ローマとカルタゴ
紀元前218年から17年間に及ぶ第二次ポエニ戦争は、カルタゴの敗戦で終結した。ローマがカルタゴに突き付けた講和条約は、極めて苛酷であったが、これを受諾する以外にカルタゴが生き残る道はないため、カルタゴは、これを受諾した。
この講和条約の条項は、下記の通りである(森本哲郎『ある通商国家の興亡 カルタゴの遺書』(PHP)185頁〜186頁)。
「一、完全武装解除。カルタゴは三段櫂船十隻を除いて、全艦隊をローマに引き渡し、老朽船はいっさい焼却する。また、戦闘用の象はローマが没収し、以後、象の飼育・調教は認めない。
二、カルタゴの独立は認めるが、本国以外のすべての領土を放棄すること。ヌミディアのマッシニッサが自領として主張している土地も同国に返還すること。
三、カルタゴの安全はローマが保障する。カルタゴは専守防衛の目的にかぎり、自衛軍の存続を認められるが、海外での戦争行為は絶対許されない。また北アフリカにおける自衛のための戦争といえど、ローマとの“事前協議”を必要とする。
四、本条約がローマ元老院の承認を得るまで、カルタゴに駐留するローマ軍の給与、食糧、その他、いっさいの費用はカルタゴが支払うこと。
五、脱走兵、逃亡奴隷、捕虜を無償でローマに引き渡すこと。
六、賠償金として一万タレントをローマに支弁すること。ただし五十年賦の支払いを認める。
七、十四歳以上、三十歳以下の男子百人を総司令官スキピオの人選によってローマに送ること。」
カルタゴは、屈辱に耐えながら、この条約を誠実に履行してローマの最も忠実なる同盟国になるとともに、ハンニバルの優れたリーダーシップにより、敗戦国カルタゴは、ローマの庇護の下、奇跡の戦後復興を遂げ、再び経済大国へとのし上がった。
その結果、莫大な犠牲を払って戦争に勝ったローマは、敗戦国カルタゴに対して巨額の貿易赤字を抱え込んでしまった。嫉妬、不安、憎悪、不信等がカルタゴ脅威論へと高まり、「カルタゴ、滅すべし!」がローマの基本方針になった。
そして、隣国ヌミディアの度重なる領土侵犯(ローマが裏で糸を引いていたと言われている。)に対し、カルタゴがやむにやまれず自衛戦争を開始した。ローマとの事前協議を経ずに戦端を開いてしまったことは、ローマに絶好の口実を与えることになってしまった。
第二次ポエニ戦争から52年後の紀元前149年に、第三次ポエニ戦争の火蓋が切られた。4年にわたる戦争で、カルタゴは、地上から完全に消されてしまった。国民の多くが皆殺しにされ、奴隷として売られた。農地には塩が撒かれ、農作物が育たないようにされた。二度とカルタゴが復活しないようにするためである。
ポツダム宣言とその後の占領政策は、このローマ・カルタゴ講和条約を参考にしたのではないかと思えるほど、よく似ている。当時の中産階級以上の人々は、幼き頃より古代ギリシャ・ローマの古典に親しんでいたから、似るのも当然かもしれないが、それにしても驚くほどよく似ている。
報道によれば、トランプ大統領が、日本が攻撃されれば米国が日本を守ることになっているのに対し、米国が攻撃されても日本には米国を守る義務がないのは「不公平」だと指摘した上で、「われわれが彼らを守るなら彼らもわれわれを守る必要がある」と語ったそうである。
巨額の貿易赤字に苦しむ米国と、米国の安全保障の下で経済大国に成長した日本。かつてのローマとカルタゴに重なって見える。
G 20大阪サミットでマスコミは盛り上がっているが、こういう時こそ、カルタゴの二の舞にならぬように、ポツダム宣言を改めて読んでみると良いのではないか。
「堪え難きを堪え、忍び難きを忍び、もって万世のために太平を開かんと欲す」という昭和天皇の玉音放送(大東亜戦争終結ノ詔書)も併せて読むと、先人たちのご苦労が偲ばれる。
外務省訳のポツダム宣言は、下記の通りである。
https://www.ndl.go.jp/constitution/etc/j06.html
「千九百四十五年七月二十六日
米、英、支三国宣言
(千九百四十五年七月二十六日「ポツダム」ニ於テ)
一、吾等合衆国大統領、中華民国政府主席及「グレート・ブリテン」国総理大臣ハ吾等ノ数億ノ国民ヲ代表シ協議ノ上日本国ニ対シ今次ノ戦争ヲ終結スルノ機会ヲ与フルコトニ意見一致セリ
二、合衆国、英帝国及中華民国ノ巨大ナル陸、海、空軍ハ西方ヨリ自国ノ陸軍及空軍ニ依ル数倍ノ増強ヲ受ケ日本国ニ対シ最後的打撃ヲ加フルノ態勢ヲ整ヘタリ右軍事力ハ日本国カ抵抗ヲ終止スルニ至ル迄同国ニ対シ戦争ヲ遂行スルノ一切ノ連合国ノ決意ニ依リ支持セラレ且鼓舞セラレ居ルモノナリ 三、蹶起セル世界ノ自由ナル人民ノ力ニ対スル「ドイツ」国ノ無益且無意義ナル抵抗ノ結果ハ日本国国民ニ対スル先例ヲ極メテ明白ニ示スモノナリ現在日本国ニ対シ集結シツツアル力ハ抵抗スル「ナチス」ニ対シ適用セラレタル場合ニ於テ全「ドイツ」国人民ノ土地、産業及生活様式ヲ必然的ニ荒廃ニ帰セシメタル力ニ比シ測リ知レサル程更ニ強大ナルモノナリ吾等ノ決意ニ支持セラルル吾等ノ軍事力ノ最高度ノ使用ハ日本国軍隊ノ不可避且完全ナル壊滅ヲ意味スヘク又同様必然的ニ日本国本土ノ完全ナル破壊ヲ意味スヘシ
四、無分別ナル打算ニ依リ日本帝国ヲ滅亡ノ淵ニ陥レタル我儘ナル軍国主義的助言者ニ依リ日本国カ引続キ統御セラルヘキカ又ハ理性ノ経路ヲ日本国カ履ムヘキカヲ日本国カ決意スヘキ時期ハ到来セリ
五、吾等ノ条件ハ左ノ如シ
吾等ハ右条件ヨリ離脱スルコトナカルヘシ右ニ代ル条件存在セス吾等ハ遅延ヲ認ムルヲ得ス
六、吾等ハ無責任ナル軍国主義カ世界ヨリ駆逐セラルルニ至ル迄ハ平和、安全及正義ノ新秩序カ生シ得サルコトヲ主張スルモノナルヲ以テ日本国国民ヲ欺瞞シ之ヲシテ世界征服ノ挙ニ出ツルノ過誤ヲ犯サシメタル者ノ権力及勢力ハ永久ニ除去セラレサルヘカラス
七、右ノ如キ新秩序カ建設セラレ且日本国ノ戦争遂行能力カ破砕セラレタルコトノ確証アルニ至ルマテハ聯合国ノ指定スヘキ日本国領域内ノ諸地点ハ吾等ノ茲ニ指示スル基本的目的ノ達成ヲ確保スルタメ占領セラルヘシ
八、「カイロ」宣言ノ条項ハ履行セラルヘク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルヘシ
九、日本国軍隊ハ完全ニ武装ヲ解除セラレタル後各自ノ家庭ニ復帰シ平和的且生産的ノ生活ヲ営ムノ機会ヲ得シメラルヘシ
十、吾等ハ日本人ヲ民族トシテ奴隷化セントシ又ハ国民トシテ滅亡セシメントスルノ意図ヲ有スルモノニ非サルモ吾等ノ俘虜ヲ虐待セル者ヲ含ム一切ノ戦争犯罪人ニ対シテハ厳重ナル処罰加ヘラルヘシ日本国政府ハ日本国国民ノ間ニ於ケル民主主義的傾向ノ復活強化ニ対スル一切ノ障礙ヲ除去スヘシ言論、宗教及思想ノ自由並ニ基本的人権ノ尊重ハ確立セラルヘシ
十一、日本国ハ其ノ経済ヲ支持シ且公正ナル実物賠償ノ取立ヲ可能ナラシムルカ如キ産業ヲ維持スルコトヲ許サルヘシ但シ日本国ヲシテ戦争ノ為再軍備ヲ為スコトヲ得シムルカ如キ産業ハ此ノ限ニ在ラス右目的ノ為原料ノ入手(其ノ支配トハ之ヲ区別ス)ヲ許可サルヘシ日本国ハ将来世界貿易関係ヘノ参加ヲ許サルヘシ
十二、前記諸目的カ達成セラレ且日本国国民ノ自由ニ表明セル意思ニ従ヒ平和的傾向ヲ有シ且責任アル政府カ樹立セラルルニ於テハ聯合国ノ占領軍ハ直ニ日本国ヨリ撤収セラルヘシ
十三、吾等ハ日本国政府カ直ニ全日本国軍隊ノ無条件降伏ヲ宣言シ且右行動ニ於ケル同政府ノ誠意ニ付適当且充分ナル保障ヲ提供センコトヲ同政府ニ対シ要求ス右以外ノ日本国ノ選択ハ迅速且完全ナル壊滅アルノミトス
(出典:外務省編『日本外交年表並主要文書』下巻 1966年刊)」
HUFFPOSTの現代語訳
https://www.huffingtonpost.jp/2015/08/13/potsdam-declaration_n_7985790.html
大東亜戦争終結ノ詔書(昭和二十年八月十五日)
http://www.kunaicho.go.jp/kunaicho/koho/taisenkankei/syusen/syusen.html
HUFFPOSTの現代語訳
https://www.huffingtonpost.jp/2017/08/14/emperor-broadcasting-decleartion_n_17752858.html?utm_hp_ref=jp-gyokuonhoso