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「おとなをつかまえよう/Voksen faelden」イブ・スパング・オルセン

2019.07.10 10:35

サリンジャーの「キャッチャー・イン・ザ・ライ」を思い出すような、愉快で切ない絵本。

イブ・スパング・オルセンの絵本の中では、表紙がそんなに可愛くないので(?)、あんまりピンと来ていない方が多いかもしれないのですが、この「おとなをつかまえよう」はすごくすごく良い絵本で、大好きです。

日本語版はもう長らく絶版…ほんとうにもったいないです…。

お話は、いつも忙しくしている両親を持つひとりの子ども、カロリーネのお話です。

カロリーネの両親は朝ごはんの時には、ほとんどおしゃべりをしません。新聞を読んでササッと食事を済ませ、すぐ仕事へ行ってしまうのです。

カロリーネは夢で見たことなど、もっとゆっくり食事をしながらおしゃべりしたいのに。

保育園にも、ともだちは沢山いて、ピア先生、ソーニャ先生ももちろん友だちだけれど、ふたりは大人だからとても忙しい。子どもの世話で大変だからカロリーネとおしゃべりする時間なんて全然ないのです。

保育園の帰りも、家に帰ってからもカロリーネは一人でお留守番。

ひとりでもへっちゃらなのですけれど、町を歩いていても、テレビを見ていても、わからないことがいっぱいあります。

「おとなはいろんなことをしっているから、だれかそばにいてくれたら、あれもこれも、ぜんぶ名前がわかるのに」「あれ、どういうことってきけるのに」

次の朝、カロリーネは早くに目が覚めます。歌を作った夢を見たのです。

いつも忙しい忙しいと言い訳ばかりの大人をつかまえて、ペットにしてしまおうと言う歌です。

大人をつかまえて飼いならしたら、何の芸ができるか見てみよう。

「おとなはみんな なにかできる おはなし さかだち それともゲーム」

「ゆったりひざに すわったら ふかふかソファーも まけちゃうよ」

「おとなが1ぴきいると あんしん あらしのよるも こわくないさ」

「手と手をつないで なかよくあるく あたしだけの かわいいおとな」

カロリーネがつくった歌をきくと、ともだちはみんな良いね!と言いました。

そこでみんな集まって、さっそく罠を作ることにしたのです。

そしてとうとう罠が出来上がりました。

ひとりくらいはすぐにかかるでしょう。いえいえ。何人もかかるかもしれません。

カロリーネの夢が本当になったら、どんなに楽しいことでしょう。

そんな楽しい日が来たら、罠は建て替えなくちゃね。

大人と子どもが力を合わせて、さあどんなものにしましょうか。

本当は寂しいはずのカロリーネの寂しさは、この絵本の前面に出ておらず、絵本全体はユーモアで覆われています。

ですからその子どもの愉快な想像力を前に、一度は通り過ぎてしまいそうになりますけれど、注意深く見れば、すぐにこの絵本の愉快なものの影には、子どもたちの寂しさがあることに気が付きます。

大人たちだってそうですよね。

素直に自分の気持をいつでも言える人なんて、どれだけいるでしょうか。

したいことも、して欲しい事も、心にしまっていて、いつも遠まわしにしか言うことが出来ない人が大多数なのではないでしょうか。

一度カロリーネの寂しさに気付いてしまうと、この絵本の最後、理想の、夢の世界の中へ飛び立っていく子どもたちを見ると、涙が溢れそうになってしまいます。

楽しくて愉快で、それでいてとてもとても切ない。

こうして読んでみると、これは別の視線から見た「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(サリンジャー)なのではないか、と言う気さえします。

大人を、子どもの世界へ連れ戻すための「キャッチャー」をみんなでやろう。

そんな絵本なんです。

現在当店にはデンマーク語原初版と日本語版の在庫がございます。

ぜひオンラインストアの方でもご覧ください。


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