魔のある生活
ツヤツヤの唇というのは、モテる女性の大切なパーツ。遊び慣れている都会の女性という感じで、そしてちゃんと恋の成果をあげている証だ。それと猫目というのは魔性の女の特性だと私は経験から知っている。
私の周りにはこのテの女性はゴロゴロいる。が、彼女は私の知っている中でいちばんモテる女性であることは間違いない。トップの男性を知り、トップの男性の愛を得ている。
社会で頭ひとつ出ていく男性たちはありあまるエネルギーを持っているものだ。女性の方もそれに呼応できるぐらいの美貌と魅力を持っていなくてはならない。しかもかなり賢く使わなければならないはずだ。これが並みの女性にできることであろうか。
ここまで読んで、お気づきの方もいるであろう。そう、彼女こそブログに以前登場した、魔性中の魔性、スミレ様である。
スミレさんもやはり猫目である。けれども何といったらいいのであろうか。黒目の大きさが目についていかないという感じ。それが非常な色気をかもし出していた。いや、その目からふつうでないものが漂っていた。
大きな目で誘うような表情をする女性は大勢いるけど、スミレさんの場合、魔法を生み出す隠花植物のようだ。誘っているわけでもなく、突き放しているわけでもなく、どこか遠くを見ているようなんだけれども、それでもやっぱり自分を見てくれているみたいな感じで、他の女性と比べると色彩からして違うのである。
女性の私でもぐらっときたのだから、男性だったらその場で襲いかかったかもしれない。
私が“美人バカ”でない証拠に客観的事実を言わせてもらうと、このスミレさんは銀座の超高級クラブのホステスさんなのである。しかも人気ナンバーワンを飾ったという晴れがましさだ。「ミューズ」という愛称まで頂戴した。
モテる女性は自分の恋を他人に話したりするのはもってのほかだ。デキる女性はそこらの女性より、はるかに社会的にもっているものが多いのだから。このくらいのわきまえがなかったら、ヘタに女性のプロフェッショナルとかかわらない方かいい。
スミレさんもそうであった。あまり自分のプライベートなことは口にしない。が、長年にわたってその美貌と男性をからめるようなオーラを維持しているスミレさんをずっと私は盗み見していたのである。
その日、魅力的な男性たちとお食事をした。それをいいことに、やたら魔性のコナをふりまくスミレさん。
「あーん、私、緊張して喉が渇いちゃった。色つきのシャンパン飲んでもいいですか」とぐびぐび。
「もう、私、ダメ。緊張してぜんぜん酔えない…」と突然自分を無防備に投げ出す。
男性たちのスミレさんに対する愛情はもう溢れそうなほど充ちている。これを収納する当座の容器は、もはや本気で口説き、スミレさんのひとりになることしかないのだ。
スミレさんは私に携帯を渡した「私、みんなに自慢したいから写真撮ってね」
ついでに私の携帯でも撮った。その画像を見ることもある。今まで見たことがないものが、あぶり出されているのだ。男の人の方に上半身をかたむけ、にっこり微笑んでいるスミレさん。“魔”を軸にすると、風景や人はこのように“美しい誤解”であざなうことができるのであろうか。
私が男性だったらスミレさんと三ヶ月でも暮らせたら天国かもしれない。「全財産渡すから三ヶ月だけお願いします」ときっと懇願するであろう。後はその思い出だけで生きていけそうな気がする。スミレさんと“魔がさす”かかわりを持ちたくないと思う男性は、日本にひとりもいないはずだ。
私は決意を新たにした。今まで私が男性にあまり声をかけられなかったのは、あまりにも潔癖で、清らかな印象をあたえすぎていたからではないだろうか。私のような純真な女性と恋を語ることは、あまりに痛々しすぎて、それでみんな遠慮していたに違いない。
一度私が男性に「だらしない」ことをはっきりと知ってもらう、つまり「奔放」になれば、私の人気は高まるのではないだろうか。
よく私は「身持ちが固い」とか、「男性に対してしっかりしている」などと言ってほめられることがあるが、これは言いかえれば男性にモテないということだといってもいい。
女性というのは、いったん恋をすると、心も体もとてもよく練られていくようである。ひとりの男性にたがやされた心は、次の男性をとても受け入れやすくなるぐらいまでやわらかくなっている。
よく私たちは、次から次へと男性をとっかえる女性を「淫乱」とののしるけれども、あれはその女性の心がとてもいい耕地になっていて、男性という種がやってきやすくなっているのだ。
一度でいいから「淫乱」と言われたいというのが、目下のところ私の夢である。「男運がない」なんて指摘されるのも「男縁がない」と陰口をたたかれるよりずっと素敵。
筆を走らせながら「化身じゃ」と唇を噛みしめた私である。期待しているのは、次、そう、次の人。現れないまま月日は流れていく。が、待っている方が「あのとき、ああしていたら」と過去を振り返るよりずっといい。