タッチ(The Touch) その3
ピアノは、ハンマーが弦を打弦することで音が鳴ります。
演奏会やスタジオでピアノを弾くと家で弾いた鍵盤の感触がだいぶ違うことがあります。これは指先でハンマーの質感、弦、ピアノのアクション、鍵盤の調整具合を感じ取っているからです。
他人が入ってくると違和感を覚える自分から約1メートル程度の範囲。これをペリパーソナルスペースと言います。このペリパーソナルスペースは、道具を持つことによって自由に伸縮することができます。
例えばフォークを持って料理を食べるとき、私たちはフォークを通して料理の質感を感じることができます。
車を運転してトンネルに入る時、なぜか首を低くかがめることはないでしょうか?車を運転することが車と一体になりペリパーソナルスペースが広がっているためです。
ピアノを弾いているとき私たちは、鍵盤にタッチすることでピアノのアクション機構とつながり直接、触ることのない弦をあたかも直接、叩いているかのように感じる訳です。
ピアノは色が黒いものが多いのでブラックボックスに例えられます。
ピアニストは、ピアノの中身に疎いことが多いです。
中身が複雑で自分では調整できない。調律のための専門教育を受けることが少ない。等の理由を挙げることができますがペリパーソナルスペースでピアノと一体感があるので 打鍵=弦を叩く と錯覚してしまうのも理由の一つ、かもしれません。
タッチ奏法は究極的には、ペリパーソナルスペースを拡大することでピアノアクションを感じ取り弦を直接打弦することだ、ということができます。
この項では、あいまいになりがちなピアノのタッチについてピアノアクションと筋肉の関係から深く迫ってみたいと思います。
まず筋肉の基本的な働きを明解にしたいと思います。
何かの動作をするとき働く筋肉は、下記の4つの筋肉です。
・主動筋 動作の主役となる筋肉
・共同筋 主役の補助
・安定筋 動作が上手く行えるよう姿勢や関節のずれを防ぐ筋肉
・拮抗筋 主動筋と逆の働きをする筋肉
ある動作に対して一つではないんですね。
また筋肉の働き方には3つの種類があります。
・コンセントリック収縮 筋肉が収縮しながら力を発揮する
・エクセントリック収縮 筋肉が伸張しながら力を発揮する
・アイソメトリック収縮 筋肉の長さを変えず力を発揮する
3種類とも収縮という言葉になっていることに注目してください。(筋肉は自ら伸びることはない)エクセントリック収縮は結果的に筋肉が伸張します。これは引き延ばす力が強いため引き延ばされてしまうようです。
タッチはこれら3つの収縮の連続です。
・コンセントリック収縮で主動筋(手の掌側の筋肉)が収縮し鍵盤を押す。
・エクセントリック収縮で主動筋(手の甲側の筋肉)が収縮し手の掌側の筋肉が伸びて指が伸びる。
・アイソメトリック収縮で手の掌側、甲側の筋肉の力を拮抗させその状態を保ち音を保持する。
ここで疑問が湧きます。なぜ動作の邪魔をする拮抗筋が働くのだろう?
例えばボールを投げるとき主動筋だけだと投げた反動で肩がすっぽ抜ける衝撃が伝わり肩を壊してしまうからだということです。ピアノの場合、押す筋肉だけ働くともの凄く強い音がなり反作用からくる力の衝撃で指が壊れてしまうでしょう。手の甲側の筋肉が程よく働くことにより音の強さを調節し思った大きなの音を鳴らしかつ指への衝撃を減らす訳です。結構重要な役割です。
ピアノアクションは複雑、精巧、かつほとんど同時に動作が起きるのでそれらの動きを指で感知することは実際、ほとんど不可能です。
しかし比較的分かりやすい動作があります。
・ダンパーの掛かり(鍵盤を押してからダンパーの重みが加わるところ)
・ダウンウェイト(鍵盤が沈むときの重さ)
・アフタータッチ(鍵盤の底に達する1㎜ほど手前のトクっと引っ掛かるところ)
・打弦
・アップウェイト(鍵盤の戻りの力)
タッチ奏法は、指先の触覚、3つの筋肉の動作でピアノアクションの5つの工程を感じながら弾くということです。実際のインテンポの演奏では、複雑かつ速すぎて無意識的に感じて弾くしかありません。ゆっくり弱く弾く練習をするとよりアクションの動きを感じやすくなるのではないでしょうか。
*ピアノのタッチについてネットを検索していたら下記サイトで興味深いことを紹介していました。
みんなのピアノ選び
https://www.pianocafe-golowin.com/cont4/main.html
自宅のピアノのタッチについて調査を行いました。