井 歳をとるばっかりなので、できることがどんどんできなくなっていく。ある意味でブイヨンは先輩ですよね。
── いまブイちゃんは13歳ですね。
糸井 僕なんかだと、自分がなる予行練習をしているようなつもりでいることが、多々あります。僕はたぶん素直じゃないから、きっと犬や猫のようにすっとは歳をとれないんでしょうけど、でも見習うところは見習いたいです。
── ブイちゃんのどんなところを見習おうと思ったんですか?
糸井 したくないことについて、がんばらないですもんね。
── 言われてみると、犬はそうかもしれないです。
糸井 人間はしたくないこともがんばって、何があるんだろうっていうと、そんなにはいいことないんです。“率直さ”は人間も真似していいじゃないかなと思いながら、あんまりそれを早くやっちゃうとねぇ。
── ええ。
糸井 歳をとってなくても老人ぶって何もしなくなっちゃうんで。でもね年齢から言うと、定年ですから、とっくに辞めてもいいんですけど。見習うのはそこの部分ですね。
── ブイちゃんは率直なんですね。
糸井 はい。若いときから率直なかたですけど、歳をとっても率直なかたです。
── ブイちゃんの変化はほかにもありますか?
糸井 寝ている時間がどんどん長くなってきてます。
── お散歩する量も変わりました?
糸井 ずいぶん短くなりましたね。全盛期の10分の1くらいになっているんじゃないかな。運動量はずいぶん変わりました。あと身体がやわらかくなってきましたね。
── へぇ。やわらかくなる?
糸井 抱き心地が。むかしはカチーンとしていたのに。「すごい筋肉だね~」ってよく褒められてたけど、それはもうなくなりました。
── そのしなやかさもまた、いいのでは。
糸井 自然に歳をとってます。どんどんかわいくなっていきますよ。
── 愛情も増えていきますよねぇ。
糸井 はい。長くいる時間分、好きになってきます。
── 私も長く犬と暮らしていますが、子犬のころとはまた違ったかわいさが育まれていくんですよね。
糸井 まったくそうですね。柴犬とか、味が出ますよね?
── いぶし銀のような味わいが出ます(笑)。
糸井 あの良さを外国の人がわかっていくのがまたいいですよね。フランスで柴犬が流行ってるとか。だんだんドコノコにも、海外の犬や猫の写真が増えてくると思うんです。
「ドコノコ」を世界中で。
── 海外でもドコノコが広がっていったらいいと考えていますか?
糸井 もちろん、もちろん! それはもう世界中の犬や猫がどこの子かわかるっていうのが野望ですから。
── 言葉が通じなくても犬や猫の写真は楽しめますし。
糸井 だって日本人だけでやっていても楽しいんですから、ギリシャ人だけがやっても楽しいですし、それがじつはつながっているんだっていうのが、おもしろいところなんです。
── ドコノコの開発で、やむなく切り捨てたアイディアなどもあったのでしょうか。
糸井 なくしちゃうっていう概念はないんです。いいアイディアだったら、いつ、どういう順番でやるかというだけなんで。足していったり変えていったりできるのが、おもしろいところだと思います。そういう経験はほぼ日ではあんまりできることじゃないんで、めずらしいですね。
佐藤 ほぼ日のコンテンツはどんどん入れ替わっていくじゃないですか。でもドコノコはずーっとつくっていくものなので、やり方がいままでとは違いますね。
── なるほど。
佐藤 自分たちの気持ちとしても長期戦でやっていくぞって。
糸井 休まるヒマがないね(笑)。
── 携帯もWEBもどんどん新しくなっていきますから、それにも対応していかなければいけませんね。
佐藤 そうですね、イキイキとした場として続いていくためには。それでどんどん楽しい場になっていけばいいと思うんです。あと、逆に言うと、デバイスにとらわれているわけではないので。
糸井 そのときどきでドコノコのコンセプトが実現できるものに対応していければいいなと思っています。いつかスマートフォンじゃなくなる日も来るかもしれないですね。
『ドコノコ』の詳細は、ほぼ日刊イトイ新聞のドコノコページでご覧いただけます。
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PROFILE
糸井重里 (Shigesato Itoi)
1948年生まれ。コピーライター、ほぼ日刊イトイ新聞主宰。有名無名を問わず、多くの人々が膨大なコンテンツをつくり続けるウェブサイト、ほぼ日刊イトイ新聞を1998年から毎日更新し続けている。最新著作に、ほぼ日刊イトイ新聞に書いた心にのこることばを厳選してまとめた『忘れてきた花束。』『ふたつめのボールのようなことば。』(東京糸井重里事務所)がある。
ほぼ日刊イトイ新聞は、有名無名問わず、さまざまな方へのインタビューやコラムなどあらゆるコンテンツがすべて無料で楽しめる。また、「ほぼ日手帳」を代表とする生活関連商品を開発し、おもにサイト内の「ほぼ日ストア」で販売している。2016年6月にアプリ「ドコノコ」をリリースした。
写真は左から佐藤さん、糸井さん、藤井さん、ゆーないとさん。
Interview, Edit: Tomoko Komiyama / Photograph: Jun Takahashi