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WUNDERKAMMER

ショートショート 581~590

2019.07.30 13:58

581.人魚は人間を食べると病気が治る。でも人魚は足がないから陸へ上がれなくて捕まえられないのだ。

だから後生です。貴方の肉をくれませんか。

その小さな人魚は母が母がと泣いていた。だから交渉したのだ。これがその場で一番正しい答えだった

小指のない人魚と、不老不死になった少年の物語

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582.その廃墟には蔦と埃と、古ぼけた家具が生前のまま時を止めていた。割れた窓から温度の無い風が入り込む。

暖炉の上を見ると、壁に十字に残った焼けがあった。恐らくそこには絶対たる十字架があり、誰か、きっと家主がそれだけはと持って行ったのだ。見ず知らずの深き信仰跡へを讃え、私は指を組んだ。

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583.その木箱には緻密なカラクリが施されていた。中からはコロコロと音がする。ならば開けようと暗中模索に側面をずらし、合わせ、押して、引いて、そして二時間程回していると上部に竹で出来た面が現れた。きっとこれが蓋だろう。パカリと開けると、中からは白いガラスでできた目玉が一つだけ入っていた。『箱』

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584.件が居たんです。それも二匹。

喋っていたんです

「次の戦争で米国が」とか「電子メガネ」「大麻の合法化」と、そこで未来を話題にしていると気付いたんです。驚いた拍子に足音を立てちゃって、途端に件も消えたんです。消える寸前、何かを叫んでいて、そこだけがどうしても思い出せないんです。

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585.とっくに終末などは過ぎていたのさ。だって神話には終わりが書いてあるだろう。あれからずっと、世界は死んだままなのさ。時計は何を刻んでいる?明日とはいつの事なのだ。神様の死因を知ってるかい?予言書聖書は疾うに歴史で、何も知らない無邪気な私達は、死んだこの世で、終末のラッパを夢見て眠る

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586.解けたんです。爪裏をなぞるような甘い擽ったさがじわじわと全身を覆って行き、その幸福感たるや!神に包まれるとはこの事でしょうか。解けた先は透明で、意識だけがそこにありました。次第にそれも、満足を示すかのようにふつふつと泡立ち、泡沫に空へ揺り籠の様に舞いました。これが私の死でした。

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587.「私は不死身だったのですが、ある日事故に合いまして、そこで初めて私の中身がとっくに化石に、真っ赤な蛋白石になっていた事に気付いたのです。今や体は細切れの装飾品に、頭はほら、大金持ちの宝庫にね。

私の左目にライトを照らしてみてください。開いた後頭部から燃えるような宝石が見えますよ」

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588.月光に目覚めると外から真白い月が此方を覗いていた。遂に選ばれたかと見返すとそこへ一匹の黒い蝶が舞い出た。ああ選ばれたのはこの蝶か

翌朝、外にはあの蝶の脱け殻が落ちていた

一体何に選ばれたのかは今の私では思い出せないが、きっと時折せねばならん儀式なのだと蝶を埋めながら納得した。

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589.ラピスラズリの夜が言った「私は液体である。気泡の様に君達を照らす」フローライトの昼が言った「私は風である。私を掴めるだろうか?私は常に全てである」ハウライトの白夜月が言った「私は飴である。本当の私を見ただろうか。」琥珀の月が言った「私は確実たる何かの影である。嗚呼、それだけだ」

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590.休日リビングで寝ていると金縛りにあった。目を閉じているのに部屋の様子が見え始め、本棚の近くに家族ではない人の影がみえた。そしてそれは次第に一冊を抜き、読み始めた。

やがてしっかりと目覚めたのでそこへ行くと棚にあった筈の李白詩集が出ており、覚えの無い所に栞が挟まっていた