お金よりも精神と体力
10年以上前になりますが、アルバイトをしていました。最初は引越し資金を稼ぐ目的だったのですが、1年ほどで目標額に達成してもそのあとさらに4年間ズルズルと続けていたのは、その収入がやはり安定感をもたらしていたからです。
しかし、音楽と無関係だったバイトは苦痛でしかなく、こんな時間を過ごしていて良いのだろうかと常に自問自答する毎日でした。
その後、お金なんかより精神面の充実や自由になる時間のほうが大切だと判断して、バイトを辞めました。
辞めてしまえば当然バイトの収入はなくなるわけで、それが不安になるのかと思ったら、別段そこまで困るようなことは実はなくて、それよりもトランペットや音楽にかける時間がたくさん得られたことが非常に心を豊かにしてくれました。
そこで、今まで以上にブログやら教本の出版やら、自分のトランペットの練習や研究に励んでいたら、いつの間にかレッスンにいらしてくださる生徒さんが増え、バイト代以上の収入になったわけです。
なんとなく惰性でやっていたもの(しかし精神的負担は大きい)、イヤだけどお金が必要だからやらなければ、という思いで続けていたもの。そうした「本当はやりたくないこと」を思い切って辞めてしまった後のほうが良い展開になるのです。
先日も、何度言っても、何を提案しても奏者を無下に扱う「お客様は神様」主義の事務所に嫌気がさして、毎週末続けていたその仕事を大幅に減らすことにしました。
もちろんその仕事からの収入は果てしなくゼロになったわけですが、それ以上に得られる精神的な開放感に対する価値のほうがやはり高いです。まあもともと頑張って続けていてもどのくらい仕事の発注がもらえるか未知数で、ギャランティも仕事量も激減していく傾向にあった不安定仕事ですから(そのわりに拘束時間は異常に長い)、これでよかったのかもしれません。
最近、芸能界も事務所や大人の事情でタレントさんが辛い目にあっている話題が多く聞かれますが、結局昔のバブリーだったテレビ業界の頃と同じ仕事の仕方をしているから、こんなことになってしまうのだと思います。世の中はどんどん変化していて、今はもうマスコミに口を塞がせていても小さな傷口すら隠すことができなくなっているわけで、だからこんな事態に発展してしまうのでしょう。
ジャンルは違えどもタレント(奏者)派遣をする業務であることは同じで、この仕事を減らした結果、自由に使える時間が増えて体力的にも精神的にも少し安定感が出てきました。そしてやはり面白いのが、そうなってきたら違う仕事が入ってくるんですね。しかもそのほうが自分で選択できるぶん様々な面で安定している。そして楽しい。
だから僕は思うのです。お金のことが心配なのはわかるのですが、精神的体力的に辛いことからは距離をおいて、収入がもし減ってしまうとしてもゆとりを持って生きていける状況に自分を置いたほうが幸せになるのでは、と。
もちろん様々な事情があるとは思うのですが、自分が本当に望むものに近づくためには自分自身の英気を蓄えるのが先決ではないでしょうか。
それにしてもまだ時間がないなあ。1日36時間くらい欲しい。
荻原明(おぎわらあきら)