ハーラン・エリスン の【世界の中心で愛を叫んだけもの】(ハヤカワ文庫)を読んで
狸や狐に一杯食わされるお噺なんてのは聞いてる分には愉快なもんですが、実は最近、僕も一杯食わされてしまいました…。
と言っても狸や狐、ましてや猫などの「けもの」に一杯食わされたわけではなく、ハーラン・エリスンのSF短編集にまんまと食わされてしまいました。あっ、どうも岩埼(♂)です。
昨年お亡くなりになったエリスンの代表作に【世界の中心で愛を叫んだけもの】(ハヤカワ文庫)という短編集がありますが、何年か前に、日本では似たタイトルのメロドラマが劇場公開されていた様ですね~。
奥付を見ると【~けもの】の初版は1979年なので、【~けもの】の方を “元祖セカチュー” と呼ばさせていただきますが、特に問題はないですよね…?
“元祖セカチュー” は全編にわたりバイオレンスかつディストピア的な世界が描かれています。
そして、かなり巧妙な作りになっています。
まず「まえがき」と第1話の表題作では難解な表現が多用されています。
「まえがき」は純粋に詩的な表現が難解なのですが、第1話の表題作は並行宇宙 “交叉時点” を題材にしているので、一般常識と照らし合わせて難解なのです。量子論や「ヒュー・エヴェレットの多世界解釈」などの予備知識がないと何の事を言ってるのかさっぱり分からないかもしれませんが、クリストファー・ノーラン監督の【インターステラー】やアニメ【シュタインズゲート】を観た事がある人ならば「はっは~ん、アレね」と分かってもらえるかと思います。
しかし! 第1話目までの難解さはミスリードだったのです!
僕は一杯食わされていたのです…。
第1話を読んでいる時点での僕は、難解な本を読む時用の脳みそにシフトを入れていました…。
ところがどっこい、2話目以降は、皆んなの大好物「大衆娯楽」のオンパレードだったのです! 脳みそユルユルです! 高級店かと思って入ってみたらナポリタンスパゲティとオムライスとハンバーグをいっぺんに出された様なもんですよ~。ケチャップベトベトエクストリーム!
「武装化したファミリーカーで決闘」「超古代文明」「サンタクロースの格好をしたスパイが悪の秘密結社から世界を救う」「吸血鬼」「惑星間の侵略戦争」「ドラッグカルチャー」など通俗的なテーマが続くのです! もう読み始めたら止まりません~っっっ
しかし!
しかし、ここでまた一杯食わされました…。
最終話【少年と犬】という物語がかなりの良い話なのです…。ケチャップベトベト料理の最後に、最高品質のコーヒーを出された様なもんです。巧妙です…。
通俗的なはずなのに、最後には良い体験をさせてもらったと思えるこの感覚…。どこかで味わった事がある様な気がして、記憶をほじくり返したのですが、【パルプフィクション】を初めて観た時の感覚に近いのかもしれません。あの時も「B級バイオレンスアクション」を観たはずなのに、何故か良いものを観た気がしたもんです。
良質な短編集は良質なコース料理と一緒で、巧妙な作りになっているな~と思ったもんでございます。
たまには一杯食わされるのも乙なもんでげす。