エイフマン・バレエ「ロダン~魂を捧げた幻想」東京文化会館 大ホール
ロシアのエイフマン・バレエが「ロダン~魂を捧げた幻想」と「アンナ・カレーニナ」の2演目で来日公演。
あり得ない(と思える)ポーズで絡まっているダンサーたちの舞台写真を見て、「ロダン~魂を捧げた幻想」を見に行った。
ロシアといえばボリショイ・バレエ、という短絡的なイメージを持っていたが、このような興味深いバレエ団があったとは、驚いた。
全体としてバレエ作品には見えるし、音楽は有名な曲が多く使われ、音に対しての動きの付け方は分かりやすい。
おそらく特徴は、入団条件が男性は身長184センチメートル以上、女性は173センチメートル以上という体格の良いダンサーたちの肢体が、あり得ない方向にあり得ない角度で折れ曲がるところや、シリアスなソロ、デュオ、トリオと派手で愉快な群舞が交互に現れるところ、アイスショーのように色鮮やかでくるくると変わる照明などだろう。
そのようなアクロバティックな動きがエイフマン氏の振付の特徴なら、実在の19世紀フランスの彫刻家ロダンと、彼の彫刻のモデルを務め自身も彫刻家だった若い愛人カミーユ・クローデルは格好の題材だったと思われる。
圧巻はやはり、人体彫刻とでも呼べそうな、ダンサーたちを彫刻に見立てて彫って形作っていく場面と、クローデルの狂気の場面だ。
彫刻を演じるダンサーたちはベージュの下着を着けていたらしく、舞台から遠い客席からは本当の裸(ヌード)のように見えて、ドキッとした。ロダンの彫刻というよりはギリシャ・ローマの彫刻のように理想的な身体の男性ダンサーたちにはため息が出る。
クローデルの体を自在に折り曲げて彫刻を作っていくロダンには怒りすら覚える。2人のエロティックなシーンでもあるのだろうが、モデルとなっている女性自身を彫刻にしていってしまう演出により、アーティストとモデルの、対等ではない暴力的な関係が露わになるようだ。
円形のろくろみたいに回る台の上で彫刻を作っていき、時に彫刻となっているダンサーに布をかぶせたりもする。また、時折薄い幕が下りてきて舞台を手前と奥に分ける。そのような装置や演出も効果的だった。舞台に立てられた、何本もの棒を組み合わせた平面の構造物も、そこにダンサーがぶら下がったり、多くのダンサーたちが棒につかまって静止して群像の彫刻を表現したりと、独創的なダンスシーンを作るのに役立っていた。
ロダンは彫刻作品を批評家たちに絶賛されるが、クローデルの彫刻は見向きもされないようだ。緑色の服を着て赤色っぽいノートを持ったダンサーたちが批評家を表していたと思うが、コミカルな動きが面白い。
第2幕の男女の陽気な群舞のシーンは、思わず笑ってしまうほど、動き回り、飛び跳ねていて、キャバレーのダンスのようでもあり(おそらく実際にダンスホールのような場所での踊りという設定だろう)、楽しかった。このシーンを含め幾つかの場面で声が発せられるのも面白い。
クローデルは作品を作りたいのにロダンに邪魔され、おそらくロダンとロダンの妻との三角関係に陥り、正気を失っていく。冒頭や終盤などの、狂気に取りつかれたクローデルの壊れた操り人形のような危険な動きには魅了される。
ラストで、クローデルはロダンとの関係に疲れ果てたのか、精神病院の患者の列に自らそっと加わって去ってしまい、ロダンは舞台奥で大きな音を立てながら巨大な彫刻を彫り続けている。その場面で幕が下りた。
エイフマン氏は開演前のプレトークのあいさつと、カーテンコールに登場。カーテンコールで彼と主演のダンサーたちに花束を渡しに登場した人たちが子どもかと思ったのだが、よく見たら大人だった。ダンサーたちの背があまりに高いので、劇場関係者だったのだろうか、花束を持ってきた人たちがとても小さく見えたのだ。
独特な味わいのあるバレエ団という気はしたので、「アンナ・カレーニナ」も見ておこうかと思ったが、都合のつく日時では一番安いチケット(といっても6000円するが)は大体売り切れだったようなので、今回はあきらめた。また来日することはあるのだろうか?
上野にある会場の東京文化会館のすぐ近くにはロダンの彫刻を所蔵する国立西洋美術館があるので、本作品を上演するにはぴったりの劇場だったかもしれない。
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台本・振付・演出:ボリス・エイフマン(Boris Eifman)
音楽:ラヴェル、サン=サーンス、マスネ、ドビュッシー、サティ
上演時間:2時間(全2幕、休憩1回/第1幕45分、休憩25分、第2幕50分)
世界初演:2011年11月22日
【出演】
ロダン:オレグ・ガブィシェフ
カミーユ:リュボーフィ・アンドレーエワ
ローズ・ブーレ:リリア・リシュク
2019.7.18[木] 19:00 [開場 18:00 / 終演予定21:00]
2019.7.19[金] 19:00 [開場 18:00 / 終演予定21:00]
チケット料金:
S ¥16,000
A ¥13,000
B ¥10,000
C ¥8,000
D ¥6,000
使用楽曲(すべて抜粋/順不同):
<第1幕>
ラヴェル
スペイン狂詩曲 夜へのプレリュード
サン=サーンス
ピアノ協奏曲第1番 二長調 Op.17より第2楽章
「動物の謝肉祭」より“終曲”
交響曲第3番 ハ短調 Op.78「オルガン付き」より第1楽章
序奏とロンド・カプリチオーソ イ短調 Op.28
死の舞踏 Op.40
マスネ
組曲第6番「おとぎの国の風景」より“幻”
組曲第6番「おとぎの国の風景」より“バレエ”
ドビュッシー
月の光
サティ
3つのグノシエンヌ
<第2幕>
サン=サーンス
ピアノ協奏曲第2番 ト短調 Op.22より第1楽章
ヴァイオリン協奏曲第2番 ハ長調 Op.58より第1楽章
交響曲第1番 変ホ長調 Op.2より第3楽章
動物の謝肉祭より“耳の長い登場人物”
七重奏曲 変ホ長調 Op.65より第3楽章
マスネ
組曲第6番「おとぎの国の風景」より“バッカナール”
組曲第5番「ナポリの風景」より“祭り”
組曲第3番「劇的風景」より“メロドラマ”
タイスの瞑想曲
ラヴェル
左手のためのピアノ協奏曲
「ダフニスとクロエ」組曲第2番より“全員の踊り”
サティ
3つのグノシエンヌ
バレエの中で描写される彫刻作品:
ロダン作
うずくまる女
カレーの市民
永遠の偶像
考える人
地獄の門
カテドラル
クローデル作
分別の年代
クロト ほか
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