京山幸太 独演会やジェンダーについて 2018年12月号より
2.ジェンダーフルイド
3.浪曲師として
1.独演会を終えて
―独演会お疲れさまでした。今回の独演会の主旨や特徴を教えてください。
幸:独演会は去年もやっていて、去年は師匠に出てもらいました。今年は5周年記念という事で規模も前回より大きくして、恵子姉さんに出演をお願いしました。
―独演会という会自体は幸太さんにとってどのような位置付けになりますか。
―会場は出身地の加古川でした。大阪での開催を望む声もあったと思いましたが。
幸:本当は大阪でも独演会したいんですけど、大阪って自分の勉強会もまだ少ないんですよね。地元(加古川)はやっぱり集まってくれるんで、それは大きいですね。大阪は(勉強会の)良い場所を市内で現在探し中です。
―来年も独演会はする予定ですか。
幸:来年もやると思います。加古川の独演会は自分や土地にゆかりのある方を呼んでやっていきたいなと思っています。今自分のやっている会で一番大きい公演なんで、これからも続くけていきたいと思っています。
演目に関して
―今回の独演会の演目は「寛永三馬術 度々平住み込み」と「会津の小鉄 名張屋新造との出会い」でした。この2つの演目を選んだ理由は何かありますか。
幸:お家芸であること、5周年の集大成である事から、一席は絶対に小鉄をやりたいと思ってました。それで小鉄シリーズの中から「名張屋」を選びました。それから「名張屋」が少し堅いネタなんで、笑いの入ったネタがいいなと思って、でも軽すぎないネタとなったら、覚えたばっかりやけど「度々平」がいいかなと。
―「度々平」は小鉄ありきで決まったんですね。
―小鉄シリーズは入門してすぐに「小鉄の少年時代」を覚えて、その後色んなネタを覚えてきています。自分の物になってきたという意識はありますか。
幸:そういう意識はまだないですね。小鉄はたぶんもうちょっと、いや、まだ結構かかると思います。お家芸だからこそ。
―やはり師匠との差は感じる。
―不死身の小鉄にしても、名張屋にしても、小鉄がこれから成り上がっていく話ですもんね。今の幸太さんに重なる部分もあると思います。
幸:芸には円熟というのがあると思うんですけど、小鉄に関しては、ある程度声が出る年齢までという事も逆にあるんですよ。もちろん、70代で声が出なくても芸があるから、お客さんは納得させられるかもしれない。けど、やっぱり小鉄は節ありきで、メリハリ付けて甲の高い声をずっと出し続けるネタやから、40代がピークやと思うんです。そこに向けて、今からずっとやっていきたいなと思ってて、そこまではあと15年はかかるんじゃないかと思ってるんです。
―深いですね。何代にも渡って受け継がれてきたお家芸の小鉄やからこそ、強い思い入れがある気がします。
―その時期がそろそろ来始めている、そんな事はないですか。
―新作も考えてはいるんですよね。
幸:考えているけど、力はまだそっちに入れたくないですね。ウケるからそればっかりをやろうとはなりたくはない。
―まだ、そっちにシフトするタイミングではないのですね。
幸:んー入門から10年間は。10年は今の時代長いかもしれないですけど。とりあえず、まだあと何年かは古典に逃げずに挑んで、そこで自分がどう考えるかどうかです。その時には個性として自分のやりたい浪曲をできる力があると思っていて、新作でやりたいなと思ったら新作をする。やっぱり古典やと思ったらもっと磨いたらいいと思います。
―今は師匠の芸と正面から向き合って、挑戦しているのですね。
2ジェンダーフルイド
―続いて「性」の事に関して、お話を聞かせてください。
幸:性に関しては、自分の中では全然普通に過ごしてたんですよ。自分の中では当たり前だったから。この仕事になってから、ちょっと珍しいんだなって思いました。
幸:そうですね。フルイドっていうのがまず流動的ないう意味で。ジェンダーフルイドとセクシャルフルイドというがあり、セクシャルフルイドという人たちは恋愛対象が男やったり女やったり揺れ動く。でも自分はそうじゃなくて、自分自身が男でもありたくないし、女でもありたくないという感じなんですかね。ある意味男でもありみたいな感じ。時期にもよるし。(説明するのが)難しい。
―なるほど。ツイッターでも色んな雰囲気の写真を挙げられているのを見ています。
幸:専門的な話になるのですが、タイとかだと何個も性があるんですよ。いわゆる男らしい男があって、男の中のちょっと女寄りとか、男の中の男やけど男っぽい人が好きとか、組み合わせによって何個にも分かれているんですよね。それでも本当は足りないくらいで、性は人の数だけ無限にある。それが固まっている人がほとんどだけど、どうありたいかが時期によって揺れ動くのがジェンダーフルイドですかね。でも、だからこそ、女でいたい訳ではなく、性転換もしたくない。
―それを聞くと、男か女という単純な考え方ではないですね。
幸:性的少数者と呼ばれるLGBTも今はQも加えられて、LGBT Qと言われてます。QというのはQueerの略で、LGBTに当てはまらないそれ以外の人を含んでいます。本当にいっぱい色んな人がいるんですよね。
3.浪曲師として
幸:舞台などでのメイクも自分のキャラ作りのために始めたわけではなくて、結果的にそれが珍しいってなりました。それに、師匠も目立ったら良いと考えてくれはる人やから、普通に自分の思うようにさせてもらってます。
―浪曲の口演自体にはどうでしょうか。
幸:どうなんでしょう。踊りを習ってるわけではないので、女性らしく見える仕草は知らないんですけど、前回の「不死身の小鉄」でも女性のキャラクターに対して「女っぽかった」って意見をもらえたのは自分の中に入ってるんかもしれないですね。
―演目に関してはどうですか。
―浪曲やってる最中に意識する事はありますか。
幸:ゼロではないですね。その時の気持ちで、この単語は汚いから言いたくないなと思って、言わない時もありますし。師匠がそういうのも認める人なので。アレンジするのにジェンダーも影響してるのかもしれないですね。
幸:性別を着てるような意識はあるかもしれないですね。仕事の時は男の格好をして行きますし、そんな格好だと気分も男っぽくなってきます。演目に引っ張られる事もあります。小鉄ばっかり稽古してたらちょっと男っぽい気持ちになったりとかもあるし、どっちにも引っ張られたり、引っ張ったりですね。ふあふあしてるんです。本当に。
―「ふあふあしている」ですか。なるほど、自分の知らない世界で勉強になります。今日は仕事の話からプライベートな話まで沢山お話いただきありがとうございました。
このインタビューから数日後、幸太さんが自身の心の性について語った動画をツイッターとYouTubeにアップされました。そちらも是非、チェックしてみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=0hjHYTqr1QY