練習室を美しい空間にしよう
音は目に見えませんが、「音を聴いた」という印象は心や記憶に残ります。
それは誰か他の人が出した音とは限らず、自分で生み出した音も同じように残ります。
ただ、音を出すことに夢中になりすぎていると、その存在を忘れてしまいがちです。
よく昔のマンガやアニメで、小説家や漫画家が「ちがう!これじゃない!」とか叫びながら原稿用紙をクチャクチャに丸めてポイっと投げ、それが部屋中に散らばっているシーンがありました。
あんな状態が実際にあったのか定かではありませんが、楽器の練習をしていて、原稿用紙クチャクチャポイのような音を散らかしてしまうのは健康的ではない、と僕は思うのです。
レッスンでもそんな話をすることが多いのですが、つい夢中になってしまい何度も何度も音を出す(僕は口を挟む余地がなくて傍観)。
夢中になると言えば聞こえはいいのですが、間髪入れずに何度も何度も吹いてしまい頭の中は混乱ぎみで、セッティングや呼吸など体の使い方が崩れてしまい、どんどん求める結果から外れてしまっているのです。
大変効率の悪い音の出し方です。なので、この状態に陥った方には、僕はさきほどの作家さんの話をします。この部屋をミスした音の掃き溜めにするのではなく、美しいもの、キレイなもの、大好きなもの、愛おしいもので満たす、そんな気持ちでひとつひとつ丁寧に大切に音を出しましょう、と。
もちろん、実験や研究の段階ではたくさんのミスがあって当然です。何が正しいのか、どうすれば結果が出るのかを探す時間ですから、美しくないものが溢れてしまうことだってあります。しかし、実験や研究の段階のミスは、その中に宝石の原石が潜んでいる可能性や、方向性を決定づける証拠を含んでいることが多いので、ゴミではありません。
問題なのは、無神経に、乱暴に、心のこもっていない、目的のない(見失った)雑な音を何度も吹いて、それらに使った体力の消耗を実感して「今日はよく頑張った!(だってヘトヘトだもん)」と意味のない充足感を得てしまう行為です。
雑な音を出す習慣は、音楽や楽器に対して、それ以上に演奏を聴いてくださる方への愛情や感謝の気持ちを忘れてしまうことに繋がります。そうならないよう日頃から丁寧に、愛情を込めて音を出す習慣を持ってほしいと思います。
荻原明(おぎわらあきら)