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京山幸太 独演会やジェンダーについて 2018年12月号より

2018.12.09 01:00
 11月17日独演会を終えた京山幸太に独演会の事、さらに自身のジェンダーの事など根掘り葉掘り独占インタビューしました。浪曲に関しては声や節へのブレないこだわりを持ちながら、浪曲師として個性をどうするべきかなど試行錯誤もしている姿が印象に残りました。「性」に関しては、私がインタビュー内容を伝えた時に、幸太さんが「何でも聞いてください」とニコやかに答えてくれたのがとても印象的でした。不勉強な私にも、真剣に考えながら正直に答えてくださり、私自身初めて知る事も多かったです。

 浪曲師として表舞台に立ち、自身のプライベートも伝えていく、幸太さんの覚悟や想いが伝わると幸いです。

目次

1.独演会を終えて

2.ジェンダーフルイド

3.浪曲師として


1.独演会を終えて

―独演会お疲れさまでした。今回の独演会の主旨や特徴を教えてください。

幸:独演会は去年もやっていて、去年は師匠に出てもらいました。今年は5周年記念という事で規模も前回より大きくして、恵子姉さんに出演をお願いしました。

―具体的に春野恵子さんにお願いした理由は。

幸:デビュー前に浪曲聴いて、良いなとは思ったんです。けど、それが仕事として成り立つかどうかもわらなくて、悩んだ時期が少しありました。その時に恵子姉さんの存在を知って、こういう人がいるんだったら、今後浪曲が盛り上がるんじゃないかなと思ったんですよ。浪曲師もお客さんも若い人が増えるんじゃないかなと思って、これはある意味チャンスじゃないかと思いました。なので、この世界に入るきっかけにもなったのが恵子姉さんやったんです。それに、入門後もうちの師匠との繋がりもあったし、海外公演にも連れて行ってくださった。初舞台の時からずっと見てくださってるし、お世話になってる方だからこそ、5周年は恵子姉さんしかないなと思って、ゲストに来てもらいました。

―独演会という会自体は幸太さんにとってどのような位置付けになりますか。

幸:独演会はこれまでの総まとめとして、自分にとってすごい大きい存在の会やと思ってるんですよ。なので、そういう意味でも気負ってやってます。

―会場は出身地の加古川でした。大阪での開催を望む声もあったと思いましたが。

幸:本当は大阪でも独演会したいんですけど、大阪って自分の勉強会もまだ少ないんですよね。地元(加古川)はやっぱり集まってくれるんで、それは大きいですね。大阪は(勉強会の)良い場所を市内で現在探し中です。

―来年も独演会はする予定ですか。

幸:来年もやると思います。加古川の独演会は自分や土地にゆかりのある方を呼んでやっていきたいなと思っています。今自分のやっている会で一番大きい公演なんで、これからも続くけていきたいと思っています。

演目に関して

―今回の独演会の演目は「寛永三馬術 度々平住み込み」と「会津の小鉄 名張屋新造との出会い」でした。この2つの演目を選んだ理由は何かありますか。

幸:お家芸であること、5周年の集大成である事から、一席は絶対に小鉄をやりたいと思ってました。それで小鉄シリーズの中から「名張屋」を選びました。それから「名張屋」が少し堅いネタなんで、笑いの入ったネタがいいなと思って、でも軽すぎないネタとなったら、覚えたばっかりやけど「度々平」がいいかなと。

―「度々平」は小鉄ありきで決まったんですね。

幸:そうです。小鉄の中で「名張屋」を選んだのは、長いネタが続くと、聴く人もしんどいから、30分以内の小鉄という事で選びました。それに「名張屋」は女の人も出てきて、色気もあるし、カッコよさもある、好きな演目だったので。

―小鉄シリーズは入門してすぐに「小鉄の少年時代」を覚えて、その後色んなネタを覚えてきています。自分の物になってきたという意識はありますか。

幸:そういう意識はまだないですね。小鉄はたぶんもうちょっと、いや、まだ結構かかると思います。お家芸だからこそ。

―やはり師匠との差は感じる。

幸:芸ではもちろん勝てない。でも、小鉄シリーズ自体が小鉄が10代20代の頃の話が多い話じゃないですか。だから、今しかできない小鉄はあるとも思ってます。

―不死身の小鉄にしても、名張屋にしても、小鉄がこれから成り上がっていく話ですもんね。今の幸太さんに重なる部分もあると思います。

幸:芸には円熟というのがあると思うんですけど、小鉄に関しては、ある程度声が出る年齢までという事も逆にあるんですよ。もちろん、70代で声が出なくても芸があるから、お客さんは納得させられるかもしれない。けど、やっぱり小鉄は節ありきで、メリハリ付けて甲の高い声をずっと出し続けるネタやから、40代がピークやと思うんです。そこに向けて、今からずっとやっていきたいなと思ってて、そこまではあと15年はかかるんじゃないかと思ってるんです。

―深いですね。何代にも渡って受け継がれてきたお家芸の小鉄やからこそ、強い思い入れがある気がします。

幸:「弟子は師匠の半芸」といって、弟子は師匠の半分しかできないって言われる。だから同じ事をするんじゃなくて、違う路線に行く事も大事やと思うんです。けど、高い声とか迫力とかこぶしの回し方とかはちゃんと向き合った上で、路線を変えたほうが良いと思うんです。だからこそ、小鉄は挑んでいきたいですね。もしかしたら、時代とともにやらなくなるかもしれないけど。でも今は小鉄に挑戦して逃げちゃダメやなと思います。将来的に路線は変わると思いますけどね。そうなると小鉄もやらない時期が来るかもしれない。

―その時期がそろそろ来始めている、そんな事はないですか。

幸:それはまだだと思ってます。色んな考え方があると思うんですけど。自分は今5年間やって基礎なんかも全然できてなくて、今の自分がやると逃げになっちゃうちゃうかなって思ってしまうところがある。新作をやるにしても信念があるなら良いんですけど、自分は逃げに思ってしまうからやってない。まだ古典ばっかりしてます。

―新作も考えてはいるんですよね。

幸:考えているけど、力はまだそっちに入れたくないですね。ウケるからそればっかりをやろうとはなりたくはない。

―まだ、そっちにシフトするタイミングではないのですね。

幸:んー入門から10年間は。10年は今の時代長いかもしれないですけど。とりあえず、まだあと何年かは古典に逃げずに挑んで、そこで自分がどう考えるかどうかです。その時には個性として自分のやりたい浪曲をできる力があると思っていて、新作でやりたいなと思ったら新作をする。やっぱり古典やと思ったらもっと磨いたらいいと思います。

そういう風に考えてるから、自分の中では自分らしさを出すのはまだちょっと…。自分らしさも出さないといけないとは思ってるので、言葉にするのが難しいですが…。でも、今はまだ自分らしさに逃げちゃダメやなと思ってます。

―今は師匠の芸と正面から向き合って、挑戦しているのですね。

幸:どうせ勝てないんですけど、同じことしてたら。どっかで逃げざる得ないですけど、まだ逃げなくていいんじゃないかというのが、あるのかな。なかなか言葉で表現するのが難しいですね。

―それでも今現在、幸太さんがやっている事への信念が伝わりました。ありがとうございます

2ジェンダーフルイド

―続いて「性」の事に関して、お話を聞かせてください。

幸:性に関しては、自分の中では全然普通に過ごしてたんですよ。自分の中では当たり前だったから。この仕事になってから、ちょっと珍しいんだなって思いました。

―この仕事になってからですか。

幸:自分にとっては当たり前の事やったんで。

―先日SNSでジェンダーフルイドに関してコメントをされていましたが、幸太さんもジェンダーフルイドという認識でいいんでしょうか。

幸:そうですね。フルイドっていうのがまず流動的ないう意味で。ジェンダーフルイドとセクシャルフルイドというがあり、セクシャルフルイドという人たちは恋愛対象が男やったり女やったり揺れ動く。でも自分はそうじゃなくて、自分自身が男でもありたくないし、女でもありたくないという感じなんですかね。ある意味男でもありみたいな感じ。時期にもよるし。(説明するのが)難しい。

―なるほど。ツイッターでも色んな雰囲気の写真を挙げられているのを見ています。

幸:専門的な話になるのですが、タイとかだと何個も性があるんですよ。いわゆる男らしい男があって、男の中のちょっと女寄りとか、男の中の男やけど男っぽい人が好きとか、組み合わせによって何個にも分かれているんですよね。それでも本当は足りないくらいで、性は人の数だけ無限にある。それが固まっている人がほとんどだけど、どうありたいかが時期によって揺れ動くのがジェンダーフルイドですかね。でも、だからこそ、女でいたい訳ではなく、性転換もしたくない。

―それを聞くと、男か女という単純な考え方ではないですね。

幸:性的少数者と呼ばれるLGBTも今はQも加えられて、LGBT Qと言われてます。QというのはQueerの略で、LGBTに当てはまらないそれ以外の人を含んでいます。本当にいっぱい色んな人がいるんですよね。

―幸太さんが揺れ動くのは振る舞い方などジェンダー的な部分なんですか。

幸:そうなんです。あまり男らしくし過ぎるのが嫌なんですよね。でもすごい筋トレしてる時もあって、でももっと痩せればよかったって思う時期もあるし、その時期によりますよね。

3.浪曲師として

―舞台に何か影響はありますか。

幸:舞台などでのメイクも自分のキャラ作りのために始めたわけではなくて、結果的にそれが珍しいってなりました。それに、師匠も目立ったら良いと考えてくれはる人やから、普通に自分の思うようにさせてもらってます。

―浪曲の口演自体にはどうでしょうか。

幸:どうなんでしょう。踊りを習ってるわけではないので、女性らしく見える仕草は知らないんですけど、前回の「不死身の小鉄」でも女性のキャラクターに対して「女っぽかった」って意見をもらえたのは自分の中に入ってるんかもしれないですね。

―演目に関してはどうですか。

幸:日によって今日はこんな演題したいなっていうのはあります。「小鉄」みたいなのが良いのか「安珍」みたいなのが良いのかっていうのは。あと、どっちでもないような時は「牛若丸」をしたり。

―浪曲やってる最中に意識する事はありますか。

幸:ゼロではないですね。その時の気持ちで、この単語は汚いから言いたくないなと思って、言わない時もありますし。師匠がそういうのも認める人なので。アレンジするのにジェンダーも影響してるのかもしれないですね。

―なるほど、浪曲にも色んな面で影響があるのですね。今日話を聞いて、全然違うかもしれませんが、自分が朝に服を選ぶ時に「カッコイイ」にするか「お洒落」にするかなどその時の気分によって左右される事を思いました。

幸:性別を着てるような意識はあるかもしれないですね。仕事の時は男の格好をして行きますし、そんな格好だと気分も男っぽくなってきます。演目に引っ張られる事もあります。小鉄ばっかり稽古してたらちょっと男っぽい気持ちになったりとかもあるし、どっちにも引っ張られたり、引っ張ったりですね。ふあふあしてるんです。本当に。

―「ふあふあしている」ですか。なるほど、自分の知らない世界で勉強になります。今日は仕事の話からプライベートな話まで沢山お話いただきありがとうございました。

このインタビューから数日後、幸太さんが自身の心の性について語った動画をツイッターとYouTubeにアップされました。そちらも是非、チェックしてみてください。

https://www.youtube.com/watch?v=0hjHYTqr1QY