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kanagawa ARTS PRESS

Creative Neighborhoods 街と住まい 「藤野のプロジェクト」

2019.07.11 15:15

第7回

歴史的資産を活かしたまちづくりを

「藤野のプロジェクト」


ふじの里山くらぶ・横浜国立大学・相模原市の協働事業で作成した解説冊子

2015年3月


 横浜国立大学と津久井郡藤野町(現相模原市緑区)の関わりは60年に及ぶ。発端は、牧野地区で昭和30年代初期に行った古民家調査である。その成果は、古民家の建築年代を推定する様式編年手法として、民家史研究に大きな足跡を残した。

 その後、昭和50年代前半に津久井郡内の近世民家調査を行い、古民家が養蚕主体に変化発展した経緯を明らかにした。

 平成16年、藤野町の依頼で近世民家確認調査を行った結果、藤野地域は過去の調査対象の6割以上(47棟)が現存することが判明した。ただしこの中で文化財として価値付けされたのは1件だけで、多くの所有者は「歴史的資産を所有している」意識がなかった。そこで、古民家の魅力を所有者や地域の方々に周知するべく、すまいとしての古民家の履歴に注目した評価を試み、それをもとに国の有形登録文化財による顕彰を構想していた。

 なお、この地域は、かつての養蚕盛行にともなう生活文化を良くとどめ、古民家を含む歴史的環境の中で、本当の「おもてなし」が実感できる点も魅力だった。

 ちょうど平成16年は、藤野町商工会を中心に「都会の人たちに藤野を楽しんでもらう」ことを支援する地域づくり組織「ふじの里山くらぶ(以下里山くらぶ)」が発足した。早速筆者は同くらぶ幹部に「藤野の魅力は古民家を含めた歴史的資産とそれを継承する人にある」と訴えた。

 その結果「藤野の魅力再発見」と題した古民家ツアーを試行した(平成17年3月)。大学は調査実績をもとに案内役となり、里山くらぶは見学先調整や郷土食の昼食提供、古民家での抹茶体験、バス移動中のガイド役を担った。現地では所有者にもご説明いただいた。参加者は予想を大幅に超え100名に達した。ツアーの最後は意見交換会で、古民家所有者4名と建築学科教員7名がパネラーとして登壇し、藤野の魅力とその継承について、参加者全員で活発な議論を行った。

 「藤野の魅力再発見(古民家ツアー)」は、平成30年度に15回を迎えた。この間、里山くらぶと横浜国大の連携は土蔵体験修理、郷土資料館ふじや保存活用、エコミュージアム構想などに拡大し、国登録有形文化財3件5棟も実現した。調査進展が新たな見学先を開拓し、旧相模湖町や旧津久井町の歴史的資産も加え、秋の恒例行事として定着した。

 是非今年の古民家ツアーに注目して欲しい(詳細は今後ふじの里山くらぶHPに掲載予定)。

古民家ツアー 登録文化財神原家長屋門前でご当主神原武男さんに説明いただく 2011年3月

修復体験で甦った土蔵も見学先に加えた 2011年3月

日連神社境内にて社殿見学後にお囃子を楽しみながら郷土食煮団子付きの昼食


大野 敏

1962年群馬県生まれ。横浜国立大学卒業後、文化財建造物保存修復の現場で歴史的建造物の調査研究と保存修復に14年間携わる。1998年10月より横浜国立大学にて日本建築史や建造物保存修復の講義を行いながら、歴史的建造物保存継承の実践のため全国を飛び回っている。