Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

小説。——地上で初めて愛を無言のうちに見い出したある獣が永遠に焼き盡くされた跡形もない涙を流す/神皇正統記異本。散文。及び立原道造の詩の引用 3

2019.06.26 22:57





——地上で

初めて愛を

無言のうちに見い出したある獣が永遠に、焼き盡くされた

跡形もない涙を

流す


神皇正統記異本…散文。及び立原道造の詩の引用


天稚彦



…或いは亡き、大日本帝國の為のパヴァーヌ


両性具有にして陰陽の支配者にして且つ、御神々の嫡子であらせられた天照大神即ちアマテラスオオミカミの尊の

…滅ボセ。

天ノ道、地ノ道ハ

——然リ。

お放ちになられていらっしゃる高貴にして

…殲滅セヨ。

常ニ

——然リ。

豊饒にして

…壊滅セヨ。

澄ミ切ッテ

——然リ。

優美なる

…駆逐セヨ。

平ラカデナケレバ

——然リ。

魂極る日輪の陽光を我が身に浴びたときに、彼がその肌に感じたそれは、あまりにも気高くも貴いかの真昼の中天にまします高光る御方の光の、肌にふれる息吹きの鮮烈さに他ならなかった。

天稚彦は涙しそうになる自分を訝り、嘗テ、と。

夕ぐれごとに

皇祖眞紀ニハ天照太神

…其ノ御方ヲ

さびしい思ひを

大日孁貴神におなじうして双神に非す此の

嘗テ

夕ぐれごとに

一神陰陽を統べ給ふト在リ、且ツ

——乃至。

噛みながら

天照太神は陽の神にして大日孁貴神は

今尚モ?…

閉ざした窗の

陰の神也ト在ル

心カラ詛ッタノハ俺デコソ在ッタノデハナイカ。

さびしい思ひを

天照太神ハ伊邪那岐命ノ禊ノ見上ゲラレタ眼差シノ

目を開いた彼の周囲にかの

おぼえてゐた

大日孁貴神ハ伏サレタ眼差シノ為セル

御光明は充ち満ちて、

おののきも

造化也トモ謂ウ

空の汀の

顫へも

蒼白に霞む謂わば紛い物に過ぎない青の一種が、見あげれたその上天に、もはや脅威とすべき禍々しいほどに美しい至純の一色の青をやや紫がかって曝し、その中天に御方は逆光の眩んだ一瞬の暗転として眼差しの中に、荒らいだ炎焔を吹き乱れさせ賜うのだった。

肌にふれる日の温かさに在り難くも懐かしく御方を想い出させていただくものの、(――確かに、私の肌は、)傍らの彼の女への(その温度に)天稚彦の想いは(…じかにふれられていたのだった。)数日の前に(…と。)御父大汝神に誓ったとおりに偽りは無い。我等ヲ、…

何故にそんなに

大汝神は、

想い詰めた眼差しで

滅ボサンガ為ニノミ天ヨリ堕チテ来ラレ我等ヲ

貴方は

滅ボサンガ為ニノミ此処ニ在ラセラレル貴方ハ、…と。

総てを見い出して居るのか

宣うた。

風さえもそよがない日々の

大汝神の御眼差しの

安楽の中でさえ

何故ニ

さびしい思ひを噛みながら

捉えられた御中に在って、

あれは見知らないものたちだ…

…私ヲ赦シ賜ウノカ。

あれはもう

その、平れ伏して、

西風よ

聊カナリトモ

とざした窗のうすあかりに

決して自分をは見ようとはしない伏し目の獣じみた男は、

おぼえてゐた

我等ト争イモシナイ内ニ。何故ニ、

雨の昼に

むしろ

おののきも

貴方ハ赦スノカ。

顫へも

背後に気配を消していた彼の女の為にこそ、…然リ、と。

おぼえてゐた

彼が

あれは見知らないものたちだ…

私ハ既ニ花美シノ花弁一片ノ雫ニ至ル迄モ

夕ぐれごとに

そう

雲は死に

赦シテ居リマス。

おぼえてゐた

答えたときに大汝神は笑った。…貴方ハ、

おののきも

死ニタイノカ。

顫へも

邪神どもの

かゞやいた方から吹いて来て

跋扈する中州にあって、邪神どもを統べられた大汝神が邪神に在らざるわけはなく、であるならばその御娘に想いを赦して馴れ合わぬ肌に肌を添わさせるのは正に、かの中天の御光にあらせられる数多の血速振る神々の御嫡子たる茜差す御方への、留保も無い裏切りにほかならぬ。故に、かの永遠に中天に輝いて在らせられて、まばゆく高光る御方が、天稚彦をもはや赦すとは想われず、其れ即ち天稚彦が滅ぼされて在ること以外をは意味しない。

…然リ。

と、何の故にともなく微笑んだ儘の天稚彦がつぶやいた時には、大汝神はもはや彼の云わんとする事をは了解しつつも、

…私ハ

聴く。彼は

総てを

既ニ滅ビテ御座イマス。既ニ

彼の身に巣食って、その肉を

喜んで私は

敢えてかの神がその、彼の独白じみた言葉を聴いてやったのはただ、

貪り喰らって

捧げるだろう。むしろ

…高貴ニシテ気高ク優美ナル茜差ス御方ヲ此ノ心ノ裡ニ

わななくつづける、それら

破滅をこそ願いながらも

限りも無く愛でられ賜う御息女が

言霊どもの

あなたに

…既ニ

息吹。咬み附き

殉じるために

むしろ、

喰い散らし

いま

…御裏切リサセテ戴イテ居リマスガ故ニ。

血を啜り

此の時にさえも

天稚彦の言葉をいわばひとつの誓約即ちウケヒとして、

…ほら

その

総てはいま

音声を

誓われた

その耳に

あなたの眼差しのうちに

ふれさせることを望んでいたことを、

あなたを眼差しが捕らえたその瞬間には、私は

あなたが誓う前に

知っていたからに他ならない。…ナラバ、と。

約束してさえいた

わたしは既に

大汝神は

既に

誓っていた

天稚彦に宣うた。正ニ滅ッシテ滅シ、滅スルガ中ニモ更ニ滅セヨ。

未生の、時さえも無い時には既に

…と、

日ノ神、カノ中天デ陰ノ自ラヲ陽ノ自ラガ抱クカノ御神ニ唾シ、カノ御神ニ滅ボサレテモ尚何等考慮ニ入レズニカノ御神ヲ滅ボシ尽シテ仕舞エ。…腐乱する神。

鼓動する肉の腐乱に腐乱をかさねて空蝉の全身を腐られせた、その腐臭におびただしい花々の芳香を撒き散らす血速振る眼差しに

いま

一瞬だけ

荒々しくも魂極り

微笑まれて、大汝之神は

凄まじくも高光り

天稚彦を

冴え亘って茜差す

見詰めたのだった。

焔が私を焼き尽くす

正に、その通りに自分がいま、(―—乃至、)滅び(此れより永劫に亘って焔は)死滅して行こうとして居ることに(彼を焼き尽くし続けるに違いない。)天稚彦は何故か安堵する。灼熱の、形の無い燃え上がる日輪の吐いた光と破壊の矢は、天稚彦の口から這入って、刺し貫いた先端の肛門をまで串刺しにし、もはや一切の吐息をさえ吐く余地もない沈黙のうちに立てられる、自分自身の夥しい絶叫に、彼の存在の総てを

眼差しの先に

そゝがれて来る

聾し果てさせていたのだった。…眠リ給エ、と。

美しいものがあった。故に

うすやみのなかに

…眠リナサイ。

私は、ただ

夕ぐれごとに

彼は

その心を打ち砕いた美しさに

あれは

ドウゾ、ヤスラカニ。

焼き尽くされたのだ

見知らない

希望の果て救済の果て絶望の果てをさえ遠く越えた無窮の激痛の中に、傍らに、眠った振りをする花美しの下照姫に燃え上がる男は囁こうとしたが、

我ハ今

かゞやいた方から

もはや、

一個ノ

かゞやいた方から

彼に

純粋窮マル激痛ニ他ナラヌ

かゞやいた方から

音声など発し獲る余地は無い。血と肉の内側から燃焼しみずからの血と肉を好き放題に焼き狂う焔が、添うた下照姫の肉をまでも諸共に焼くその気配が、最早盲目の彼に容赦もない皮膚の感覚として認識されて、

わたしを

焔の中に在ってさえ

激痛のうちに

焼き尽くす永遠の焔がわたしたちに

匂い立つ花々は

安らぐ女の

永遠をこそむしろ約束するのなら

花美し香気をのみ

魂極るその

わたしはむしろそれを

撒き散らすのか

細胞の群れの絶叫をまでも感じ取っていた。地に

迷わず選ぶ

不埒なまでに

降りた彼は初めて其処に眼を見開いたときに、眼差しが見い出した花々の咲き誇って匂う色彩の奥のその翳りに、佇んで自分を見ていた下照姫に気付いた。没落即ち天降りた地上の重力にわななく大気が、天稚彦の肉体の内部に無際限なまでのこまやかな苦痛の鋭い連鎖をざわめかせて尽きず、其の時、それら囁く痛みの声の連なりに身を縮めながらも、

…其処ニ居ラレルノハ

囁いたみづからの声を天稚彦の耳はさながら

…誰デ在ルカ。

他人が耳元に喚き散らした言葉であるかのように聴いて、

貴方ガ滅ボサレヨウトスルモノ。

と、相変らず彼を見つめた続けたその眼差しに、嘆きも戸惑いも無くそのふるえる姿を捉えたままに、

皇祖眞記ニ大汝神双神ニシテ生殖ト

ややあって、

豊饒ト

果タサレマセ。

腐レル糜爛ヲ司ルト謂ウ

その紅に染まった唇に、

半神ハ大己貴命也

オ望ミニ為ラレルガ儘ニオ望ミヲ成就為サイマセ。

答えた下照姫は匂い立ってうち靡く黒髪を風が揺らすでもなく立ち尽くしたように、此ノ女ハ、と。

私ヲ滅ボスニ違イナイ。

天稚彦は確信していた。

…貴方ハ天津彦々火瓊々杵尊ヲ知ルカ。

囁いた天稚彦に、こともなげに

…知リマセヌ。

答えた彼女の眼差しの優美に

…カノ者皇孫デ在ラセラレル。貴方ハ皇孫ヲ知ルカ。

天稚彦は初めて、美しい、と

…知リマセヌ。

言霊の群れが咬みついた痛みのその

…カノ者、地ノ平ラカデ在ル事ヲ望マレル。

明確な意味を知った。

…ナラバ、

確かに、

…何故

肌にふれられたように、あざやかに、彼はそんな気がした。ややあって、

…私ヲ知ルノカ。と、問いかけた彼に、貴方ハ眼ノ前ニ、美シク其処ニ在ラセラレ正ニ坐シ坐シテ居ラレマス。

声の音響。

何故、知ラナイデ居ラレマショウカ?微笑む女の、言葉を貪り喰らった言霊の、彼自身の身に噛み付き肉を喰い千切る、その音響が耳に、ふれていた。――重力。

質量の、質量にして質量たる質量の群れのさまざまな固有の覚醒。

骨格、筋肉、筋、血管、それら、天稚彦そのもたる空蝉の肉体の総てが天稚彦に苦痛の連なりを与えて已まぬが儘に、彼はみづからの固有の痛みにひとり打ち震え、下照姫は樹木の翳を通り抜ける自分の背後にその天から堕ちたものが従って居ることには気付いていた。彼は美しく魂極り、魂極って魂極る。

質量の、質量にして質量たる質量の群れのさまざまな固有の覚醒。

骨格、筋肉、筋、血管、それら、天稚彦そのもたる空蝉の肉体の総てが天稚彦に苦痛の連なりを与えて已まぬが儘に、彼はみづからの固有の痛みにひとり打ち震え、下照姫は樹木の翳を通り抜ける自分の背後にその天から堕ちたものが従って居ることには気付いていた。彼は美しく魂極り、魂極って魂極る。