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WUNDERKAMMER

ショートショート 561~570

2019.07.12 01:30

561.「猫は落ちると必ず足から着地する」

そんな話を聞いたので机に立ち、猫を投げてみた。するとボチャンと音がして猫が床に当り、三毛猫模様の水たまりとなった。瞬間、跳ね返りが上がると同時にまた猫の形へ戻ったのだ。「猫は液体説」そんな言葉もあったな。僕は引っ掻かれた頬を撫でながら思い出した

・・・

562.アリクイ程の小さなワルツを踊ろう

水晶の上、神様の死角にて

赤いレースは固く結ばれ、川の死者は花のリースを深く沈める

楽園だろうか

肉体は下に離れ、魂の塊が上に輝く

食べねばならぬか葉はあるか

蛇の瞳は何を見るのか

足が止まる

尊き金星と水星と地球の中へ

胎児のように眠りなさい

・・・

563.頭がどこかへ行った時、「好きなものにしたらいい」と言われたので、僕は紫色の蝶々にした。

それ以来、よく空を飛ぶ夢をみる。

ある時は誰よりも高く月へ近付き、雲の涼しさを深く吸い込んで、ある時は輝く花畑で露を飲むのだ。

今日も何処かへ行くのだろうか。今夜も窓を少し開け、眠りにつく。

・・・

564.鳥居から出ると、何かを落とした様に左手が涼しくなった。

何を握っていたかしら。振り返ると、鳥居奥の人混みから懐かしいお面を見た気がする。

私は今まで誰と歩いていたかしら。

左手を開くと、覚えの無い玩具の可愛い指輪が入っていた。

・・・

565.図書室のある本を読むと、秘密の教室に入れる。

前にそんな本を読んだ。

そういえばこの学校にもそんな七不思議があるのだが、結局のところ誰もその本がどれで、教室がどこなのかわかっていない

だが、友達の言っていた第5美術室は見つかっていないし、今私のいる第3音楽室は誰も来たことがない。

・・・

566.犬歯を剥き出して柘榴に齧り付き、水分を多く含んだ目玉をドロリと此方に向けた。

口元は赤く染まり、無残に煌めく柘榴の断面が見える。

その時私は震えたのだ。

(あぁ!僕の捕食者!)

しかし君は僕と目が合った途端、正気に戻った様に只の少女に戻ってしまった。

君は食べている姿が一等美しい。

・・・

567.そのラジオは黄昏時になると時々、物憂げなノイズと共に誰かの最期の一言を流す。叫び声や泣き声、こんな筈ではと後悔の言葉が多い中、「もしがあれば、来世でも共に」と老夫婦の微笑む声が聞こえた。

きっとそれは心中だった。ラジオの音が途切れる最中、手元のナイフが酷く無意味な物に見えた。

・・・

568.君を探しに旅をした。

北極の深海底から砂漠の洞窟、永遠の塔や図書館の隙間、鯨の夢に一足遠い宇宙まで。

結局君はいなかった。

これは見ず知らずの君を知る僕の物語。書き留めて、完成させたらいつかきっと、君になる。

・・・

569.真珠貝の装飾が光る双眼鏡は、夜になると思い出した様にレンズ奥が淡い紺色に輝く。

手に取り覗いてみると、奥に万華鏡の様に揺らぐ満月が見えた。自由の権現が如く海月や小魚が水面を漂っている。

そうか、これは真珠貝の思い出か。

今日もその双眼鏡は泡沫混じりの光を零し、遠い海の夢を見る。

・・・

570.

「ギラギラと月が鳴るこんな夜には、ただの一時だけでも、冬がくればいいと思うのだ」