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理論の大切さとは

2019.07.31 22:26

僕はレッスンで質問責めにすることがあります。

別にいじめているわけではありません。確認しているのです。いじめたりしません。


例えば、「トランペットはなぜ音が出るのですか?」と質問をします。多くの方は「唇が振動するから」と正しく答えてくださいます。次に「ではなぜ唇が振動するのですか?」と質問すると、「空気が流れるから」と答えが返ってきます。


まだ終わりません。「ではなぜ空気が流れると唇が振動するのですか?」「それはなぜですか?」と、どんどん質問を続けていくわけです。


これは、深い知識を得るために掘り下げているわけではありません。生徒さんの中で目的を達成するための理論が正しく成立しているかを確認しているのです。


僕が質問する内容はこれまでのレッスンの中で何度も何度も話題に出してきたこと。しかし言葉というのはいっぺんにすべての情報を口にすることができず、絶対に「順番」ができてしまいます。そのために一覧表や相関図を見るような関連性を持つことが難しくなり、それが理論的な繋がりを感じさせにくくしてしまう原因のひとつです。


「一覧表」「相関図」と書きましたが、何かひとつの目的を達成するためには、いくつもの情報を手に入れ、それらを実践できる力と方法の理解が必要です。先程の話で言えば「トランペットから音を出す」ために必要なことがいくつもあり、それらの情報は関連し、つながり合っていなければなりません。例えばこのような感じです。



音を出すためには唇を振動させる

振動させるためには空気の流れが必要

空気の流れを生み出すにはアパチュアが必要

アパチュアを作るには...

...(中略)

だから音が出る、自分のすべきことがわかる



どこも欠けてはいけません。しかし、こう思う方もいらっしゃるかもしれません。「そんなに細かいことまで考えなくてもいいじゃないか」と。確かに、楽器を演奏するだけならば理論が全然なくても上手に演奏できる人はたくさんいます。しかし、正しい理論を持っているとコンディションが安定し、そして効率性の高い最短距離の練習が可能になります。それって、忙しい社会人の方や活動時間が限られている吹奏楽部の人たちにはメリットですよね。


したがって演奏するだけの人なら理論がなくても良いです。しかし、指導者はそうはいきません。理論不成立な状態の指導者が理論的なレッスンをするとどうなると思いますか?


知らないところを不確定な情報で埋めてしまうのです。


教わる側は当然その人の言うことが正しいと思うでしょうから、それを信じて不確定な行為を実践するわけです。当然理論のループはそこで繋がりを失いますから、頑張ってやっているのに目的が達成しません。人間はそれが正しいと思って実践しているのに結果が伴わないと、無意識のうちに「不足している」と思い込んでしまい、もっと力を増やしたり、頑張ってしまうのです。場合によっては自主的に異なる情報を手に入れて、あれもこれもと実践する内容を増やしてしまうこともあります。


これが「都市伝説」になるのです。


吹奏楽部が腹筋トレーニングをしているのは典型的な都市伝説です。


わかる人が見れば「何でそんな無意味なことをしているの?」と思うことが、どこかの吹奏楽部では常識として続いている状態。ツイッターでそんなつぶやきをよく拝見します。これはすべて理論が成立していない部分を中途半端な間違った情報で強引に穴埋めしてしまった惨状です。


試しに部活の時間に腹筋トレーニングをしている人や、管楽器演奏には腹筋トレーニングが必要だと考える方がいたら、以下の質問に答えてみてください。



Q.管楽器の演奏と腹筋の関係とは?

A.



Q.腹筋、と言いますが具体的にどの部分ですか?また、その部分はどのような働きをするのですか?

A.



Q.人間が日常行っている呼吸の仕組みを正確に答えてください

A.



Q.では、部活動で腹筋運動を行う直接的な意味を答えてください。

A.



これ、どのくらい正しく答えられますか?ブログなのでその回答が正しいかどうか判断できませんが、どんな角度から質問されても口ごもることなく必要な部分を正しく説明できるようでなければ、呼吸だけでなく、何についても理論的には教えないほうが良いと思います。中途半端に教えた結果、不可思議な体の使い方をし始める生徒さんがかわいそうです。その場合はもっとイマジネーションを充実させる音楽的な指導を増やしたほうが良いです。



今回、理論のお話を書きましたが、理論で人の心を感動させる演奏はできません。しかし、素晴らしい音楽を生み出すためには必要なことだと思っていますから、レッスンをする側の人としては理論という木の根を強くたくさん這わせて、まさに「根拠」のある指導をしていきたいと思っています。


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荻原明(おぎわらあきら)