パリでも保護猫、料理家の室田万央里さんとハク&みつ
世界を見渡すと「猫や犬を飼うなら保護された子から」という考えは、常識となっていることが多い。フランス・パリもそのひとつだ。今回、パリ在住の料理家の室田万央里さんに、パリのペット事情と、実際に一緒に暮らす元保護猫たちについて聞いてみた。
パリで和食をアレンジしたケータリング業を営む万央里さんは、建築家の旦那さんと、お子さんの3人家族。猫との出会いは6年前、旦那さんと行った、パリの獣医師が場所を提供し開かれた譲渡会だった。
「最初に“ハク”(6歳/オス)を、6カ月の頃に引き取りました。当時の私はレストランで働いていて、夫も仕事で夜遅かったので、ハクさん1匹だけでは寂しいかなと思い2年後に“みつ”(4歳/メス)を。みっちゃんは当時2カ月だったんですが、もともとゴミ箱に捨てられていた子だったそうです」と万央里さん。
ハクさん
みっちゃん
フランスで生体販売をするペットショップ数は、日本より圧倒的に少ないけれど、保護犬・猫が多いのも実情。フランス最大の動物愛護協会のSPA(Société Protectrice des Animaux)の発表によると、フランス全土で毎年約10万匹の犬や猫が捨てられており、そのうち約6万匹が夏の間に捨てられている。
「こちらはバカンスを1〜2カ月とる方が多いので、その時期に猫や犬を手放す人が増えると聞きます。飼い猫には、飼い主の情報がわかるチップを入れるか、同様の情報がわかるタトゥーを耳に入れるルールがあるんですが、タトゥーが入っている耳を切って捨てる人もいるとか」
パリは大きな動物保護団体はあるが、個人で保護猫たちを一時預かりしながら、飼い主が見つかるまでのケアをしている人たちも多いという。また、パリ全体を見れば、愛情たっぷりにペットと暮らす人々が大多数を占めており、万央里さんの友人の多くも犬や猫を飼っている。
「パリは小さい街ですが、動物病院は自宅から徒歩10分圏内に3件ありますし、救急で来てくれる獣医さんもいます。それから、ここ数年パリには、オーガニックスーパーが増えているんですが、食料品以外にペットフードも充実しているんです。しかも値段はそこまで高くない。ペットに上質な食べ物を与えるのは、特別なことではないんです。ハクさんとみっちゃんもなるべくオーガニックで、余計なものが入っていないゴハンにしています。私の母親が同じ考えで、だから実家にいた猫は23歳まで生きたのかなって思うので」
子どもの頃から超猫好きだった万央里さん。日本にある実家では「猫がそこに座りたがっているからどいて」といった猫さまファーストな会話が行き交うほどだった。
一方、旦那さんはというと、ハクさんを迎え入れる前「僕は“ペットはペット”という考えだから、猫に対してドライな接し方になると思う」と言っていた。が、結局、猫に魅了されてしまう。2匹目のみっちゃんは、旦那さんが譲渡会で選んだのだから。
「うちにお客さんが来ると夫はクールに振る舞おうとするんですけど、すぐ『見て見て〜うちの猫〜!』って(笑)。2匹のことが大好きで隠しきれてませんね。夫はヒゲがフサフサなんですが、ハクさんがうちに来た頃、そのヒゲの上でモミモミし始めて寝ちゃって。それがメロメロになったきっかけだったようです(笑)」
いつの間にか寛いでいたみっちゃん
2匹の猫たちは性格がおだやかで、人慣れしていてフレンドリー。自由奔放で遊ぶことも大好きだ。
「みっちゃんは“肩乗り猫”なんです(笑)。朝起きると夫の背中に乗って、夫がコーヒーをいれて、トイレに行って、朝食を食べる間の30分〜1時間位、ずっと肩に乗っているんですよ(笑)。ハクさんは、シャイでひねくれ者の甘えん坊。脱走してアパートの地下の貯蔵庫に潜り込んでしまい、ホコリまみれで出てきた事件もありましたが、それ以外に大変だと感じることは特にないですね。しいて言うなら、私たちは黒い服が多いから猫たちの抜け毛がついて目立つことくらいでしょうか。こんなにも可愛い猫を捨てる人が世の中にいるなんて信じられない。2匹とも、毎日いてくれてありがとうって心から思える存在です」
万央里さんたちのような温かな家族といたら、猫たちにとってはそこがパリであっても日本であっても幸せに差はないだろう。ただ唯一、日本のおもちゃはすごかったようだ。
「帰国したときにいくつか買って来たら、ハクさんもみっちゃんもゲッソリするほど遊んでました」と万央里さんは笑う。パリでの生活はこれからもずっと、にぎやかな雰囲気に包まれるだろう。
PROFILE
室田万央里(むろた・まおり)
パリ在住。料理家。和食をアレンジしたケータリング業、料理教室を営む。朝日新聞デジタル『&W』にて連載「パリの外国ごはん」でイラストを手掛けている。
Instagram @maorimurota
Interview,Edit: Tomoko Komiyama / Photo: Yuko Nojima