瘢痕
2019.07.02 12:09
胎の底には花が咲いていた、と、思う
しろい壁が打擲の音に染まり
陶器は恟々と取り澄ましている
顔はない
顔はない
汚れた膝の間の世界だけを受け入れて
五指は宙に浮く
臓器が圧縮されて便器に吐き出される
奥歯に溜まったトマトソースを舐める
顔はない
顔はない
犬が
犬が吠える
脳の奥で五感が白熱する
「しあわせになるの!しあわせになるのよ、わたし!」
歓声は全ての昨日を無視した
膿み腐った明日が庭に落ちた
芽は、一斉にこちらを向いて
顔は
顔は
顔は
顔は
犬を跳ねた車が
走り去った