person 79 作・草場あい子
2019.06.19 14:32
電車。男。大学生。
手の逆剥けが痛い。
今日も朝からバイトだ。
土曜日なのに。
微妙に混んだ電車に乗り込んでバイトへ向かう。
ゆっくりと景色が流れ出す。
バイト、行かなきゃだめかな。
逆剥け痛いし。
めんどくさい。
逆剥け理由に休めないかな。
それはさすがに無理か。
それか、このまま電車が止まらないとか。
それも、ないか。
毎回考える。
なぜか分からないけど。
どうにかしたら休めないかなーって。
でも、結局そんなことありえない。
もしなったら、困るのは僕自身だし。
別にバイトが嫌いなわけではない。
むしろ好きなほうだ。
友達いるし、店長優しいし、楽しいし。
でも考える。意味もなく。
考えるというか、思ってしまう。
電車が止まる。
僕が降りる駅。
予定時刻に1分も遅れることなく、
ホームドアと電車のドアがぴったりと重なって。
止まった。
ドアが開けば僕は足を踏み出さなければならない。
アナウンスが流れると同時にドアが開く。
僕は何もためらわず、足を踏み出す。
逆剥けのことなんかもう頭から消えている。
さっきまで思っていたことも全て。
2019年06月19日
草場あい子