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定年後、荒野をめざす

もしも旅券を失くしたら 後編

2019.07.18 05:07

    首都ウランバートルでは、ナーダムが始まった。京都の祇園祭さながらに、目抜き通りを様々な民族衣装の人たちが行進していく。この日は前夜祭の宵山みたいなものだった。

  祇園祭と違うのはナーダムはモンゴル国中で一斉に始まり、競馬大会や相撲大会といったイベントがたくさん続く。


 明日から全てが休みに入ると聞いていた。行列を横目に、僕は曇った気分で、日本大使館への道を急いだ。ポケットWi-Fiの充電量が気になるが、グーグルマップのナビを頼りに歩いた。


 日本に帰るには二つの方法がある。


1. 普通のパスポートの再発行(5年有効と10年有効)を受ける。

2. 帰国のための渡航書を申請する。(帰国時の一回しか使用できない)


  1は、発行まで数日はかかる。2なら、最短翌日には帰ることができる。2を選んだ。だが、帰国渡航書を取るには帰りの航空券を見せないと行けない。


   警察署から戻ったホテルでポーズ(包子)を食べながら、旅アプリ「スカイスキャナー」と格闘した。

日時、行きたい場所を入力すれば、格安航空券が安い順番に並ぶ。


   4万円台のインチョン経由関空行きの便をいくつか予約しようとした。満席、満席、満席と続く。ナーダムの影響か。


  成田直行便があったが、ビジネスクラスしか空いていない。これは高すぎる。


  インチョン経由が一件ヒットした。チェコに事務所があるkwi.comという会社だった。クレジットカードまで入力した後、まだ予約は完了していませんで画面が止まってしまった。


  時間は刻々と過ぎる。


  諦めた。以前、イタリア留学で使ったエクスペディアのサイトに入った。インチョン経由の別の便がヒット。予約するとすぐにメールでeチケットが送られてきた。やった、と思った瞬間、kwi.comからもeチケットが届いた。



  やばい。

  ダブルブッキングしてしまった。両者ともキャンセル画面がわかりにくい。往々にしてサイトでお金を払わせる会社は、キャンセルや退会の仕方を、知恵の輪を解くように難しくしている。


  日本の問い合わせ電話番号が記載してあったエクスペディアに国際電話し、なんとか無料でキャンセルできた。


  日本大使館はウランバートルホテルから歩いて15分ほどの所にあった。

  モンゴルに来て、ホテル以外で初めて紙のあるトイレに入ることが出来た。国内線の首都の空港にも、スフバートル警察署にもトイレットペーパーはなかった。


 大使館の 二等書記官は「参院選の在外投票所を設けていまして、狭いですがどうぞ」と部屋に通してくれた。若く、親切な人だった。

 

提出した書類等は以下の通り。


・渡航書発給申請書(大使館で記入)

・免許証コピー

・顔写真二枚

・警察署が出した紛失届

・eチケット(メールで書記官のアドレスへ送付)

戸籍謄本は後日日本から郵送で可能

・現金



  そして、10日午後5時前、帰国渡航書を手に入れた。手数料5万6千トゥグルク。2500円ぐらい。

  最後に書記官に注意された。「警察署の紛失届は失くさないように」。出国審査の時、変なパスポートだと疑う役人がいる。その時、この紙を渡すといいという。実際、そうなった。

                                      ⬇️

  その夜は、スフバートル広場を散策した。ホテルのバーでウオッカを3杯飲み、早めに寝た。


  翌朝、モンゴル航空でインチョン行きのチェックインをして、問題に気づいた。インチョンからの飛行機はイースター航空という別会社だった。預けた荷物を受け取ったあと、インチョンで再度チェックインしなければならない。ということは、韓国にいったん入国して再度出国しなければならない。この頼りない渡航書で。


  案の定、韓国のイミグレーションの役人は「乗り換えならここを通る必要はない」と言った。預けた荷物を受け取らなければ乗り換え便に乗れないというと、通してくれた。


  初めての韓国。外に出て深呼吸して、イースター航空でチェックインした。出国審査もスムーズにいった。


 こういう場合は、同一航空会社で行くのが無難だと知る。そして、最後にソウルから関空まで1時間40分の短い旅は終わった。


  三回にわたって「パスポート紛失すったもんだ劇場」をお送りしました。今回は、日本語を話せるアテンドがいたのでうまくいきました。もしいなければ途方に暮れたと思います。その場合はグーグル翻訳を片手に、奮闘することになったと思いますが。スマホは旅の必須アイテムということを改めて知りました。


   最後に告白すると、パスポート紛失は2回目でした。13年前、ベルリンでやらかしていました。皆さん、海外旅行には戸籍謄本と顔写真2枚、そしてポケットWi-Fiをお忘れなく。それでは良い旅を!